第3話 補習課題

 課題の内容は、当然魔法に関わるようなことだった。


 まずは基礎中の基礎、魔法の仕組みについて。


 魔法はその人が持つ魔力によって術式が組み立てられる。魔力量には個人差があり、年齢に応じて増加もしていくが、最終的な魔力量の優劣は生まれた瞬間に決定している。


 魔法の才能は、この魔力量と魔法を操作する能力という二面を合わせてそう呼んでいる。


 ちなみに、子供の魔力量は親の魔力量に比例しないが、親の魔力量が多ければ幼い頃から魔法を教わることができるなどの要因から才能は比例するとも言われている。ただし、その限りではない。



 次に、魔法の属性について。


 星の数ほどある魔法だが、それぞれに属性というものが定められている。属性は性質を表すものでもあり、仮に同じ大きさで別の術式をぶつけ合った場合、属性有利と言われる属性を持つ方が勝利する。だが、魔力量で勝利できればその限りではなく、相性をひっくり返すこともできる。


 属性は炎、水、氷、地、毒、風、雷、光、闇、強化、その他の全十一種。ほとんどその名前の通りで、強化属性には身体能力の強化や傷の回復などが含まれ、その他には単純な魔力操作や基礎魔法、そして固有能力と呼ばれる生まれ持った特殊能力が含まれる。固有能力に関しては魔法と呼んでいいのかわからないが、分類上はその他に分類されている。


 こういった基礎知識の問題が約百問、両面刷りで四枚分あった。


 それを十分もかからずに終わらせると、次にフェリシアが取りかかったのは法律の課題だった。


 魔法には法律で制限された機能がある。それを学ぶことによって、知らなかったから破ってしまったということを無くすのが狙いだ。


 だがフェリシアは王女という身分上、法律なんていうものは全て頭に入っていた。なので、魔法で三つのペンを同時に動かして無限にあるように思えるような枚数あった法律の課題をみるみるうちに減らしていった。


 この時点で課題の山は半分ほどになっていた。そもそも、法律の書が課題に挟まっていて、あの頭を越える高さの山を作り出していたようだったので、法律が終わればその分大きく減らすことができる。


 ここまで約一時間が経過していた。そのペースに教師は驚いていたが、さすが天才と呟いてなぜか納得していた。


 だがここまで来てからが本番ともいえるのがこの補習課題だ。


 次の課題は作文のようなものだった。内容は、とある必修の術式についてその発動メカニズムや効果などをまとめるといったもの。それをこの三年生で習う全ての術式分書かなければならない。


 これはただでさえ面倒くさいのだが、フェリシアの場合、学院で習うような術式は幼い頃に全て使えるようになってしまったので発動メカニズムなんて聞かれてもわからないし、わかったところで何の役にも立たないと思っている。


 そもそも、そういう簡単な術式は無詠唱かつ一瞬で発動させるため、メカニズムなんてわかるはずがない。魔力が出ていく感覚も微々たるもので、無いものと同じだ。


「これ……何で必要なんですか? 発動させられればそれでいいと思いませんか?」

「そんなこと言われても……そういうルールなんですよ。確かに使えれば問題ないとは思いますけどね」


 何を言っても変わるはずがなく、フェリシアは諦めて課題に戻った。


 アクアスパイラル……どんなんだっけ……?


 課題に戻ったはいいが、今度は書かれている術式が思い出せない。元々意識したこともないような術式なのだから仕方ない部分はあるが、それが思い出せないと何も始まらない。


「あの……ここで術式広げていいですか?」

「えぇ……片付けはやってくださいよ?」

「もちろんです」

「じゃあいいですけど……」

「ありがとうございます」


 フェリシアは教師に許可を取って席を立ち、後ろのスペースで術式を発動させようとする。


 足を肩幅くらいに開き、腕を左右に広げて目を瞑る。するとすぐに青色の魔法陣がフェリシアの足元に現れ、溢れ出る魔力が場の雰囲気を変える。


「アクアスパイラル!」


 あたかも必殺技かのようにそう言うと、魔法陣の外側に沿って水でできた触手のようなものが現れ、回転し始めた。


「なるほど……これのことか」


 フェリシアは使うとしても応用型でしか使わない術式だったためわからなかったようだ。


 そう納得していると、教師からいつもにも増して見られているように感じた。


「……ん? どうかしました?」

「いや。すごいな……って。必修程度の魔法なのに、こんなに迫力があって」

「どうも。でも、今は全くイメージもしてなかったから魔力が暴走しただけですけど」

「それでもすごいよ」

「ありがとうございます」


 とりあえず教師の言葉を受け流し、フェリシアは課題に取り掛かった。


 アクアスパイラルは水属性の魔法で、そのまま使うより応用型の方が使われることが多い。というか、アクアスパイラルに限らずこういう必修魔法になるような簡単な術式はほとんど応用型がメインなまであるくらい応用型の方が使いやすい。しかも三年生で習う術式は戦闘用の術式がほとんどということもあってよりその割合が高い。


 それから約二時間をかけて、数十もの術式についてその発動過程や属性などの情報、効果や術式によって現れるものなどを詳細に記入した。それに加えてその術式の応用型を代表的な数種類挙げ、求められている以上で完璧なレポートを作り上げた。


「できました。全て」

「えっ、本当に……?」

「ええ。確認お願いします」


 教師は驚いた様子でフェリシアが積み上げなおした課題を軽く確認していくが、全てしっかりと記入されていて問題は全く無かった。


「問題無いです」

「ありがとうございます」


 フェリシアは課題が終わってホッとした様子だった。


「でも、いくら天才と呼ばれる殿下でも、こんなに早く終わるとは思っていませんでした」


 教師がそう言うのも無理はない。実際、この量の課題は普通の補習該当生徒なら二日から三日かけるようなものだと思われていたが、フェリシアの場合は半日で終わらせた。まあ、元々の基準が補習になるほど悪い成績の生徒が全て補習対象になった場合ということだが、そもそも全カリキュラムが補習対象になることなんてほぼ無いので、基準として適切かどうかもわからない。


「だって、今日だけで終わらせたいですし。当然実技もあるでしょう?」

「それができる才能があるなんて。この国も安泰ですね」

「……まあ……でも補習を受ける劣等生ですよ、世間一般の基準だと」

「だったら何で……? いや、ただの教師が聞いていい話ではないですよね。すみません」

「いえ。そう思うのは当然です」


 フェリシアはそう教師をフォローする。


 確かにフェリシアは天才・神童と呼ばれ、その才能を買われて王位継承権は第一位だ。弟のアーサーが本来なら継承権第一位のはずだが、アーサーは魔力量が極端に少なく魔法が扱えないため、この国の物差しで考えて国民の支持は受けられない。


 そのことからフェリシアが王位継承者となってしまったが、そのフェリシアは王になるつもりなど無い。しかも、学院に全く通わずにどこかでフラフラと何をしているのか誰もわからない。


 どちらも支持を受けられるとは言い難いが、魔法という絶対的な物差しだけで考えフェリシアは王位継承者として相応しいと考える人もいる。


 色々な人の考え方に挟まれ、フェリシアは双方に配慮するような発言というものを覚えてしまった。


「……じゃあ、一旦お昼休憩ってことでいいですか?」

「そうですね。午後の始業から外の広場で実技試験を行います。担当教師にも話しておきますね」

「わかりました。ありがとうございます」


 そうして午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴り、補習の授業も終わった。

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