第77話 エルドウィッチ戦争(2)


 ユグドラシル王国に直進するべへモスに向かっていくのは、ドラゴンの部隊である。

 フランリーゼ、バハナムトを筆頭に、ドラゴンたちがべへモスを取り囲む。

「みな、一斉に放射!」

「グオオオオオオ!!!!」

 フランリーゼの一声で、ドラゴンブレスが一斉にべへモスの頭部めがけて発射される。


 しかし、べへモスからすれば、ドラゴンブレスの温度ですらも、その分厚い皮膚のせいで、あまり効果はないようだ。

 べへモスは煙に顔をしかめるものの、その足を止めることはしない。

 まるでハエでも払いのけるかのように、ドラゴンを片手ではらった。


「く……なんて野郎だ……」

「我々ドラゴンですらも、ものともしないとはな……」


 地上では、ゴブリンの部隊が戦っていた。

 ゴブリンたちはべへモスの足元で、槍や剣でちくちく攻撃をするが、どれも効いているとは思えない。

 まるで巨城を針でつついているような、手ごたえのなさ。

 べへモスの肌は、岩のように固く、剣や槍、弓では歯が立たなかった。


 ワーウルフたちの牙や爪も同様に、べへモスには傷一つつけることができない。

 べへモスの足元にむやみに近づいたゴブリンやワーウルフは、まるで蟻のように蹴散らされる。

 数十もの命が、一瞬にして踏みつぶされて、消えた。


「っく……なんて硬さだ……みな、このままでは埒が明かない。いったん撤退だ!」

「くそう……」


 離れたところから、エルフたちが魔法で一斉に攻撃をしかける。

 だが、魔法はすべて、べへモスの堅い体に弾かれてしまう。

 べへモスはそれほどまでに桁違いに大きく、硬かった。


「どうすればいいんだ……」



 ◆



 ゴブリンたちがユグドラシル王国を出て、べへモスを倒しにいってから数時間が経った。

 だが、以前としてべへモスはその足を止めずに、ユグドラシル王国に前進している。

 べへモスはその巨体を動かすのに、かなりのエネルギーを使うようで、その足取りはゆっくりだ。

 そりゃあ、あれだけの巨体を動かそうと思えば、早くは動けないだろう。

 べへモスはその大きな足をゆっくりスライドさせながら、じりじりと距離を詰めてきている。

 この調子だと、あと数日でユグドラシル王国に到達するというペースだ。


 夕方過ぎに、ゴブリンたち部隊が、ユグドラシル王国に戻ってきた。

 ドラゴン部隊はいまだべへモス上空に残り、ドラゴンブレスによる砲撃を続けているようだが、決定的な効果は得られていないようだ。

 だが、べへモスがドラゴンブレスに顔をしかめたり、飛び回るドラゴンたちに注意をひかれたりしているようで、少しの足止めにはなっているようだ。

 ドラゴンたちはこのまま、夜通し攻撃を続けるそうだ。


「どうだった……?」


 俺は戻ってきたゴブリンたちに尋ねる。

 

「それが……すみません、なんの成果も得られませんでした……! それどころか、こちらへの被害は甚大です……」

「それは……仕方ない……」

「すみません、すべてお任せしてくださいなどと、大きなことを言っておいて……。お恥ずかしいです。セカイ様をお守りするのが俺たちの使命だというのに……。このままでは、ユグドラシル王国は……!」

「そうだなぁ……。よし、俺に考えがある」

「セカイ様……! セカイ様が出ていくのはなりません!」

「わかってる。それはしないさ。だが、俺に考えがあるんだ。俺にも働かせてくれ」


 できれば、この手だけは使うまいと思っていた。

 だけど、こうなったら仕方がない。

 ドラゴンが束になってすら敵わない強敵、べへモス。

 べへモスはもはや、個としては最強だ。

 あんなのはモンスターっていうレベルじゃない。それこそ、城や、いや……山と戦うようなものだ。

 あれほど規格外に巨大なものは、もはや俺たち生物には手に負えない。

 だったら、こちらにも考えがあるというものだ。


「近代兵器の恐ろしさを見せてやる……」

「セカイ様……ま、まさか……!」

「ああ、そのまさかさ……」


 俺は購入メニューを開いた。

 そして、これまでに貯めた信仰ポイントをありったけ使う……!


「おりゃああああああああああ!!!!」


 戦車200機。

 RPG100個。

 アサルトライフル1000丁。

 LMG300機。

 その他ありとあらゆる近代兵器をありったけ。

 俺はそれらを、ゴブリンたちの前に並べた。


「大体の使い方は、ドラマやアニメを見て知ってるだろう? これで、なんとかならないか……?」

「セカイ様……これは……素晴らしいです……! これさえあれば、我々でもべへモスを討てるかもしれません……!」

「ああ、頼む!」


 俺の中に、近代兵器だけは、なるべく使いたくないという思いがあった。

 それらは、戦乱を呼ぶ。

 この世界にまだ存在しないような武力を、俺が勝ってに持ち込んでいいものか、そういう葛藤があった。

 だけど、もう四の五のいってられない。

 今回の戦闘で、いったい何人死んだんだ……?

 たしかに、俺たちには世界樹の葉がある。

 うまくいけば、今回だってほんとんどの戦死者は蘇生させられるだろう。

 だけど、それに慣れてはいけないんだ。それに甘えてはいけない。


 命っていうのは本来一度限りの大事なものなんだ。

 それを、仲間の命が奪われたっていうのに、出し惜しみなんかしていられない。

 俺は、ユグドラシル王国を守るためなら悪魔にでもなろう。

 俺は、この世界に近代兵器を持ち込む……!


「うおおおおお!戦車に乗り込め!銃を持て!」


 近代兵器で武装したゴブリンたちは、べへモスめがけて突進していった。


 

 ◆


 

 近代兵器で武装したゴブリンたちの攻撃は、圧倒的だった。

 まさに、レベルが違っていた。

 戦車での砲撃は、一発でべへモスの膝の皿を打ち砕いた。


「グオオオオオオ!!!!」

「やった……!」


 RPGが直撃し、べへモスの腹に穴が空く。

 ドラゴンブレスが、決して弱いというわけではない。

 ドラゴンブレスは、主に魔法によって威力が上がっているという側面がある。なので、魔法障壁を持つべへモスのようなモンスターにはあまり効果がないのだ。

 しかし、近代兵器は、魔法を介さない、純粋なる暴力。

 近代兵器による攻撃は、べへモスの魔法装甲を無視して貫いた。


 ――ズドーン!

 ――ドカーン!


 砲撃が夜な夜な続いた。

 朝になるころには、べへモスの装甲はすべて剥げ、無防備になっていた。

 そこにすかさず、ドラゴンブレスを叩き込む!

 べへモスを囲んだドラゴンたちが、ドラゴンブレスを一斉に放射!

 魔法装甲を持たないべへモスの肉体はドラゴンブレスでひとたまりもない。

 燃え盛る火炎に包まれたべへモスは、断末魔の叫びをあげて、その場に倒れた。


 ――ズシーン!!!!


 巨大な地震を引き起こして、べへモスは倒れた。

 ゴブリンたちはもろ手をあげて喜んだ!


「やったあああ!俺たちの国を守ったぞ!さすがはセカイ様の作り出した、神の兵器!」

「よし、さっそくセカイ様にも報告だ!」


 これ以上ない戦果を挙げ、ゴブリンたちはユグドラシル王国に帰還する。

 そしてセカイを探した。

 しかし、人間の姿のセカイはどこにもいない。

 もしかして、世界樹の姿になっているのかと、エルフが話しかけるも、返事がない。


「あれ……? セカイ様はどこだ……? セカイ様……!?」

 

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