取材記録1
はい。よろしくお願いします。
当時私は23歳でした。仕事にも少しずつ慣れてきた頃でしたが、母が亡くなったのはその年の10月頃です。父は既に他界していたので、遺品整理は私1人で行うことになったんです。
家は当時とほとんど変わらないままでした。
早速取り掛かりましたが、荷物を下ろしたり移したりを繰り返すと腰が痛くなるもので、ぽんぽんと背中を叩くご老人の気持ちがわかりました。
それでも頑張って片付けました。最後は押入れの上にある収納スペースだけですので、そこを脚立を使って開けました。
ダンボールが1つあったので下ろそうと手をかけたら、中から「ぽちゃっ」って水の音が聞こえたんです。しかも結構重くて。
漬物か何かかな、と思いながら落とさないようにゆっくり降ろしました。
それで開けたら、一気に血の気が引きました。あれは忘れましません。
中にはホルマリン漬けの赤ちゃんがいたんです。
ホルマリンお姉ちゃん
私は半ばパニックになりつつ最寄の交番に駆けました。
現場にいた警官さんにたしなめられつつ、私はここまでの経緯をできるだけ詳しく話しました。
「とりあえず落ち着いて。事情は大体把握しましたのでこれから現場を確認します」
担当の方は穏やかならぬ事情をわかってくれたようで、すぐに家を捜査してくれました。
空きの待合室で休むよう言われたので、お昼からどっと疲れた私は少し仮眠を取らせてもらいました。
起きた頃、捜査がおおまかに分かったらしいので私はまた聴取を受けました。
「通報の通り、赤ちゃんの遺体は確認できました。で、まあ。ちょっと言いにくいのですがね」
「はい」
「まだ詳しくはわかりませんが、状況から判断するにあなたのお子さんではと疑う方向になりました。重要参考人です」
「え。でも私そんなの覚えてないんですけど」
「まあなんとなくわかってますよ。でもこういうのって事実確認から始まりますから。ですので真摯なお答えだけお願いします。まずあなたのお名前から――」
本当に何も知らなかったですし隠す理由もなかったのでわかる限りは正直に話したと思います。
そのあとは指紋、血液採取とか生体的なあれこれが採られました。
そういうのが一通り話を終わると、あとは供述内容と事実の照合、その他諸々役所との問い合わせがあるということでした。
事件性を考慮されているようで、実家にはもちろん自宅には戻れませんでした。その代わりあちらが用意してくださったホテルでしばらくを過ごすことになりました。
ええ、とにかくその夜は不安でしたね。そのせいか夢の中でホルマリン漬けの赤ちゃんが私を見つめていたので……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます