第33話 反撃のための作戦会議

「……『竜化』のスキルは使うなと言ったはずだが?」


「それは前の話だろ? 今の俺には『魔源』がある。それなら、問題ないんじゃないか?」


 ルーナは俺にジトっとした目を向けていた。


 以前に、使うったら死ぬということを言われたスキルを自ら進んで使おうとしているのだ。


 それも、最近自分の命を軽く考え過ぎだと言われたばかり。


 だから、そんな目を向けられてしまうのも、仕方がないことだろう。


「『竜化』すれば、飛んで一気に間合いを詰められるだろ? この状況を打破できるのは『竜化』しかないと思うんだ」


 俺が折れずに言葉を続けると、ルーナは呆れるように小さく息を吐いた。


「馬鹿め。『竜化』して、いきなり自由に空を飛べるわけがないであろう。ただ自我を保てずに、暴走するのがオチだというのが分からんのか」


「え、そうなのか。でも、『魔源』を使って、『竜化』を使えば、暴走はするけど死ぬことはないんだろ?」


「……魔力的には問題ないだろう。ただ、『魔源』が暴走でもすれば、死ぬ可能性もゼロではないぞ」


 つまり、これからやろうとしていることは、ただ俺が暴走するだけの行為に終わる可能性が高いということか。


 それも、無駄に命だけをかけて。


 しかし、ルーナは俺の案を強く否定しようとはしていなかった。つまり、何かしらの案が浮かんでいるということだろう。


「ルーナ。なんとか、ならないか?」


「はぁ、なんで欠陥チート能力持ち共は力技で何とかしようとするのか。……仕方がない、私がどうにかしてやろう」


 ルーナは呆れるように目を細めながら、そんな言葉を口にした。


 やはり、ルーナには何かしらの策があるようだった。


「あの、すみません。『竜化』って、どういうことですか?」


 俺たちが話を進めていると、『竜化』のスキルのことを知らないアリスを置いてけぼりにしていたようだった。


 アリスは言っている意味が分からないと言った様子で、首をこてんと傾けていた。


「そのままのスキルだ。アイクがドラゴンの姿になって、ドラゴンと同じような戦闘力を手にすることができるスキルだ」


「え……そ、そんなスキル持ってるんですか?」


「私から奪ったスキルだがな。まぁ、この際、そこはよい。アイク、バーサーカー娘、作戦を立てるぞ」


「作戦か。まず、俺は『竜化』しても飛べないんだよな? そこはどうするんだ?」


 まず一番の問題点。『竜化』した俺は自分の意思で空を飛んで、攻撃をしてきた相手の方向に向かうことができないらしい。


 ルーナは何とかすると言ってくれたが、そこをどうするのか共有しておく必要があるだろう。


 俺がルーナに話を振ると、ルーナは何でもないような表情でさらりと言葉を口にした。


「私がアイクに隷属魔法をかけてやる。アイクは『竜化』したら意識を遮断させろ。私がアイクの意識に働きかけて、無理やり空を飛ばせてやる」


「れ、隷属魔法? ルーナさん、そんなの使えるんですか?」


 ルーナはまるで普通のことを話すかのようにそんなことを言ってきた。


 隷属魔法。奴隷商人とかが使うと聞いたことがあるが、使うときは何かしらのアイテムが必要だと聞いたことがある。


 身軽なルーナがそんなアイテムを持っているように思えない。


 いや、ドラゴンになった俺を隷属させるというのだから、どちらかというとテイムに近いものなのかもしれない。


 いやいや、普通はドラゴンをテイムなんて普通はできないだろう。


 一体、どんな魔法を俺にかけるつもりなんだ?


 ルーナは驚いている俺たちに軽く一瞥すると、小さくため息を一つ吐いてから言葉を続けた。


「ただ使うのも久しぶりで、ブランク明けでドラゴン相手となると、私も余裕はない。アイクの腹を撃ち抜いた輩は、バーサーカー娘が押さえ込んでくれ。私とアイクは戦力にならないと思ってくれていい」


「わ、分かりました。取り押さえればいいんですよね」


「……取り押さえるんだからな? 間違っても殺すでないぞ?」


「私のことなんだと思ってるんですか?! 大丈夫ですよ、片腕をぶった切るくらいにしときますから」


「……なんで人間のお主が、ショック死という言葉を知らないのだ」


 ルーナはうな垂れるように頭を下げて、深いため息を吐いた。


 常識知らずの王女様に向けるというよりも、どこかの野蛮人に向けるような視線でアリスをじっと睨んだ後、ルーナは言葉を続けた。


「バーサーカー娘、その刀を鞘ごと貸せ」


「え、別にいいですけど」


「アイク、何かいらない紐は持ってないか?」


「紐か? これならあるけど」


 俺は盗賊ということもあり、縄などはいちおう常備している。


 何に使うのか分からなかったので、俺はいたって平均的な太さの縄を取り出してルーナに手渡した。


「十分だ」


 ルーナはそう言うと、アリスの刀の鍔の部分と鞘を固定するように縄でぐるぐる巻きにした。


 きつく何度も結んで、刀を引き抜けないようにしてから、その刀をアリスの方に手渡した。


「いいか、バーサーカー娘よ。この縄を絶対に外すでないぞ」


「これだと、アイクさんを攻撃した人を切れないんですけど。……外していいですか?」


「切らないように縄で縛ったのだ! こうでもしないと、輩を殺してしまうだろ! その状態でも、馬鹿力なら輩くらい押さえ込めるはずだ。……絶対だぞ、絶対に外すでないぞ!」


がちゃがちゃっと無言で刀を引き抜こうとしているアリスを、ルーナが必死に止めようとしていた。


 そのアリスの目がふざけていないあたりが、本気で襲ってき相手を切り殺そうとしているようで少し怖かった。


「アリス、俺を襲ってきた奴のスキルが欲しいから、殺さないでな」


「分かりました。アイクさんがそう言うなら、殺しません」


「だったら、刀をがちゃがちゃするのをやめんか。……絶対に外すでないぞ?」


 疑いの目をずっと向けているルーナだったが、アリスが俺の言葉を無視するわけがないと思ったのだろう。


 やがて、呆れたような目を向けるだけになった。


「よっし。それじゃあ、行くか」


 俺たちは遠くから狙ってくる刺客に注意しながら、馬車から飛びおりて反撃の準備を始めた。

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