2023年5月7日(日) GW最終日

 5月の満月──フラワームーンが落ちた。

 それは黒く、黒く、ドス黒く。そして燃え盛る。

 その中から無数の人影が現れた。


『明日から仕事……だるっ』

『仕事溜まってるんだろーなー、やだなー』

『学校いきたくねー』

『もっと休みたいー』

『もうずっとGWでいいんじゃね?』

『布団からでたくない』


 GW最終日。

 現れたのは、人々の思念体とも呼べるものだった。

 ゴールデンウィークを終わらせたくない、人間たちの執念。いや、もはや怨念。


「GW中も戦っていたキミたちと違って、多くの人々は長い長い休みだったからね」

 リッカは言う。


 どうすればいい。あんなものと戦っても、どうしようもない。負の感情に飲まれるだけだ。

 人間たちの影──シャドウたちは、戦士たちを黒く染め上げていく。さながらゾンビ映画のように、感染者が増えていくようだ。


「この戦いに勝ち負けはない。乗り切るんだ。今日を。明日になれば、GWが終わりという【定義ルール】が強制執行される。終わるんだ。GWは。必ず」


 それでも。今日を乗り切っても、GWを乗り越えられるとは限らない。先に待ち受けるのは、憂鬱。5月の病。


「希望を捨てるな。未来を見いだせ。その先にしか、光はない」

 ちょっと何言ってるかわかんない。


「戦いたくなければ戦わなくてもいい。休みたければ、明日も休めばいい。キミたちは選択することができる。心が整うまで、時間をかければいい。それだけのこと」

 僕はため息をついた。

 ああ、憂鬱。わかる。学生時代、なが~い休みを堪能したことあるもんなぁ。いうほど堪能できていたっけ? まぁいい。


 でも。

 僕たちは戦士だ。まだ、ここで倒れるわけにはいかない。

 明日も明後日も……この先ずっと。僕は戦い続ける。それが僕の選択した道だからだ。

 時に休むことがあっても。このペンは、捨てない。


「ならば力を貸そう。夏を迎えるために」

「拙者も力を貸すでござる。5月はまだ始まったばかり」

 リッカとサツキが凛々しく前を向く。


 絶望に向かい合う。

 張りつく憂鬱を切り裂き、心を奮わせる。

 激しい雨が、心を凍てつかせそうになっても。心を……燃やす。何度でも、何度でも。



 明日を迎えるためだけの戦いが、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る