うちの勇者がすぐ死ぬので俺が世話役に就任してこのパーティーをなんとかしてみせます
つきこ
第1話 高野陽介、死ぬ。
平和で幸せな生活だった。
うちは両親が離婚していて家庭に母親はいなかったけど、頼りになる父親と年の離れた可愛い弟がいて、俺はそれだけで十分幸せだった。
だから、この生活が壊れるなんて想像できなかった。
「悠斗!」
咄嗟に体が動いていた。
赤信号を無視して横断歩道に迫るトラックと弟の悠斗との間に体を滑り込ませ、悠斗をガッシリと抱きかかえる。
俺の体躯にすっぽりと収まるまだ小さい俺の可愛い弟。
俺は直後に来る激しい衝撃に目を瞑った。
キキーッ、ドンッ!!
俺の体は吹っ飛んだ。
「兄ちゃんっ!!」
傍観者の悲鳴に混じって弟の悲痛な叫び声が聞こえた。悠斗は俺の横で大粒の涙を目からぼろぼろ零して泣いていた。
すぐにどこか痛むのかと弟の体を確認したが、見たところ何ヶ所か擦りむいているだけで命に別状はなさそうだ。
「よかった……」
弟の安全を確認して安心すると、思い出したかのように激しい痛みに襲われた。
身体中が痛くて悲鳴を上げている。骨も何本か折れているようだ。
ふと視線を巡らせると、辺りは一面真っ赤に染まっていた。
これが全部自分の血だと思うとぞっとする。
俺は生ぬるい血の海に浸っていた。
「兄ちゃんっ……嫌だ、しっかりして!」
「ごめん、悠斗……」
目の前にいる悠斗の姿がぼやける。
この出血量だ。俺はもう助からない。
俺は泣きじゃくる悠斗の頬に手を伸ばす。
もちもちで温かい。生きている。
この世でただ1人の最高に可愛い俺の自慢の弟……。
「悠斗が……無事で、よかっ、た……」
俺の腕はばたりと力なく地面に落ちた。
「兄ちゃんッ!! 兄ちゃんッ!!!」
悠斗が泣きながら俺の体を揺らす。
(ダメだよ、悠斗。怪我人の体はむやみに揺らすもんじゃない……あぁ、そうか。悠斗にこれはまだ教えていなかったっけ……じゃあ仕方ないなぁ……)
遠のく意識の中で最後に聞いたのは、悠斗の泣き声と救急車のサイレンだった。
享年19歳。
俺は20歳の誕生日を迎えずに死んだ。
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