第5話 実がなったよ


 俺も7メートルほどの大木に成長し、そしてついに本日実がなった。

 なんの実なのかは自分でもわからない。

 自分で食うわけにもいかないしなぁ。

 とにかく、赤い実がなった。


 今日もいつものようにスライムたちが水を運んできてくれる。

 俺はためしに、スライムたちのもとに実を落としてみることにした。

 いつもありがとうなー的な意味を込めてだ。

 俺が実を落とすと、スライムたちはしばらくいぶかしげに見つめたあと、パクリと口にした。


 実を食べると、スライムはその場で進化をしはじめた。


「おお……!? お前らまた進化するの……!?」


 するとこんどは、スライムは人型の姿に進化した。

 さしずめヒューマンスライムとでも名付けようか。

 とにかく、人型のスライムがあらわれた。


「世界樹様、進化の実をお恵みくださりありがとうございます! きゅい」


 スライムはそういって、去っていった。

 どうやら進化の実なのか、あれは……?

 スライムたちが進化し、人型になったことで、スライムたちは喋れるようになったみたいだ。

 だがそのかわり、こちらからの声がきこえなくなってしまった。

 まあ、そのうちなんとかなるだろう。



 ◇

 


 それから、養分を持ってきてくれた白狼たちにも実をあげた。

 白狼たちも実を食べると、別の種に進化しはじめた。

 白狼たちは立ち上がり、二足歩行の獣人に進化した。

 獣人といっても、まだどちらかというと獣よりだ。

 ワーウルフとでも名付けようか。


「世界樹様、ありがとうございます。この恩には必ず報います……!」


 ワーウルフたちは俺にお礼を言って、去っていった。

 そういえば、すっかり俺はみんなから世界樹様とか呼ばれているなぁ……。

 まあ、俺もかなり大きくなってきて、周りの木にも負けないくらいになってきたからな。

 それでも、世界樹様は大げさだと思うが……。



 ◇



 それからしばらくして、今度は人間の集団がやってきた。

 どうやら旅の集団らしい。

 なにやら宗教的な衣服に身をまとった集団だ。


 キャラバンを引き連れていて、怪我人もいるようだ。

 人間は全部で15人ほどだった。

 人間たちは俺の木の根元までやってきて、そこで休憩しはじめた。

 俺がちょうど影になるから、ここを休憩場所に選んだのだろう。

 雨風もしのげるしな。

 

「どうしましょう……司祭が……このままでは司祭が……」


 一人の人間が、司祭と呼ばれた男を抱えながら、そんなことを言う。

 どうやら司祭は病気のようで、倒れて苦しんでいる。

 俺は、もしかしたらと思い、実をひとつ地面に落としてやることにした。


「こ、これは……? 司祭、とりあえずこの実を食べて元気を出してください……!」


 男が司祭に実を食べさせると、なんとみるみるうちに司祭は元気を取り戻した。


「おおおおおお……!?」

「司祭様……!」

「これはどういうことだ……!」

「わからない……だがこの実が……!」


 人間たちは大喜びしはじめた。

 俺も人助けができてよかったよ。

 どうやら人間は実を食べても進化はしないようだな。

 だが、病気まで回復してしまうとは、俺の実はいったいなんなんだろうか。

 すると、その宗教団体は俺のことを囲むと、万歳しはじめた。


「おお! 奇跡の実をお恵みくださったご神木さま……!」

「ご神木様に万歳……!」


 おいおい、大げさだな……と思うが、悪い気はしない。

 それからしばらく俺のもとで休憩したあと、彼らは去っていった。

 いったいなんだったのだろうか。


 彼らがおいていった布には、「エルドウィッチ教」と書かれていた。

 まさか俺が司祭を助けたことで、のちにあんなことになるとは、このときは思いもしなかった。

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