平和な未来を…

@Rui570

平和な未来を…

 ある日、とある大企業は人工知能・デッドネットの開発に成功した。しかし、デッドネットは人類の戦争の歴史を知り、暴走。デッドネットによって生み出された戦闘ロボット・キールロイドによって人類は絶滅の危機に瀕していた。生き残った人類はヒューマノイダーズという組織を結成し、キールロイドとデッドネットに対抗するのだった。




 一人の青年が黒ずくめの男性と黒いスポーツカーに乗っている。後ろからは銀色のロボットたちがすごいスピードで迫っている。青年は窓から顔と手を出して拳銃で破壊するが、次々と迫ってくる。

「くっそぉ…キリがない…!」

「俺がやる。そこをどけ。」

車を運転している黒ずくめの男は青年に言う。

「でも、アンタは今車の運転をしているだろ。」

「分かっている。だから君が運転を変われ!」

「ああ。わかった。」

青年は急いで後部座席から運転席に移り、相棒である男性は後部座席に移った。ロボットたちが銃を構える。弾丸が男の上半身に直撃するが、男性はびくともしない。

「悪いが、俺は普通の人間のようで実際には違うのでな…」

黒ずくめの男性はそう言うとライフルを構え、レーザーを発射した。それによって大爆発が起き、追って来ていたロボットの一体が爆発を起こした。

「どうした?俺たちを殺すんじゃなかったのか?」

「おのれぇ…!」

ロボットたちは男に殴りかかるが、反撃を受けてしまい、さらには機能が停止してしまう。

「これで終わりだ…!」

そう言うと男性は通りかかった工場の石油タンクめがけてライフルを発砲した。それによって炎が上がり、爆発を起こす。ロボットたちは爆発に飲まれてしまった。

「もうすぐ隠れ家につくぞ。」

スポーツカーを運転している青年がロボットたちを倒した黒ずくめの男に声をかける。

「わかった。さっさと変えよう…未来をな…」

二人を乗せた黒いスポーツカーは人の気配のない廃墟と化した地区を突っ走っていく。




 二人を乗せた黒いスポーツカーは廃墟とした地区にある建物の一つに入っていった。デッドネットとキールロイドに立ち向かう組織・ヒューマノイダーズの本部だ。そこへ、数名の男女が二人を出迎えて頭を下げる。

「光隊長、タイムスリップ装置は完成しました。」

光隊長と呼ばれた青年はタイムスリップ装置に近づく。

「ちゃんと動くのかをテストしたことはあるのか?」

「いいえ。それがまだできていないんです。」

「そうか…」

青年はうつむいた。隊員の一人が声をかけた。

「光隊長、潜入中の我々の仲間は…?」

光隊長とその相棒である黒ずくめの男性はデッドネットの弱点を探ろうと潜入していて捕らえられてしまった隊員を救おうとしていたのだったが、潜入していた隊員は殺害されてしまった。あと一歩早ければ救うことができたはずなのに…。

「すまない…僕は隊長でありながら……」

「いいや…君だけのせいじゃない…。俺にも責任はある…」

黒ずくめの男性は光隊長の隣に立って背中を叩く。

殺された隊員はきっと悲しむのは戦いが終わってからと言うはずだ。殺されてしまった仲間たちのためにも…必ず奴らからこの世界の未来を取り戻して見せる!




 ヒューマノイダーズの本部では全隊員たちが隊長とその相棒である黒ずくめの男性を囲むように座っていた。

「諸君、先程自分はキールNと奴らの基地に潜入してきた。奴らに関する情報を手に入れるために潜入し、捕らえられた仲間を救うために……。けど、残念ながら救うことができなかった。けれど、彼はある情報を自分に教えてくれた。キールロイド最強のアンドロイド・キールUが今から三十年前にタイムスリップしたという情報だ。」

「三十年前?守隊長、それって…デッドネットが開発された時代ですよね?」

隊員の言葉に隊長は頷く。

「そう。そして、キールUはその時代の僕の両親を殺害しようとしているんだ。僕自身の誕生を阻止するために…」

それを聞いて隊員たちは騒ぎ出す。

「奴らの野望を阻止し、未来を変えるために僕自身が過去へ飛ぶ。」

「待て。俺も行く。君一人では心配だ。」

キールNと言われた男のアンドロイドは守の肩に手を置く。

「けれど、僕らがいないこの時代はどうなるんだ?」

「大丈夫ですよ、隊長。」

一人の隊員が立ち上がる。

「この時代は僕たちに任せてください!」

「私だって負けませんよ!」

次々と立ち上がって声を上げる隊員たちに守は涙を流した。

「みんな…ありがとう…。それじゃあ…この時代は君たちに任せた。」




 会議を終えた守はキールNと共にキューブ上のタイムスリップ装置をスポーツカーのハンドルに取り付けた。この装置を車や飛行機などといった乗り物のハンドルに取り付ければタイムスリップをすることができるのだ。

「ではみんな、この時代は頼んだ。過去のことは僕に任せてくれ。」

守の言葉を聞いて隊員が一斉に敬礼をすると、守とキールNを乗せた車は水色の光に包まれ、やがて消えた。




 高速道路。車が走っている途中、突然青い光が浮かび上がった。その影響で車は急ブレーキしてしまい、後ろから来た車もブレーキをかけるが、既に遅く、前の車に衝突してしまう。やがて、光は消滅した。

「な、なんだ?」

車に乗っていた人々は窓から顔を出す。そこには、警察のような服装をした一人の男性が膝をついていた。

「おいアンタ、何をしているんだ?」

車から降りた男性がにらみつけながら歩み寄る。すると、相手は何も答えずに男性の右手を掴み、投げ飛ばした。

「この時代の人間もやはり愚かで弱いな。」

男性はそう呟くと、一台の車に近づいていき、その車に乗っていた男性を強引におろした。

「光駆…梅森京子…抹殺…」

そう呟くと、車を走らせた。男性が乗った車は前の車を体当たりで強引にどかしながら進んでいく。一体どこへ向かっているのだろう…?




 大学のとある研究室。この部屋に二人の大学生がいた。

「駆君、実験で使う持ち物って持ってる?」

「うん。それじゃあ研究の準備をしようか。」

駆と呼ばれた青年は京子と共に何か実験をしようとバッグに入っている物を出そうとした。その時、突然出入り口が大きな音を立て、外れて床に倒れこんだ。

「なんだ?」

駆と京子がドアに近づくと警察官のような恰好をした男性がゆっくりと歩いてきて研究室に入ってきた。

「ターゲット…光駆……梅森京子……発見……」

駆と京子は驚きながらも少しでも距離を取ろうと後ずさりするが、男性は無言で近づいてくる。

「あのう……僕たちに何か……御用ですか…?」

駆の質問を相手は答えようとしない。

「ミッション……スタート……!」

警察官のような男はものすごいスピードで突進してきた。そして、強烈なタックルを繰り出してくる。

「京子さん…危ない!」

駆は京子を押し出した。それによって京子は突然現れた謎の男の攻撃を受けずに済んだが、駆は受けて床に倒れこんだ。

「まずはお前からだ…!」

謎の男は駆にゆっくりと近づいていく。

こいつは一体何を考えているんだ…?というかこいつは僕らのことを知っているみたいだが、一体なんで…?しかも、こいつは一体何者なんだ…?

そう思いながらも駆は立ち上がり、ロッカーへと駆け出す。そして、長いほうきを取り出して京子の方を向く。

「京子さん、早く逃げて…!」

「え……でも……」

警察のような男性は京子をにらみつける。その瞬間、駆は持っていたほうきを目の前で京子をにらみつけている男性めがけて投げつけ、京子のもとへ走り出す。ほうきが見事男性の脇腹に刺さっている。

「京子さん、ここは危険だ!」

駆は荷物を持って京子の右手を掴むと、研究室から走り出した。

 駆の反撃を受けた男性はほうきを引き抜くと、その場に投げ捨てた。ささった脇腹に穴が開いているが、一瞬でふさがれて治ってしまう。

「俺から逃げようだなんて…無理な話だな…!」

そう言って男性は研究室から出て行き、駆と京子のあとを追う。




 大学の校舎から出た駆と京子は正門を目指して走り出す。逃げた先に先程の男が行く手を塞ぐかのように飛び降りてきた。

「お前……なぜ俺たちを狙う?」

しかし、相手は何も答えずに歩み寄ってくる。二人は後ずさりするが、逆に相手が近づいてくるのでどんどん追い込まれていく。

 その時だ。どこからか黒いスポーツカーが走ってきて体当たりで男性を跳ね飛ばした。窓が開き、一人の青年が顔を出す。

「二人共、早く乗って!」

跳ね飛ばされた男性はゆっくりと起き上がると、そのまま走り出して勢いよくスポーツカーに飛びかかる。その時、運転席に座っていた黒ずくめの青年がライフルから光弾を発射して相手を撃ち落とした。

「さぁ、今のうちに早く!」

この人たちは自分たちを助けてくれたから信じてもよさそうだ。

「京子さん、乗ろう!」

「えっ?」

京子は一瞬ためらったが、どうやら今はためらっている場合ではなさそうだと感じ、乗ることにした。

「わかった。駆君、行こう!」

京子の言葉を聞いて駆は頷くと、京子の手を握って黒いスポーツカーに飛び乗る。

「よし。いくよ!」

二人が乗ったことを確認した青年はスポーツカーを走らせた。

「逃がすかぁ!」

警察官のような服装の男性もスポーツカーを追って走り出す。四人を乗せたスポーツカーと追跡してくる男の間隔が少しずつ縮まっていく。乗り物になんて乗ってもいないのに。驚くべきスピードだ。

「俺から逃げられると思っているのか…!」

そして、とうとう男は車の後部を掴んだ。

「まずい!」

助手席に乗っていた青年は懸命に腕を伸ばし、拳銃を向ける。

「やっても無駄だ…光守!」

「フン…なめんなよ…」

駆は拳銃を発砲し、弾丸が見事相手の脇腹に命中した。しかし、脇腹には穴のような跡ができているが、それがふさがっていって治っていく。それを見て駆と京子は驚きを隠せなかった。こいつは…まさか人間じゃないのか…

「いい腕だな…だが無駄なことだ…!」

そう言うと警察官のような男性の右腕が剣のように変形する。右腕の剣を振り回し、相手は襲いかかってくる。守は慌てて体を社内に戻す。

「フフフ…」

警官のような男性は冷酷な笑みを浮かべると、後ろの窓を叩きつけた。それによって窓ガラスが粉々に砕け散る。

「うわあっ!」

「きゃあっ!」

駆と京子は驚いて頭を抱える。

「フフフ……死んで地獄に落ちるがいい…!」

駆は京子を守るように覆いかぶさるが、どう考えても絶望的な状況だ。

(…もう…ダメか…)

その時、弾丸が飛んできて警官のような男性の胸部に直撃した。突然の攻撃に男性だけでなく、駆と京子も驚きの表情を浮かべる。攻撃を放ったのは運転している黒ずくめの男だった。

「隊長、こいつは俺に任せてアンタは運転を頼む…!」

「わ、分かった。」

駆は助手席から急いで運転席に移り、黒ずくめの男性は窓からゆっくりと外に出て屋根の上に乗っかると、ライフルを構えた。

「裏切り者!」

警官のような男性はそう言って左手も剣に変形させると、両手の剣で男に斬りかかった。黒ずくめの男性はライフルで斬撃を防ぎ、次の斬撃をしゃがんだりして避けていく。しかし、攻撃を受けた拍子にバランスを崩し、車から落ちそうになる。

「キールN、大丈夫か?」

「大丈夫だ。落ちそうにはなったが…」

キールNと呼ばれた黒ずくめの男性は体勢を立て直し、ライフルを構え直す。

「失せろ!」

その言葉を合図にキールNはライフルから弾丸を連続で発射した。弾丸を受けても平気な相手だが、衝撃はかなりのものでバランスを崩してしまい、地面に転がり落ちてしまった。

「今だ、加速しろ!」

助手席に座ったキールNの言葉を聞いて守は勢いよくアクセルを踏み込む。警察官のような男性は立ち上がって走り出すが、間に合わない。そして、あっという間にスポーツカーは見えなくなった。

「俺の一部を残しておいてよかったぜ…。」

俺の一部?いったいどういう意味なんだろう…?




 突然現れた襲撃者をなんとか振り切ることができた駆は隣に座っている京子を見つめる。

「京子さん、怪我はない?」

「うん。駆君は大丈夫?」

「もちろん。」

駆は運転席と助手席に座っている二人の男性に視線を移す。

「二人共、助けてくれてありがとう。二人が助けてくれなかったら…僕たちは…今頃…」

「僕たちは二人を守るために来たからこれくらいお安い御用だよ。」

運転しながら守が答える。

(二人を守るために来た?いったいどういうことなんだ?)

守の言ったことが気になった駆だが、それは京子も同じだ。

「ところで私から二人に聞きたいんだけど……」

「何かな?」

「私は梅森京子。君たちって何者なの?」

「そうだ。それ僕も聞こうと思っていた。僕は光駆。」

それを聞いて助手席に座っている黒ずくめの男性が答える。

「これは失礼した。俺の名はキールN。正式名称はKI-LL ROID NEO(キールロイド ネオ)だ。彼の名は光守。彼は俺と一緒に30年後の未来から来たアンタたちの息子だ。」

 未来からきた?キールロイド?僕たちの息子?この人は一体何を話しているんだ?

「悪いんだけど……言っていることが正直…よくわからないかな…」

駆は困った表情をなんとか隠そうと苦笑いをする。京子も苦笑いをする。

「たしかに…そんな変な話……」

「本当だよ。自分の目で見たでしょ?」

守が京子の言葉を遮る。

「分かっていると思うけど、さっき僕らを襲ったのは人間のようで人間じゃない。」

「よくわからないけど…さっき僕らをやっぱり人間じゃなかったか…」

駆が呟くと助手席に座っている男性が話し始めた。

「デッドネットという人工知能が未来の世界で暴走しているんだ。元々は社会を明るくするために梅森コンツェルンに開発されたんだけどな。デッドネットによって生み出されたスーパー人型ロボット・キールロイドによって未来では人間たちが全滅の危機に陥っている。奴らは液体金属でできた最強の戦士・キールUことKI-LL ROID UNIVERS(キールロイド ユニバース) をこの時代に送り込んだ。光守の誕生を阻止するためにな。」

それを聞いていた駆と京子は驚きの表情を隠せなかった。この二人の言っていることは本当のことだった。キールNは話を続ける。

「ここにいる光守は未来の世界ではキールロイドとデッドネットに対抗する組織・ヒューマノイダーズの隊長を務めている。」

「そういうことだよ。僕たちはキールUを倒し、まだ開発されていないデッドネットの開発を止めるためにこの時代に来たのさ。けれど、キールUは体が液体金属でできているから体を変形させるだけでなく、再生もできちゃうからキールロイドとは強さの次元が違うんだ。」

「なるほど。その…今君たちが言ったキールなんとかというのはさっき僕たちを襲ってきた奴のことなんだね?」

「そうそう。父さん、母さん、理解してくれたかな?」

「まあ…なんとか…」

なんとか駆は理解できたようだ。その一方でなぜか京子は複雑そうな表情を浮かべている。

「どうかしたの、京子さん?」

「梅森コンツェルンが……私のお父様が経営している会社が…デッドネットを開発したって…」

梅森京子は梅森コンツェルンの御令嬢でもあったのだ。

(そう言えば母さんは梅森コンツェルンの御令嬢であったけど、制限のある生活で怒って家出をしたみたいなことを未来で言っていたな。)

守は少年時代に母から聞いたことを思い出したが、あえて口にはしなかった。

「ひと月になったことがあるんだけど…」

「何かな?」

駆の一言に守が耳を傾ける。

「キールNもキールロイドなんだよね?」

「そうだ。それがどうかしたか?」

助手席に座っているキールN本人が問い返す。

「あなたはキールロイドなのになんで僕たちを助けてくれるんだい?」

「俺も元々は最新式のキールロイドとしてヒューマノイダーズと敵対していた。だが、キールロイドに対抗できる強力な仲間になるかもしれないという守隊長の考えから再プログラムされた。そして、今はヒューマノイダーズの一員として戦っているのだ。」

「そうか…わかった。」

黙って聞いていた駆は頷いた。




 駆たちを逃がしたキールUはとぼとぼ歩きながら考え事をしていた。デッドネットと我々キールロイドが支配する未来のために一刻も早く光駆と後に結婚することになる梅森京子を殺し、光守の誕生を阻止しなくては…!でも、奴らをどうやって殺せばいいのだろう。

その時、キールUは駆と京子が通っている大学のことを思い出した。

あそこの学生どもに色々と情報を聞くとするか…!

キールUは冷酷な笑みを浮かべると、正門を潜り抜けて駆と京子が通っている大学へと入っていった。

 キールUが再び大学に侵入した直後、学生や教授をはじめとした多くの人々の悲鳴が響き渡り始めた。キールUによる大量殺人が行われているのだ。




 キールUが大学で大量殺人を犯していることを知らずに駆と京子、守、キールNの四人は何も知らない。

「ところで、僕たち帰らないとなんだけど…」

「家に送りたいところだけど…やめた方がいい。奴が父さんと母さんの家で待ち伏せしている可能性があるからね。」

「そっか…そう考えると怖いよね…」

「一応聞いておきたいんだけど、今二人って付き合っているの?」

「えっ?付き合っているけど…なんで…?」

「別に…。僕が子どもの頃に学生時代の頃に付き合い始めてそれから結婚したとか聞いたからさ。あと学生時代は同居生活をしていたことも聞いたよ。」

「そうよ。私が両親に反抗して家出をした直後に駆君と出会って駆君のマンションで同居生活を始めた感じ。」

その時、駆の携帯電話が鳴り始めた。

「こんな時に誰だろう…?」

駆が電話を見ると、友人である男子学生・杉浦慎が表示されている。どうしたんだろうと思いながらも駆は電話に出る。

「はい、もしもし?」

しかし、相手は杉浦慎ではなかった。

「やあ、光駆。君のお友達の杉浦慎君のスマホを借りて電話をかけさせてもらったよ。」




 大学では悲鳴を上げながら逃げる大学生たちに攻撃しながらキールUが駆に電話をしている。その横でキールUが使っているスマホの持ち主である大学生・杉浦慎が血を流して横たわっている。帰宅しようとした瞬間にキールUと鉢合わせになり、殺害されてしまったのだ。キールUは左手でスマホを持ち、右手だけ使って学生たちを殴り倒していく。

「君と恋人の梅森京子君が今すぐに大学に来れば君のお友達や罪のない命は助かるかもしれないよ。今すぐに戻らないと多くの命が犠牲になるぞ…」

キールUは嘲笑うように言って次々と大学生たちを血祭りにあげていく。




 キールUに襲われ、逃げ惑う大学生たちの悲鳴は電話越しにも聞こえてきた。

「やめろぉ!関係のない人たちを巻き込むな!」

駆は電話越しにいるキールUに向かって大声を上げる。

「悔しかったら今すぐに大学へ戻ってきなさい。戻らなくてもいいが、その時はここにいる君たちの大切なお友達の命はなくなっているぞ。君たちの命も私がもらいに行くんだがね。ハッハッハッハ!」

笑い声の直後に電話が切れた。

「守、僕を車から降ろしてくれ。」

「悪いけど、危険だ。奴の狙いは父さんと母さんなんだよ!父さんと母さんが死んだらタイムパラドックスで僕は消滅してしまうんだよ!それでもいいの?」

「……でも………友達を見捨てるなんてできないよ!」

そう言うと駆はドアを開けて外に出ると、そのままスポーツカーとは反対方向へと走り出した。

「よせ!今すぐに戻ってこい!」

キールNも窓を開けて大声を上げるが、駆はどんどん走っていってしまう。

「二人共、ここは私に任せてくれない?」

「お言葉だけど、母さんもキールUに狙われているんだよ。だから、勝手な行動は…」

京子は未来から来た息子の話を遮るかのようにスポーツカーから降りる。

「ちょっと!もしもアイツに攻撃をされたら…」

「分かっている。駆君を連れ戻すだけだから大丈夫よ!」

そう言うと、京子は駆のあとを追って走り出した。




 未来から来た息子・守の制止を振り切った駆はたった一人で大学を目指して走っていく。そこへ、京子が走ってきて駆に追いつく。

「駆君!」

「京子さん、ダメだ。危険だから早く戻ってくれない?」

「悪いけど、そういうわけにはいかないから。」

京子は駆の顔をじっと見つめる。駆も見つめ返す。

「京子さん、たしかにキールUは僕だけでなく、君のことも狙っている。けれど、僕は君だけを失いたくないんだ。」

「駆君、聞いて。」

京子は駆に歩み寄る。次の瞬間、京子は駆に思いきり抱きついてきた。突然の行動に駆は驚きの表情を浮かべながらも京子を抱きしめ返す。

「駆君、私たちが出会ったあの日のことを…覚えてる?」

「えっ?覚えているけど…」




 今から3か月ほど前。大学卒業してこれからのことを話し合いの末、両親と口論になってしまった京子は家出をしたのだ。しかし、京子には帰る場所が一か所しかない。

その時だ。

「そこの君、どうかしたの?」

18歳くらいの少年が声をかけてきた。同じ大学で共に液体金属に関する研究をしている光駆である。

「あなたは…同じ大学の…」

「ああ。僕の名は光駆。」

「べ、別に…何でもないよ…」

駆は大きい荷物を持って立ち去ろうとする京子の肩に手を置いた。

「なにかあったみたいだね。話してよ…。」

京子が駆の方を向くと、駆は真剣そうな表情で京子を見つめていた。

「私…両親と揉めちゃって…家出してきたの。でも、家出した後に関して何も考えていなかったから……」

「そっか。じゃあ…よかったら…僕と一緒に暮らさない?」

その言葉を聞いて京子は驚きを隠せない。

「えっ?でも、それだとあなたに迷惑がかかっちゃうよ。だから…それはできないよ。」

「大丈夫だよ。僕たちは大学でも協力して液体金属の研究をしている仲間じゃん。だから、協力し合って一緒に生活しようよ。もしも、君がピンチになったら僕が全力でフォローする。僕がピンチになったら君も僕をフォローして。」

それを聞いた京子は黙りこんだ。そして、ようやく口を開く。

「ありがとう…。それじゃあ改めて…梅森京子です。今日からよろしくお願いします。」

京子には笑顔が浮かび上がっていた。駆も笑顔で見つめ返す。




 京子と出会ったあの日のことを駆は思い出していた。

「京子さん、ごめん。僕は大切な君を守りたかっただけなんだ。」

「謝ることじゃないよ。とにかく未来のために私も駆君と共に立ち向かうよ。」

「ありがとう。」

駆は抱きしめている目の前の恋人に顔をゆっくり近づける。京子も目を閉じて駆に顔を近づけていく。二人の口が重なり合おうとした瞬間、一台の車のクラクションが鳴り響いた。

「今お取込み中だったかな?」

気がつくと、光守とキールNの二人を乗せたあの黒いスポーツカーが止まっていた。二人のことが心配になったから追いかけてきたのだ。




 駆と京子は黒いスポーツカーの後部座席に乗ると、運転席にいる守が声をかけてきた。

「母さんが戻ってこないもんで追いかけてみたら…そういうことだったのね。」

「ごめんね。心配かけたね。」

京子が謝罪すると、キールNが振り向いた。

「あの後二人で話し合った。大勢の命が襲われているというのに逃げてばかりいたら未来なんて変わらない。そう感じたから俺たちはアンタたちを追いかけてきた。」

それを聞いて駆は頷く。

「それじゃあ…僕たちが通っている大学に行って…みんなを救おう…!」

それを聞いた守は運転席のアクセルを踏み込んだ。それによって、四人を乗せた黒いスポーツカーは猛スピードで走り出す。キールUによって大量虐殺が行われている大学へ…。




 その頃、キールUは腰を抜かして逃げられない一人の男子大学生にゆっくりと近づいた。キールUは笑みを浮かべて腕を剣に変形させる。

「頼む!助けてくれ!助けてくれ!助けてくれ!」

男子大学生は必死に命乞いをするが、キールUは剣で容赦なく男子大学生を切りつけた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

キールUが男子大学生を殺害した直後にパトカーが走ってきた。そのパトカーから二人の警察官が拳銃を構えて走ってくる。

「おい、お前!そこを動くな!両手を上げろ!」

しかし、キールUはゆっくりと歩み寄ると、指先から細長い針を伸ばした。

「う……」

指先から伸びた細長い針が一人の警察官の胸部を貫通し、警察官はその場で倒れこんだ。

「このぉ…化け物がっ!」

もう一人の警察官は拳銃から弾丸を数発発射した。しかし、液体金属でできた最強のキールロイドであるキールUにはそんなもの一切通用しない。

「残念ながら…貴様らには俺を倒せない…。いや、誰も俺を倒せない…!」

そう言うと、キールUは右手で警察官の腹を殴りつけた。その拍子に警察官の右手に握られていた拳銃が床に落ちる。キールUは左手で警察官の首を掴み上げた。

「ぐ…あ…は、離せ…」

警察官は足をばたつかせるが、キールUはびくともしない。キールUは首絞めている警察官をじっと見つめて笑みを浮かべると、さらに強く締め付けた。

 グキッ。警察官の首の骨が音を立てて折れてしまう。

その時だ。一台の黒いスポーツカーが走ってきた。そこから窓を開けて駆が顔を出す。

「お前の狙いは僕たちだろ?こんなことをして僕たちを呼び出すとは…卑怯極まりないな。卑怯な奴ほど弱虫の証拠だ。」

それを聞いてキールUは笑みを浮かべるが、すぐに真顔になって黒いスポーツカーをにらみつける。

「フン。俺をなめたものは…皆…命も未来もない…!」

キールUは右手でつかんでいた警察官の遺体を放り投げて捨てると、四人が乗っている黒いスポーツカーに駆け寄った。

「みんな、しっかり摑まってろ!」

運転席に座っている守もスポーツカーを走らせた。キールUもスポーツカーのスピードに負けていない。

「生きて帰れると思うなよ!」

キールUは両腕を剣に変形させると、そのまま黒いスポーツカーに飛びかかった。

「俺がいることを忘れるなよ、キールU!」

キールNは窓を全開にし、上半身だけを出してそのままライフルを発射した。

「うぉっ!」

弾丸が直撃した衝撃で宙に浮いていたキールUは地面に転がってしまう。

「おのれぇ…!」

キールUはすぐに立ち上がって、猛スピードでスポーツカーの背後まで走ると、腕を鉤爪に変形させて後ろのワイパーに引っ掛けた。

「くっそぉ…僕のスポーツカーに傷つくだろうが…!」

そう言うと守はキールUを吹き飛ばそうとハンドルを勢いよく回し、スポーツカーを回転させる。しかし、キールUは鉤爪に変形させた手を放そうとしない。

「これでも喰らえ!」

キールNがライフルから弾丸を発射する。キールUは右手でそれを防いだ。その直後にまた別の弾丸が発射され、キールUの左手に直撃する。

「ぐわっ!」

思いもよらない攻撃を受けたキールUはスポーツカーのエンジンに誤って触れてしまう。その瞬間、キールUの右手が溶け始めた。

「まずい!」

キールUは慌てて手を放し、地面に倒れこんだ。今ここで俺がやられたら光駆も梅森京子も殺害できないし、光守の誕生を阻止することすらできない。ここは一旦退くとするか…

キールUは立ち上がると、四人を乗せたスポーツカーとは反対方向へと歩き出した。溶けかけた右手もゆっくり元通りに治っていく。




 キールUが遠ざかっていく姿はスポーツカーからも見える。

「あれ?なんでアイツ追いかけてこないんだろう…?」

「もしかして…私たちを守るために来た二人が怖くて逃げたんじゃないの?」

京子は笑顔で言うが、守は首を振る。

「いや、アイツは何か作戦があるんじゃないかと僕は思うな。」

「とにかく…この後どうする?」

キールNがそう言うと、京子が問問い返してきた。

「ねぇ、梅森コンツェルンがデッドネットを開発したって言っていたじゃん?」

「ああ。あんたの父が経営している大企業だ。」

キールNが答える。

「こっちの時代の方だとデッドネットはまだ完成していないから、デッドネットの開発を今から止めに行こうよ!」

それを聞いて駆は驚く。

「京子さん、それはいいと思うけど、君は僕と同居生活を始めてから一度も実家に帰っていないじゃん?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

駆は複雑そうな表情を浮かべる。

「家出をして未だに和解もしていない状態でデッドネットの開発を中止にするよう頼んでも頼みを聞いてもらえないかもしれないよ。」

「たしかに…。そうなると…」

「でも、やるしかないよ!未来のために…!守、お願い!」

守は複雑そうな表情を浮かべながらもカーナビを梅森コンツェルン本部に設定し、スポーツカーを走らせた。

 スポーツカーの後ろの部分にキールUの鉤爪の先端がついている。キールUが発信機として自らの体から切り離し、貼りつけておいたのだ。これで情報を盗むこともできるだけでなく、どこにいったのかがわかる。ことに四人は気づかなかった。




 キールUは右手を見つめる。今はもう完全に治っているが、先程はスポーツカーのエンジンの熱で少し溶けてしまったのだ。

(さっきはヤバかったな。気をつけないと…失敗どころか俺自身がやられちまう…)

駆たちは見事逃げられてしまったが、キールUには焦る様子はない。

「俺の一部をつけておいたからどこへ逃げてもすぐにわかるさ。」

そう言うとキールUはそのままどこかへと歩き出した。




 町にある大きな屋敷。ここは梅森京子の実家でもある屋敷だ。この屋敷のとある部屋で梅森京子の父でもある梅森コンツェルンの社長・梅森優はパソコンを必死に捜査していた。その時、誰かが部屋のドアをノックしてきた。

「入ってきたまえ。」

「失礼いたします、ご主人様。」

入ってきたのは執事を務めている男性だ。

「梅林君か。どうかしたのか?」

「ご主人様、京子お嬢様がご帰宅されました。」

「何?」

梅林と呼ばれた執事の一言を聞いて優は驚く。




 駆、京子、守、キールNの四人は黒いスポーツカーに乗った状態で豪邸の前を塞いでいる門の前で待っていた。京子は複雑そうな表情を浮かべていた。両親と再会するのはずいぶん久しぶりだけど、両親は自由な暮らしなどをさせてくれずに厳しい教育ばかり自分に押し付けてきた。だから家出をしてしまった。だから、再会して喜べばいいのか嫌がればいいのか全く分からない。

 やがて、門が開いて数人の男性が歩いてくる。全員黒いスーツに黒いネクタイを身につけているのが特徴的だが、先頭に立っている中年の男性を除く全員が黒いサングラスをかけている。

「久しぶりだな、京子。」

先頭に立っている一人の男性が声をかける。先頭に立っているのは京子の父・梅森優だ。

「お父さん……」

京子も車を降りてまっすぐ父を見つめる。

「勝手に家を出て行ってしばらく経って戻ってきて…一体何をしに来たんだ?」

優の隣に一人の女性が歩いてくる。優の妻で京子の実の母でもある梅森里奈だ。

「そんなことより…この世界の未来がかかっているの…!」

「何を言っているのかしら?まさか…変な人と仲良くしているんじゃ…」

「そんなんじゃない!大事な話があるの!」

その一言を合図に車に乗っていた駆、守、キールNが車から降りて京子の横に立つ。

「なんなんだ、君たちは一体?」

「はじめまして。京子さんのご両親でお間違いないですね。私京子さんと同居している大学一年の光駆と申します。」

「同居だと?何を言っているんだ…?とにかくこいつらを捕らえろ!」

優の指示に従い、ボディーガードの男性たちが駆け寄って駆、守、キールNの三人につかみかかった。

「ちょっとお父さん!駆君たちは何もしていないよ。やめて!」

「京子、帰ってきたばかりで悪いが一体どういうつもりなのか話し合おうじゃないか。」

「待ってよ!今はデッドネットを開発中なの?」

デッドネットを開発中なのかだって?なんでこんなことを聞いてくるんだ?

そう思いながらも優はあえて口にしなかった。

「だったらなんだ?」

「開発中なら今すぐに開発を中止にして!未来の世界が危ないの!人類滅亡の危機なの!」

京子は必死だが、優も里奈も嘲笑うように言う。

「未来の世界だなんて…未来のことなんてわかる訳ないでしょ…」

「それに…身勝手な行動をとるお前の言うことなど父さんと母さんがすると思ったか!」

その時、ボディーガードの一人が吹っ飛ばされてきた。

「社長、あの黒ずくめの男ですが、人間ではないと思われます。」

「何?」

優はキールNの方に視線を移して目を丸くした。そこではキールNがボディーガードたちの手を必死に振りほどこうと抵抗している姿だ。大勢いるボディーガードもかなりと言っていいほど苦戦している。

「彼女の言っていることは本当だ。それに俺は人型アンドロイド・キールロイドだ。」

「そ、そんなことがあるかぁ!」

優はキールNに近づくと、顔面を殴りつけた。しかし、キールNはびくともしない。それどころかこの感触は人を殴ったはずが、まるで機械を殴ったかのようだ。超合金でできている。

どうやら京子の言っていることは本当のようだ。

「京子、すまなかった。詳しいことを話してくれないか?」

京子は両親をまっすぐ見つめてこくりと頷いた。




 駆、京子、守、キールNの四人は京子の両親と執事に丸いテーブルと椅子が並んだ広い部屋へと案内された。

「君田たちの説明を聞く前に先に言っておく。先程はすまなかった。」

「信じられないかもしれないけど、分かってくれたなら大丈夫だよ。そんなことよりお父さん、説明を聞いて!」

そこへ、スーツ姿の男性がコーヒーを差し出してきた。

「よろしければどうぞ。」

「あ…ありがとうございます…」

駆は頷く。

「僕は今から30年後の未来から来た光駆です。僕の住んでいる未来では梅森コンツェルンによって開発された人工知能・デッドネットとデッドネットの暴走によって人類が全滅の危機に瀕しているのです。僕とキールNはデッドネットの開発を阻止するために未来からやってきました。」

「デッドネットの暴走で人類が滅亡の危機……」

未来から来た孫にあたる青年・守の話を聞いて京子の両親は驚きを隠せない。

「お父さん、さっきも聞いたけど、デッドネットの開発に関してはどうなっているの?」

「デッドネットは開発を開始したばかりだ。だから、今ならまだ間に合う。」

「それなら今すぐに開発を止めれば未来を変えることができる。」

守は顔を輝かせた。

「よし。それじゃあ今すぐに開発を止めようぜ。」

キールNが立ち上がった直後だった。

「待ちたまえ。私から君に聞きたいことがある。」

優はキールNを止めた。

「キールN、君は先程キールロイドと言っていたが、キールロイドとは一体なんなんだ?」

「キールロイドはデッドネットによって生み出された戦闘アンドロイド。俺もキールロイドだが、人類に再プログラムされたことで現在は人間たちに協力をしている。」

「なるほど…。大体わかった。それじゃあ、デッドネットの開発を中止しないと…!」

駆、京子、守、優、里奈、キールNは立ち上がって歩き出した。開発中のデッドネットを止めるために。

しかし、彼らは気づかなかった。キールUの魔の手がすぐそこまで迫っていることを…。




 駆たちを乗せた黒く長い車が夜の道路を走っている。梅森コンツェルン本部に向かっているのだ。

「お父さん、私たちの命を狙ってくるもう一人のキールロイドがいるの。」

「なんだって?」

「それは僕の誕生を阻止するためなんです。」

守が代わりに答える。

「君の誕生?訳を説明してください。」

里奈が首をかしげる。

「守は…彼は…未来から来た光駆と梅森京子の息子だ…。あんたたちから見ると…孫だ…」

キールNが守の代わりに答える。

「守は未来の世界だとキールロイドに対抗する組織のヒューマノイダーズを率いている。」

そうか。駆君の私たちの娘を殺害すれば光守は誕生しなくなる。それだけじゃなく、ヒューマノイダーズという組織もなかったことになってしまう。優と里奈はようやく理解した。




 やがて、駆たちを乗せた車は梅森コンツェルンの本部に到着した。

「ここが…梅森コンツェルン…」

目の前に建っている大きな建物に駆は圧倒されていた。

「みんな…こっちだ…」

優に先導され、駆たちは建物の中へと入っていく。

「まさか未来ではとんでもないことになっているとは思ってもいなかった。守君、すまなかったな。」

「いいえ。そんなことより、今はデッドネットを止めるために力を合わせましょう。」

その時だった。

「やぁ諸君!悪いが、デッドネットの開発を中止にはさせないぞ。」

振り向くと、そこにはキールUの姿があった。

「お前、どうしてここに…?」

「先程の鉤爪の先端をお前たちの車につけておいたのさ。今は梅森京子の父の車へと移動したんだがね。」

キールUの言葉を合図に先程駆たちが乗っていた黒いスポーツカーに貼りつき、その後に誰にも気づかれないように京子の父の車に貼りついていたキールUの一部が窓から建物の中へと入ってきてキールUの体に戻る。

「アイツもキールロイドか…?」

「奴はキールU。液体金属でできた最強のキールロイドです。」

驚きながら口を開く優に対し、駆が答える。キールUは両腕を剣に変形させて近づいてくる。優と里奈は驚きのあまり尻餅をついてしまう。

「デッドネットの開発を中止になんてさせんぞ!」

キールNもライフルを構える。

「貴様らもここで終わりだ!死ねぇ!」

キールUは両手の剣で斬りかかった。キールNはライフルを両手で持って斬撃を受け止めると、そのまま弾丸を発射する。弾丸が命中した衝撃でキールUは倒れこむ。

「奴は俺に任せろ!あんたたちはデッドネットの方を頼む!」

その言葉の直後にキールUが飛びかかってきた。右手の剣がキールNの肩に直撃する。

「キールN、大丈夫か?」

守が助けようと駆け寄った瞬間、キールNが大声を上げた。

「来るな!あんたたちはデッドネットを頼むよう俺は言ったはずだ!」

「わ、分かった。」

守たちはその場からコンピュータールームへと走り出した。




 たくさんの黒いパソコンが並んだコンピュータールームに到着した駆たちに優が声をかける。

「一番前にある銀色のパソコンなんだが、あのパソコンは私専用のものだ。会社用として使用しているパソコンで私はデッドネットの開発を進めているんだ。」

「なるほど。それなら急いで止めましょう。」

駆の言葉に優は頷いてパソコンの電源を入れ、操作し始める。パソコンには様々なプログラミング言語が映し出されている。それを見ている駆たちには何が何だか分からない。




 外に出たキールNとキールUは激しい戦いを繰り広げていた。

「裏切り者め…。だが、液体金属でできている俺とは違うお前は勝とうが負けようが、存在自体が消滅するんだよ。タイムパラドックスでな。」

タイムパラドックスとは「過去に遡ることが可能」と仮定すると起こってしまう矛盾(パラドックス)のことである。つまり、デッドネットの開発を中止にすることでデッドネットそのものはなかったことになり、デッドネットに生み出されたキールロイドという存在もなかったことになるのだ。

「そんなことは分かっている。これで人間たちも平和な未来を掴み取れるに違いない。もしも、俺がお前に負けたとしてもデッドネットの開発を中止にさえすればお前も消滅する。」

「それなら…デッドネットの開発が中止される前にお前も…光駆たちも殺してやるぅ!」

キールUは左腕を鉤爪に変形させると、キールNの腹を殴りつけてひるんだすきをついて首に引っ掛けた。そして、剣に変形した右腕をキールNの腰に突き刺した。

「ぐぉぉ…!」

攻撃を受けたキールNは膝をつき、口から緑色の液体を吐き出した。しかし、キールUは容赦なく攻撃を続ける。剣で斬りつけ、さらにハンマーに変形させて殴りつける…。

「くっそぉ…」

キールNはライフルで反撃するが、キールUは左腕を盾に変形させて弾丸を防ぐとゆっくりと近づいて剣で顔面を叩きつける。それによって、肌が切り裂かれ、内部の機械がむき出しの状態となってしまった。

「お前はこれで終わりだな。」

キールUは大ダメージで動けずに横たわっているキールNを見て笑みを浮かべると、その場から歩き去った。




 梅森コンツェルン本部のコンピュータールーム。ここでは京子の父・梅森優がデッドネットの機能を停止させるために必死にパソコンを操作していた。

「よし。あと少しだ。」

優の声を聞いて全員が顔を輝かせた次の瞬間、一人の男がコンピュータールームに入ってきた。その男は…キールNを片づけたキールUだ。

「キールNは片づけた。残るはお前たちだ…!」

キールUはゆっくりと近づいていく。

「私たちの娘たちに手を出さないで!」

里奈が立ちはだかるが、キールUは里奈を殴りつけた。それによって里奈は床に倒れこむ。

「こうなったら…」

守が真っ先に飛び出し、キールUの後ろに回り込むと、拳銃を発砲した。

「お前の狙いは僕のはずだ!わかったら僕を捕まえてみろ!」

キールUは守をにらみつける。その時、駆も立ち上がって大声を上げた。

「お前は俺のことも狙っていたはずだ!わかったら殺してみろ!」

「私だって…アンタなんかに負けないんだからね!」

京子も大声を上げる。

「貴様らぁ…!」

次の瞬間、駆と守と京子の三人はコンピュータールームから出て走り出した。キールUもコンピュータールームに出る。

 壁に追い詰められていた優は殴り倒された里奈のもとへと駆け寄った。

「母さん、大丈夫か?」

「ええ。なんとか…」

けれど、京子たちは自分たちを救うために囮となってしまった。どうにかして救わないと!

その時、優のスマホが鳴った。京子からのメールだ。

『私たちがキールUをひきつけておくから今のうちにデッドネットの機能を停止させて!』

そのメッセージを見て優は少し驚いたが、デッドネットを止めるチャンスは今しかないと思い直し、パソコンの操作を再開した。




 駆、京子、守の三人は梅森コンツェルン本部のビルの外に出た。

「二人共、こっちに来て!早く!」

駆は京子と守の手を握って走り出した。

「駆君、一体どこへ行こうとしているの?」

しかし、駆は何も言わない。

「父さん、急にどうしたんだよ?」

「奴を倒すためにいいこと思いついたんだ。」

守と京子は何も理解できない。わかっているのは駆には何か作戦があることだけだ。




 三人がたどり着いたのは製鉄所だ。守は目を丸くした。

「父さん、どうしてこんなところに来たんだい?」

「奴の体は液体金属でできている。もしかしたら熱に弱いんじゃないかって思ってね。」

「なんでそう思ったの?」

京子も目を丸くする。

「先週くらい前かな?前に二人でやった実験覚えている?」

駆と京子は一週間くらい前に液体金属に熱を与える実験を行ったことがあった。その結果、液体金属は熱で溶けてなくなったのだ。

「そういうことね。奴を溶解炉に落とせば倒せる。」

実験のことを思い出した京子も駆の作戦をようやく理解した。

 そこへ、追いかけてきたキールUがやってきた。

「貴様ら、もう逃がさないぞ…!」

キールUは両腕を剣に変形させて走ってくる。駆たちも近くの階段を上って上の階へと逃げだす。

「ところで母さん、溶解炉って製鉄所のどこら辺にあるの?」

「言われてみれば…どこにあるのか全然わからない。」

溶解炉のある場所まで把握していなかったため、見えかけた希望の光が一瞬で消えてなくなってしまった。

「こうなったら…守、君の拳銃を使わせてくれ。」

「いいけど、どうするつもり?」

「僕が奴をおびき寄せるから京子さんと一緒に溶解炉を探してくれ。」

「な、なるほど。でも、そんなことしたら父さんだけが…」

「分かっている。けど、大切な人を守りたいんだよ。」

それを聞いて守は拳銃を渡し、京子と共に溶解炉を探し始めた。




 梅森コンツェルン本部の外。先程、キールUに敗れ、機能が停止してしまったはずのキールNが無言で立ち上がった。

「…オ…レ……ハ………まだ…終わらない……」

頭部が裂けて機械が少しだけむき出しになっているキールNはかなりの大ダメージを負っているが、どうやらまだ動くことができるようだ。キールNはボロボロの体を引きずりながらそのままどこかへと歩き出した。




 駆はキールUの攻撃を必死に避けていた。

「くっそぉ…こいつ…」

駆は守から借りた拳銃で弾丸を発射し、応戦する。

「キールNを失ったお前に勝ち目はない。諦めたらどうだ?そうすればお前も楽になれるし、お前の大好きな梅森京子ともあの世で会えるというのによ。」

「言っちゃなんだが、僕はここで死ぬわけにはいかないよ。平和で明るい未来を…京子さんや守たちと掴み取りたいから!」

駆はその場から走り出す。キールUも駆を追跡する。

「ゴートゥーヘル!」

その一言と同時にキールUは右手の鉤爪を勢いよく振りかざした。すると、鉤爪の先の部分が勢いよく飛んでいき、ブーメランのように変化して駆の右肩に直撃した。

「うわぁ!」

ブーメランが当たってしまい、駆の右肩に傷ができてしまう。しかし、ブーメランはUターンして駆の方へ飛んでくる。

「ちくしょぉ!」

駆は拳銃でブーメランを撃ち落とすと、それを拾って立ち上がる。その時にはキールUがもうすぐそこまで来ていて剣に変形させた左腕を振り下ろしてきた。駆は先程拾ったブーメランで斬撃を受け止めると、そのまま反対の手で持った拳銃を連射した。連続射撃を受けた衝撃でキールUはよろめいてしまう。

 その時、下の階からこちらに向かってくる京子と守の姿が目に入った。京子と守は駆に向かって手招きをしている。どうやら溶解炉を見つけることができたようだ。

駆は拳銃を数発発射すると、下の階に飛び降りて二人と合流し、京子たちに誘導されながら走り出した。キールUも三人を追跡する。




 先程大ダメージを負わされたキールNは駆たちがきている製鉄所に到着した。

「ここか……奴に発信機をつけておいてよかったぜ…」

先程、キールNは大ダメージを負わされる前にヒューマノイダーズが使用している発信機をキールUに取り付けておいたのだ。このことをキールUはまだ気づいていない。

 早く合流して奴を倒さないと…三人が危ない…!

キールUは足を急がせるが、大ダメージの影響で体が思うように動かない。




 駆、京子、守の三人は溶解炉のある場所を目指して走り続けていた。

「父さん、あれだ!」

一番前を走っていた守が立ち止まって前方を指さす。

「あれが溶解炉か…。アイツをあそこにぶち込めばアイツはおしまいだ。けれど、どうやってぶち込めばいいんだろう…」

三人が考えていたその時、キールUが剣に変形させた両腕を向けて飛びかかってきた。

「京子さん、危ない!」

駆は京子を守るように前に立った。結果、京子は攻撃を受けずに済んだが、駆は攻撃を受けてしまった。背中に大きな傷跡ができてしまっている。駆はそのまま拳銃を連射してキールUを後ずさりさせ、膝をついた。

「駆君!」

「今ジャンプしてきたアイツを見て思いついたんだけど…高いところから…ぶち込めば…」

駆はそのまま倒れこんでしまった。

「駆君、しっかりして!」

京子は駆に肩を貸して階段を上り始める。

「逃がすか!」

キールUが近づこうとしたその時、守が予備の拳銃を発砲した。

「今度は俺が相手だ!」

キールUは剣を振りかざした。守も斬撃をひたすらかわしながら拳銃で応戦する。

「僕について来い!」

守は階段を上ると、溶解炉の真上に向かっていく。キールUもついていく。




 床に横たわっている駆は先程キールUが投げてきたブーメランを取り出すと、近くで戦っている守を援護しようと歩き出すが、痛みが走って体が思うように動かない。

「待って!駆君、怪我をしているんだからやめて!」

京子が必死に声をかける。

「京子さん、このままじゃ…僕たちの息子が…殺されてしまう…助けないと…!」

「分かっているけど…今ここで駆君が死んじゃったら…守が…」

そう言って京子がブーメランをひったくる。

「さっきは私のために…ごめんね。だから、代わりに私にやらせてくれる?」

「わかった…。任せるよ。」




 キールUの猛攻で守はとうとう拳銃を叩き落され、追い詰められてしまう。

「今度こそ地獄へ行きな…!さらばだ、光守!」

その時だった。

「ねえ!」

後ろから京子に声をかけられ、キールUが振り向いた瞬間、京子がブーメランを投げつけた。

「バカめ!」

キールUは先程自分が使用したブーメランを右手でキャッチする。その一瞬の隙に守は拳銃を拾うと、少し離れた場所にあるタンクめがけて拳銃を発砲する。弾丸が命中したタンクから白いガスのようなものが漏れ始めた。それを浴びた瞬間、キールUの動きが少しずつ固くなり、やがて完全に動かなくなった。全身がまるで凍りついたかのように白くなっている。

「液体窒素か…」

横たわっている駆が呟くと、隣に歩いてきた守が頷く。その直後にどこからか声が聞こえた。

「三人とも、伏せろ!」

その声を聞いて伏せると、どこからか小型のミサイルが飛んできてキールUに命中する。

ミサイルを受けたキールUは大きく吹き飛ばされ、溶解炉に落ちてしまった。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

溶解炉の熱に耐えきれず、キールUはもがき苦しむが、逃げられない。下半身から少しずつ溶けていき、やがて完全に体が消滅した。

 デッドネットに最強のキールロイドとして生み出され、液体金属でできた体と様々な特殊能力で駆や守たちを苦しめたキールUがとうとうこの世から消え去った。

 駆たちが振り向くと、そこには大ダメージを負ったキールNの姿があった。

「キールN!よかった、生きていたんだね!」

駆と京子、守の三人はすぐさま駆け寄り、再会を喜び合った。




 その頃、梅森コンツェルン本部では梅森優がパソコンの操作を終えていた。

「よし。デッドネットの処分に成功した。これで未来は平和になれるだろう…」

優が窓を開けると、もう夜が明けていて朝となっていた。




 再会を喜び合っていた四人だが、何かが起ころうとしていた。キールNの右手が光の粒子のようになっていることに三人は気づいた。

「キールN、どうして?」

突然の出来事に三人は驚きを隠せない。

「デッドネットの開発が完全になかったことになった。それはつまり、俺たちキールロイドの誕生もなかったことになる。」

それを聞いて三人の顔から喜びの表情が一瞬で消える。

「ま…まさか……タイムパラドックス……」

守は膝をつく。

「そんな…。キールN、どうにかしてあなたを救う方法はないの?」

京子が涙を浮かべて聞くが、キールNは首を振る。

「残念ながらない…。けれど、俺はアンタたちの心の中では生きている。だから、たまには俺のことを思い出してくれ。」

駆は涙を浮かべて頷く。

「あなたと会えてよかった…。ありがとう…」

「私も……あなたのこと…絶対に忘れないから…」

京子も泣きながらお礼を言う。守も涙を耐えられない。

「今まで……俺と戦ってくれて……ありがとう……」

それを聞いてキールNも口を開く。

「俺はロボットだから涙を流せないが……このような気持ちになれたのは初めてだ…。ありがとう……さようなら……」

キールNは右手でピースをすると、完全に消滅した。




 戦いを終え、駆と京子たちは京子の実家に戻った。守が黒いスポーツカーに乗って未来へ帰る準備をしているのを駆たちが見守っている。

「それじゃあ、父さん、母さん、準備はできたから僕は帰るよ。」

「うん。ありがとう、守。何かあったらまたこっちの時代に来なよ!」

駆が優しい言葉をかける。

「未来に帰ったら…いい相手早く見つけなさいよ!」

京子がからかうように言うと、守も笑顔で言い返した。

「そういう母さんだって…父さんといつまでもお幸せにね。」

京子も笑顔で頷く。

 守が乗った黒いスポーツカーが動き出した。そして、水色の光に包まれていく。

「ありがとう…さようなら!」

運転席から守が手を振っている。駆と京子も手を振り返す。そして、守を乗せたスポーツカーは光と共に消えた。




 未来から来た息子を見送った駆と京子は互いに見つめ合うと、そのまま抱き合ってキスを交わした。

「大学を卒業したら…僕と結婚してほしいです!」

「もちろん…喜んで…!」

京子も笑顔で答える。

 その様子を見ていた者たちがいた。京子の両親だ。京子の両親は娘とその恋人を見て穏やかな笑みを浮かべると、そのまま歩き去っていった。

 これから平和な時代が続くだろう。戦争のない平和な時代が…。

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平和な未来を… @Rui570

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