お前らゾンビを殺しすぎ!いい加減にしろっ!

ちびまるフォイ

人間のカタチをしているもの

「もう我々は我慢できない!!!」


怒れるゾンビは強い口調で人間へ言い放った。


「お前ら人間ときたらゾンビを好き放題しやがる!

 去年はゾンビゲーム361本作られていたのに、

 そのほとんどすべてゾンビを殺してるじゃないか!」


「……それに何か問題が?」


「それをいいに来たんだ!

 ゾンビはお前らの残虐性のはけぐちじゃない!!」


ゾンビは痛々しい暴力描写や、生々しい残虐映像を見せつけた。


「ゾンビというだけでゲームでも映画でも、

 首を切ったり、体を爆発させたり……。

 

 それを見ているゾンビの気持ちを考えたことはないのか!?」


「だって人間じゃないし……」


「犬や猫を虐待するのはダメで、

 ゾンビを好き放題殺すのは良いってどういうことだ!」


「それは……か、可愛くないし……」


「美人はなにをやっても許されて、ブスは死んでも文句言えないっていうのか。

 そういう歪んだ倫理観や価値観がゾンビ虐待に拍車をかけるんだ!」


「……」


「ほら言い返せない!

 お前らはゾンビを実験動物かなにかだと思ってたんだ!」


ゾンビが主張すると、聞いていた客の一人が立ち上がった。


「おいおい。ゾンビのお前、まったく根本的なところがわかってない」


「え?」


「正当防衛って知ってるか?

 街に降りてきた危険な害獣がどうなるか知ってるか?」


「今はゾンビの扱いについての話を……」


「同じさ。人間に害をなす存在は、危害を加える前に殺す。

 ゾンビだって同じ。人間に襲われる前に殺さなくちゃ危険なんだ。

 だから、ゾンビを殺すのはなんら悪いことじゃない」


「ちがう! そういう話をしていない!」


「はあ?」


「この数年でゾンビワクチンにより、ゾンビを克服することもできて

 今じゃゾンビと人間は共存しているのになんで創作上ではゾンビを虐待するんだ!」


「そりゃあくまでフィクションだろう?」


「じゃあ、あんたは自分の子供そっくりの見た目の人間を

 創作だからを好き放題に虐待しても文句言わないのか!?」


「ぞ、ゾンビと人間を同じようにいわれてもなぁ」


「そういうところだ!

 お前ら人間の本性はそこにあるじゃないか!」


ゾンビはより口調を荒らげて強く主張した。


「ゾンビ犬にゾンビ猫、ゾンビサメにゾンビーバー。

 いまじゃゾンビにしてしまえば小動物だって虐待できる。

 ゾンビという扱いにさえすれば、いいわけじゃないぞ!」


「……」


会場にいる人間はなにも言い返せなくなった。


「ゾンビという社会的弱者を虐待し、

 人間どものストレスのはけ口にされるのは終わりだ!

 

 もっとゾンビに人権を! ゾンビに自由をーー!!」


ゾンビは拳をふりあげた。

その強い意思に裁判官は重い口を開く。


「……わかりました。認めましょう」


その言葉にゾンビの血色悪い顔が明るく変わる。


「そ、それじゃあ……!?」


「今回から、無害なゾンビをこれまでのように

 一方的に危害を加えるようなことは禁止します」


「やったーー!! ついにゾンビの命が認められたーー!!」


ゾンビはおおいにはしゃいで喜んだ。



その眉間を裁判官の銃弾が貫いた。



「え……」



ゾンビの最後の言葉は、意味を持たない感動詞だった。

あまりに突然のことに人間たちも言葉をうしなった。


しばらくしてから、やっと人間があわててきいた。


「ちょっ……今しがた無害なゾンビに

 危害を加えちゃいけないって決まったばかりでしょう!?

 なんで殺しちゃったんですか!」


すると、まだ白煙が出ている銃を持ったまま

裁判官は悪びれる様子なく答えた。




「人間に意見するなんて、有害そのものじゃないですか?」

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