幸ある風に
虚空
生まれ変わるなら風になりたい
悔しさだ。
きっとこれは悔しいのだ。
後悔でも、怒りでもなく、懺悔にも似た悔しさ。
あらゆる選択を間違えた自分に、何もしなかった自分に、結局のところ自分のせいだと知っているからこそ、悔しいのだ。
どこで道を間違えたのだろう。
いいや、道など最初から存在しなかった。
自分には何もない。
歩いてきた道も、進むべき道もない。
振り返ってもそこにあるのは、無だ。
真っ暗闇の空間があるだけだ。
そこでは、いくら叫んでも、いくら嘆いても、響くことはなく、誰かに届くこともない。
ただの自己満足。
消えたい。
ただ消えたいのだ。
苦しみも、痛みも、後悔も、喜びも、全て感じることなく一瞬で消え去りたい。
消えるという事を意識せず、息をするかのように日常に溶け込んだ動作で消えたい。
そこには、感情はない。
世界に対する執着心も、自分に対する憐憫も、あらゆる理不尽に対する怒りも、そんなことが思い浮かぶ隙すら与えずに消えたい。
走馬灯など見たくないのだ。
見たところで、後悔や怒りが蘇るか、惨めに死にたくないと嘆くか。
どちらにせよいいことはない。
もとより、いいことなどなかったのだ。
自分という存在は世界に依存しているくせに、世界は自分には依存してくれない。
どうしてだろう。
自分と言う存在が認識しなければ世界はないのも同然。
けれど、世界は真冬に雨を降らすように冷たい。
寒さに凍えても、手を差し伸べてはくれない。
ただ日常を繰り返すのみ。
もしも、世界から消えたとしても、世界は何も感じないだろう。何も変わらないだろう。
それが悔しい。
だから、生まれ変わったら風になりたい。
風になって、自分のいない世界を回りたい。
自分だけがいない世界で、自分がいたことを忘れずにいたい。
痛みも苦しみも後悔も喜びも感じずに、ただ世界にありたい。
ただそれだけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます