第21話 分身だよ


「えぇ……!? この街にはお風呂がないんですか……!?」


 その晩、エルフたちからそんな苦情が入った。


「いやぁ……川で水浴びすれば十分だから……」


 ゴブリンたちがそう言う。

 だがそういうゴブリンたちの肌は、どこかやはり汚れている。

 綺麗好きのエルフたちにはそれでは駄目なようだ。


「いますぐ浴場を作ってください……!」


 エルフたちの熱烈な要望により、お風呂場が作られることになった。

 お湯は、エルフたちの生活魔法によって簡単に沸かすことができる。

 それから3日ほどたって、大浴場が完成した。


 エルフたちは大喜びだった。

 ゴブリンやワーウルフも、最初は恐る恐るだったが、湯に入ってみていた。

 そして温泉を経験した連中から、みんなはまっていった。


「おお、エルフの姉ちゃん、これ最高だな……!」


 ゴブリンのおっさん連中は酒を片手に湯舟に浸かっていた。


「ふふん、でしょう? これがエルフに長年伝わるお風呂文化ですよ」


 エルフがやってきて、ますます町は文明化していきそうだな。

 あ、ちなみにだが、もちろん男女で風呂はわかれているぞ。

 だけど一応、混浴したいというカップルや年寄りのために、混浴浴場もある。

 ゴブリンたちはあまり性別による風呂分けに興味がないようで、ふつうに混んでたら混浴に行っていた。


 それから、エルフたちが来て、よかったことがもう一つある。

 それは、エルフ酒だ。

 エルフたちは特殊な製法で、エルフ酒というものを作り出せる。

 エルフに長年伝わる伝統的な製法らしい。

 というのも、エルフの唾液を必要とするのだとか……。


 まあ、エルフはみんな美少女ばかりだから、まあいいか。

 このエルフ酒が、ゴブリンやワーウルフの間でかなりの大好評なのだ。

 エルフ酒の効果としては、滋養強壮に魔力増強。

 みんな仕事に行く前や仕事のあとなんかに、エルフ酒を好んで飲んだ。

 酒の種類はいくらあってもいいからな。

 みんな酒は大好きだし、よろこぶ。


 さて、かなり街の住民も増えていた。

 ここらで少し、街の住人を俺なりに整理してみようと思う。


 

===================


 ・世界樹 一本

 ・ゴブリン 150人

 ・ワーウルフ 90人

 ・エルフ 30人

 ・人間 25人

 ・アラクネー 20人

 ・オーク 15人

 ・スライムガール 1人

 ・スライム 50匹

 ・鬼狼 5人


==================



 だいたい、目算でこんな感じだ。

 人間は、モッコロのところから派遣されてきた見張り連中だな。

 最初はモンスターとの共同生活に戸惑っていたが、もうすっかり打ち解けて、ゴブリンのオッサン連中と酒を飲み交わしている。


 ちなみに、あまりアラクネーが話題にあがらないのには理由がある。

 基本的にアラクネーは俺の木の上で暮らしているし、あまり交流をしてこない。

 まあ、服とか布はくれるから、仲はいいんだけどな。

 生活する場所も微妙に違えば、時間帯も違うのだ。

 アラクネーたちが下に降りてきて一緒に過ごすのは、年に数回の祭りのときくらいだった。


 そういえば、祭りといえば……。

 エルフたちがやってきてから、毎晩エルフたちによる祈りの時間ができた。

 エルフたちは俺を取り囲み、毎晩祈りをささげてくる。

 これ……何してるんだ……?

 エルフにはそういう風習があるのだろうか。

 まあ、崇められて悪い気はしないけど……。

 こう毎晩ともなるとなぁ。


「世界樹様ー! 世界樹様ー!」


 こう毎晩ともなると、俺もすっかりはなほじして聞き流していた。

 はいはい、世界樹様世界樹様ねーって感じ。


 そしたら、なんかとんでもない言葉がきこえてきた。


「よし、そろそろか……」

「ん……?」

「世界樹様ー! お姿を現しください!」

「え……? い、いまなんて……?」

「だから、世界樹様、お姿をおみせください……!」

「え……? 俺、ここにいるけど……? どういうこと?」


 エルフたちの言ってる意味がわからなかった。


「えーっと、世界樹様、そろそろ信仰パワーが溜まったとおもうので、分身を作り出せるはずです」

「信仰パワー……!? なにそれ……!? 分身……!?」


 なんか信仰パワーなるものがあるようだ。

 エルフたちが毎夜俺に祈りをささげていたのは、それを貯めるためだったのか。


「分身って、なんだよ……?」

「人型の分身がつくれるはずです。そうすれば、自由に行動できるようになりますよ」

「マジか……!?」


 俺にそうやっていろいろと説明してくれるのは、エルフのリーダーのエルだ。

 エル曰く、俺はどうやら人型の存在にもなれるらしい。

 でも、確かにそれができれば、便利だ。

 ずっと一生ここで、世界樹として動けないまま生きるのかと思ってたからな。

 これは俺にとっては、とてもうれしい知らせだった。

 よし、じゃあちょっと、言われた通りに分身を作ってみるか。

 俺は、自分がヒト型になっているすがたを想像した。


 前世での俺の姿を想像すればいいのかな。

 すると――。


「おお……!?」


 俺は、気が付くと、俺の前に立っていた。

 あ、いや、ややこしいな。

 俺は気が付くと、世界樹の前に立っていた。

 そして自分のからだを見渡すと、たしかに人の形をしている……!

 俺は、世界樹からの分身に成功した。

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