第72話 ドライアド誕生(上)

【子供に関する設定を改稿してあります。エルフと子供を作るのではなく、主人公が一人で産んだことになっています。改稿部分についてはしるしがしてあります。】





 ある日のことだ。

 なんだか俺の根っこのほうが、むずむずする。

 まるでくしゃみでも我慢しているかのような、そんな感覚だ。

 もしくは、足がつったときのような感覚、あるいは、足がしびれたときのような感覚。

 とにかく、普通じゃないような痛みが俺の根っこを襲う。


「うわああああ!」


 蒸れた靴下で、足がかゆくなったときのような感覚でもある。

 俺はまるで蒸れた靴下を脱ぎ捨てるかのように、あるいは、寝起きに大きくあくびと伸びをするような気持ちで、根っこを地面の中からずぼっと出した。

 根っこはこれから焼かれるタコのように暴れる。もはや俺でも制御不能だった。

 すると、だんだんと根っこが膨らんでいくような感覚があった。

 根っこは大根のように膨らんでいく。

 おいおい……どうなってしまうんだよ俺の身体……。


 すると、エルフたちがやってきて、俺に思いがけない言葉を放った。


「セカイ様、おめでとうございます!」

「はぁ……!? なにが……!?」

「セカイ様、ご懐妊でございます!」

「えぇ……!?どういうこと……!?俺、ママになるの……!?」

「そうです。セカイ様はママになるんですよ!」

「えぇ!?マジで……!?」


 ちょっと言っている意味がよくわからない。

 だけど、俺の根っこはどんどん膨張していき、まるで妊婦の腹のようにぱつぱつに張っていた。

 ママになるっていう言い方にも少し納得ができる。

 これ……どうなるんだ……?


 すると今度は、とかげが尻尾を切るように、俺の根っこがちぎれてしまった。


「えぇ……!?」


 ちぎれて地面に落ちた、その膨張した根っこは、こんどは自力で立ち上がり、歩き出した。

 根っこの膨張した部分から、べつの細い根っこが手足のように生えている。

 そして、根っこは二足歩行で俺のもとへ歩いてくる。

 俺は、気持ちよく排泄をしたあとのようなすがすがしい気持ちと、脱力感に襲われる。

 さっきのは、なんだったんだ?

 自立した根っこをよくみると、目と口、それから鼻のようなものまでついている。

 これは……?


 しばらくすると、さっきまで木彫りの人形みたいな見た目だった、ドライアドが、光を帯びて、変化しはじめる。

 無機質だった木の肌質が、まるで人間みたいに作り替わる。

 ドライアドは、あっという間に人間の少女のような見た目に成り代わった。

 どことなく、エルフに似た感じもあるけど、人間形態の俺の顔にそっくりだった。

 ドライアドは二匹いて、まるで双子のように似ている。


「セカイ様、おめでとうございます!お子さんがお生まれになりましたね!」

「えぇ……!? これ俺の子供なの!?」

「そうです、世界樹の中に魔力が大幅に溜まったことで、ドライアドが誕生しました」

「これがドライアド……」


 どうやらエルフの話によると、俺の中に魔力が溜まったおかげで、子供が誕生したそうだ。

 ここ最近、俺は魔力をチャージするために、世界樹の身体に戻っていた。

 そのせいで、ドライアドが誕生したというわけか。

 あ、じゃあ俺はもう人間の身体を作り出せるということかな?


 俺はさっそく、人間の身体に戻ろうとした。

 魔力で分身を作り出し、俺は人間の肉体に戻る。


「うん、久しぶりだけど、やっぱりこのほうが落ち着くな」


 人間の肉体は前世からの付き合いだ。

 世界樹の身体も悪くはないけど、やはり俺は人間のほうが生きてるって感じがするし好きだ。

 世界樹の身体は大きすぎて、自他境界もあいまいになるような感じがする。独立した個というよりは、世界の一部、大自然に取り込まれたような感覚になるのだ。それはそれで、一種の瞑想状態というか、すごく達観した、さらに上の次元の思考を得られるのだが……。人間の身体は、等身大の俺自身、個という感じがするから、こっちのほうが好きだった。


 さっそく人間の身体になった俺のもとへ、生まれたてのドライアドたちが駆け寄ってくる。

 ドライアドは二人いて、どちらも俺の膝丈くらいの大きさだ。

 二人はまるであんよをする赤子のように、俺の元へ駆け寄ってきた。


「「ママー」」


「おお……!? ママって、俺のことだよな……。おお、よしよし」


 俺はドライアドたちを優しく撫でる。

 なんだか自分に似ていることもあってか、すごくかわいらしい。


「セカイ様、さっそくお二人にお名前をつけてはどうですか?」

「名前か、そうだなぁ……。じゃあ、セツナとココロにしよう」

「セツナー!」「ココロー!」


 二人はそれぞれ、うれしそうに自分の名前を呼んだ。

 俺はそれから、二人を街のいろんなところへ連れていって、一緒にすごした。


「それにしても、この俺がママか……。まだ童貞なのにな……トホホ……」


 でも、この二人の少女には、とても深い愛情を感じる。

 これから、この国とともに、この二人の可愛い子供を守っていこうと思う。

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