第4話 新生活スタート
フレジェス王国に到着した翌々日、ロッシュ殿下の呼んだ服商人がやってきて、私は採寸されていた。
若い女性2人が手際よく図っていく。
「ルディーナ様、凄いです。スタイル完璧です」
肌着姿になった私を見てコレッタさんが横でキャッキャしている。少し恥ずかしい。
「本当にお綺麗で……意識的に筋肉も付けてますよね。中々ここまでの方はいらっしゃらないです。職人の端くれとして、腕がなります」
確かに実家では侍女の指導で程よく運動をするようにしていた。お世辞も入っているだろうが、褒められると少し嬉しい。
「髪もお綺麗で。『月光で染めた絹糸』って実在したらこんな感じかしら」
『月光で染めた絹糸』はフレジェスの古い民話に出てくる架空の美しい糸だ。流石は商売人、人をおだてるのが上手だ。
「採寸は終わりました。全身全霊で仕立てさせていただきます。デザインはお任せいただく形でよいのですか」
「はい。フレジェス王国の流行とかは分からないので、お任せします。よろしくお願いします」
「承知いたしました。完成したものから順次お届けします」
採寸してくれた2人が立ち去るのを、笑顔で見送る。
「さて、じゃあ次は買い物ね」
私は服をササッと着直して、身支度をする。
オーダーメイドの服は当然ながら完成まで時間がかかる。なので別途既製服を買いに行くのだ。オーダーしたのは夏服、春服は既製服で済ませる。
「はい。同行させていただきますが、歩きで良いので? 馬車も出せますが」
「せっかくの外国の街だもの、自分の足で歩きたいのよ」
「承知いたしました。ふふふ、ロッシュ殿下からお金は沢山預かってますからねー何でも買えちゃいますよ」
そんなに使うつもりはないが、コレッタさんは金貨の入った袋を手にご満悦だ。着替え終了、準備完了だ。
「よし、じゃあ行きましょう」
コレッタさんに先導され、広い王城の敷地を進み、裏門を抜けて外に出た。
道は年季の入った石畳、人々の足に磨き削られツルツルとしている。
テコテコと、のんびり歩く。
「流石は古都ネイミスタ、歴史を感じる街並みね」
「はい。フレジェス自慢の都市です。王城のある高台からだと、湾が一望できるので、夕焼けの時間帯は特に綺麗ですよ」
コレッタさんの言う通り、眺めが良い。水面の煌めきの上、湾を行き交う船がミニチュアのように見える。
ネイミスタは古い言葉で『二つの川』を意味するらしい。実際、2本の河川が湾に注ぎこんでいるのだが、その川も両方とも視界に収まる。
一望とはこのことだ。
お店は高台の下なので、坂を降りていく。戻るときは程よい運動になりそうだ。
目的地のお店に着くと、想像以上に大きな建物だった。中には沢山の既製服が吊るしてある。
素直に凄いなと思う。もちろん服としては既製品よりオーダーの方が格上だ。しかし、国として見た場合、多くの既製服が大量に流通しているのは豊かさの証拠である。ゼラート王国では、こんなに多種多様な既製服は出回っていない。
近年の技術革新により生産力が上がっていると聞いてはいたが、実感させられる。
「こんなに沢山あると選ぶの大変ね」
どんなのが良いだろうか? 奇妙な経緯でフレジェス王国にいる立場だ、目立たない色が無難だろうか。でも春だし、ピンクとか買ってみたい。自分に合うかは別としてパステルカラーは好きなのだ。
「ルディーナ様は美人だから何でも似合いますよ。いっそ片っ端から買ってしまえば」
「そんな無駄遣いはできないわよ。最低限困らない服は必要だけど」
「えー、服も着られたがってますよ。ここはドガッと。あ、この店アクセサリーも扱ってるんですよ。ネックレスとかいっちゃいます?」
コレッタさんが元気に浪費を煽ってくる。
でもアクセサリーか。もちろん今買う気はないが、何かのときにないのは困る。ベルミカ公爵家から取り寄せられれば良いのだけど、ゼラートは海の向こうだ。戦争の影響で郵便網も途切れて、手紙すら送れない。
と、思考が逸れた。今は服だ。
間を取って、好きな色と地味な色を1着づつにしよう。
私はそう決めてピンクとベージュのワンピースを店員さんに頼んだ。
下着類も幾つか選び、コレッタさんが会計をしてくれて、買物完了。
「次は中央図書館でしたっけ?」
「ええ。コレッタさん、あちこち付き合わせてごめんね」
「とんでもない。これでお給金満額はむしろオイシイ!」
明るく笑い親指を立てるコレッタさん。
私はコレッタさんと二人、歩き出す。
フレジェス王国のネイミスタ中央図書館、どんな蔵書があるだろうか。本当に楽しみだ。
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