光の剣グラードシャイン

「でも不思議なのよね…その剣、性質からしてどう考えてもグラードシャインなのに、形が全然違う」

 サンリアがレオンの持つ純白の剣を覗き込んで首を傾げる。レオンはパシパシと片手で剣を弾ませながら言葉を探した。

「その、何だ、グラッドシャインがお前のウィングレイスと形が一緒って保証はないだろ」

「ウィングレアス! それに、グラードシャインよ!」

 んなややこしい名前が言えるか、とレオンは頭を抱えた。

「私のと違うのは当たり前なんだけど、じーちゃんが持ってた本に載ってるグラードシャインの絵とも違うのよ。

 かと言って他の剣と似てる訳でもないし。何て言うか、飾り気が無いよね、それ」

「じゃあ、また違う剣なんだろ。お前の目的と関係無い、普通の綺麗な剣」

 レオンがちょっと不快に思って言うと、彼女は思い切り頭を左右に振った。

「それはないわ! 大体、この森に入れる人間は長・武・英の三種類だけなの。

 貴方が事情を理解してない上敵でも無さそうって事は英のなりたてに違いないんだから、つまり私と一緒の立場の筈なのよ」

「ちょー・ぶ・えい?」

「長はじーちゃんみたいな世界の担当者達、武は敵でこの森をあやつって暴走させてる人達、英は私達剣の仲間の事よ」

 …漢字が多いんだよ、と彼は眉間みけんしわを寄せた。

 が、カタカナも漢字も弱いなら、何に強いんだお前…。


「剣の仲間? って事はもっといっぱいいるのか?」

「うん。七本あるから。

 光の剣グラードシャイン、

 炎の剣エンブレイヤー、

 雷の剣プラズマイド、

 風の剣ウィングレアス、

 音の剣オルファリコン、

 水の剣アクアレイム、

 死の剣ディスティニー」

「うん。無理だな!」

 いさぎよく覚えるのをあきらめたレオンは、サンリアと、彼女の肩のじーちゃんににらまれた。

「何が無理なのよ」

「覚えるのが。ってか、集めるのも無理じゃね? 何年かかるんだか」

「そんな事無いわよ…多分。剣は剣を呼ぶんだから」

 サンリアは自信なさ気にこままゆになりながらうなっていた。

 レオンにもようやく、嫌な予感がし始めた。剣が剣を呼ぶ、ということは、誰かがこの剣を持って、サンリアが今やっているように、他の世界の剣の仲間とやらを迎えに行くことになるのだろう。そしてこの剣を運ぶ誰か、とはつまり。


「ふーん…で、それだけ?」

 レオンはえて、突き放すように彼女に声を掛けた。

「え?」

「それを俺に話して、どうするんだ?」

「どうするって…」

 サンリアは言葉にまった。いや、理屈では分かっている。剣の仲間と共に暴走する森を止めるのだ。そのためには一人も欠けてはならない。光の剣の主を仲間にして、次の世界へ向かわなくてはいけない。

 …と、分かっているのだが、どうしよう。この何も事情をあくしていない少年と一緒に、旅を続けるのか。それを彼に納得させるだけの材料はあるのか。

「…ホントはね…」

 彼女は一つ溜息をいて、また話し始めた。


「…私だって、村を離れてたった一人で…じーちゃんはいるけど、でも一人でこんな森の中歩き続けて…

 …たまらなかったわ。ちっとも楽じゃないし、あぶないし。

 長・武・英しか入れないっていうのは、次元のずれる場所って大抵たいてい迷い込んだ人が出られなくなってすぐに死ぬっていうんで、中に入らない様に長が結界を張ってるからなの。森の中には危ない生き物もいっぱいいるし、食べ物だって探すのも大変で…自分の世界でれたルールの中で生きるのとは全然違ったわ。

 そんなとこで今までずっと一人、光の剣がこの辺りにあるっていうじーちゃんの古い記憶だけに頼って…。

 だから、グラードシャインを持つ貴方に会えて、すっごくすっごくうれしかった。」


 レオンは彼女の隣でそれを聞いて顔がやや上気じょうきするのを感じた。会えて嬉しいなどと女の子に言われたのは、もしかすると人生で初めてかもしれなかった。

 しかし夕暮ゆうぐどきさいわいしてかサンリアはそれに気付かずに前を見て続けた。

「でも今、どうしたら良いのか分かんない。

 多分貴方は世界を救うって言ってもピンと来ないだろうし、貴方には貴方の生活があるだろうし…。

 うん、私はさ、じーちゃんがいるし、元々特別な村長候補だったし、クルルが剣だし…だから良いんだ。

 でも…幸せそうな顔してる貴方に、一緒に来てなんて…言えない。」


 とらえ方によっては失礼な告白だが、それが彼女の本音である事は間違いなさそうだ。

 レオンはサンリアと同じ方向を見つめた。

 木々の影が長く伸びている。

 〈弟〉がいなけりゃ、という昼間のシオンの言葉。

 軽い気持ちで吐いたのだろうが、あれは本音だった。

 確かに今のままでもレオンは幸せだ。何の苦労もせず、日々やりたいことだけをして生きている。しかし、それはぬるま湯だ。与えられた幸せであって、彼が勝ち取った幸せではない。いつかは出なくてはいけない楽園なのだ。

 それに、この剣は本当にきっと光の剣なのだろう。写真に写らなかったのが、何よりの証拠だと思う。そんな現象、光を操れないと無理な話だ。

 レオンはサンリアの言葉を反芻はんすうした。


「…一緒に来てって言ってみろよ」

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