エピローグ1 猫と妹たち
あの夜から数日が経ちました。
声は元気溌溂としていたギルベルトも、案の定というか当然といいますか、身体はひどい状態でした。が、マルゴさんが「専門外ですから期待しないで」と言いながらも治癒魔術をかけてくれた。
氷や岩をどっかんどっかん飛ばしていた恐怖の魔術とは打って変わって、治癒魔術はとてもキラキラして綺麗でした。
なんだかんだでなんでもできるマルゴさんが本当に有能です。これは自画自賛するのも当然な気がする。でも能力以外がことごとく残念でもったいない。というわけで、相変わらず日々兄の尻を追っかけている。
とまあ、とにかく数日寝込んだものの、ほぼ回復したギルベルトと私たちは現在うるストに向かっています。
兄が帰省してくる直前、ギルベルトがうるストに行きたいと言っていたものの、本人の怪我で延期になっていたんですよね。それがようやく決行できるというわけです。
ギルベルトと沙代、私とユリウス、そして兄とそれを追っかけるマルゴさんで田んぼ道を歩く。
千鳥は家で宿題をすると言ってお留守番です。今夏は猫をかまってばかりで、ほぼ宿題に手を付けていなかったらしいですよ。先日それが発覚して母に叱られ、現在半泣きで頑張っています。その横にはきっとルーディーが引っ付いていることでしょう。
こげ茶猫と白猫のルーディーとヴェンデルは、カフェモカとしてすっかり我が家の家猫になりました。
号泣しながら二匹を抱いて帰ってきた千鳥に頼み込まれれば我が家の面々は弱いのです。
それ以降ルーディーは千鳥にべったり。もうね、どうしたと聞きたくなるくらいにべったり。最近は千鳥の肩にしがみついてるのが定位置になりかけている。
由真ちゃんのおうちは残念ながらお姉さんが猫アレルギーなんですって。都会に進学して普段はいないけれど、たまの帰省で帰って来たときなんかが家に置いておけないみたい。
でも、なんだかんだでヴェンデルは由真ちゃんのおうちにちょくちょく行っているようですが。そのたびに家族から歓迎されて、まさに猫かわいがりされている模様。
すっかり猫姿がお馴染みになった二人だけど、実はユリウス以外では私とのみ意思疎通ができている。テレパシー? みたいな感じで会話ができる。
最初みんなもできるのかと思ったらそうではなかった。元々双子同士は出来ていたけど、ユリウス曰く、彼の真名で繋がった私とユリウスもできる。らしい。まあ、だからってしょっちゅう話してるわけでもないんですけどね。
『ルーディーおはよう』
『あぁ!?』
ってな具合です。会話ですらない。
千鳥の横でゴロンゴロン転がってる愛らしい猫からは想像もできないようなドスの効いた声か、
『ヴェンデルどこ行くの?』
『……はっ』
鼻で笑うような声しか聞こえません。
そうやってあしらわれながら、由真ちゃんのおうちにお出かけするヴェンデルを見送るのも日常になりつつある。
そうだ、その由真ちゃんですが……あの夜、一旦落ち着いてからがすごかったです。
猫たちの無事を確認して安心したのか、ようやく周囲を見渡して彼女は気付いてしまいましたよね。
「
という悲鳴にも似た歓喜の雄叫びを上げて、由真ちゃんはユリウスに突撃した。
いや、彼女が好きなモデルさんが、まさに成長したユリウスみたいだねーとは言っていたものの、元の姿に戻ってみればもはや瓜二つでしたからね。しかも、前髪を上げれば絶対にその流飢様より綺麗な顔してると思う。
あの夜は引き剥がすのが大変でした。
この姿をなんと説明したものかと迷ったけれど、彼女にとってそんな些細なことはどうでもいいらしい。流飢様がここに存在していることが一番重要なのだそうです。強い。
なのでユリウス目当てに由真ちゃんもしょっちゅう我が家にやってきます。
そして次から次に服を着せては、たんまり写真を撮ってほくほく顔で帰って行く。ぐったり疲れ切ったユリウスが行き倒れている姿も見慣れてしまいました。
今年の夏はとても騒がしい。
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