男装ガールと同棲します!!~男だと思って楽しく絡んでいた陰キャの彼女が、気が付けばめっちゃ輝いていた件~
サイトウ純蒼
第一章「男装ガール」
1.おさげの天使様
「ユリちゃん、ずっと好きだった。俺と付き合って……」
「ごめんなさい」
(え?)
「ごめんね、龍之介君。そんな気さらさらないの」
デートのようで決してデートではない大学帰りに寄った駅前通り。
相手は大学ミスキャンパスに選ばれたいわば大学一の美女。そんな高嶺の花である九条ユリと知り合い、友達になって一緒に重ねた時間。龍之介は今回の告白こそは絶対に成功させると意気込んでいた。
「ひゃはははっ!! 本当だ、ユリの言った通りだ!! 泣きそうな顔してんじゃねえか!!」
そんな龍之介の背中から聞き慣れない男の声が響いた。
(誰!?)
振り向くより先にその男は、目の前にいたユリの隣に行き、彼女の華奢な肩に腕をまわした。茶髪の短い髪にゴツイ体。一瞬で分かる只ならぬ関係。ユリが笑いを堪えてその男に言う。
「でしょ~、
ユリは龍之介の顔を見ながらその剛と呼ばれた男と笑って言う。一緒に笑っていた剛が真剣な顔になって龍之介に言う。
「お前よぉ、なに人の女に、手え出してんだぁ?? ぶっ殺されてえんか!!」
(騙された……)
龍之介はすぐにその状況を理解した。
おかしいとは心のどこかで思っていた。ミスキャンパスに選ばれるほど美人のユリが、彼女いない歴イコール年齢の自分とこんなに仲良くしてくれることが。
龍之介に食って掛かろうとする剛をユリがなだめながら言う。
「ねえ、もういいでしょ? 楽しいヒマ潰しになったんだから~、もう行こ」
「ふん、まあそうだな。おい、お前。二度とユリの前に現れるんじゃねえぞ!! ペッ!!」
剛はそう言って龍之介の方に唾を吐きかけるとユリの肩を抱きながら人混みの中へ消えて行った。
(やっぱ、またダメだったか……)
龍之介は去り行くふたりを見つめながら、小さく息を吐いた。
――彼女が欲しい!!
楽しいキャンパスライフを送るためには絶対不可欠の愛しの彼女。
今まで付き合ったことなどないけど、きっと大学に入ればなんとかなる。そう思って過ごした大学一年。何もなかった龍之介にミスキャンパスと知り合う機会が訪れ、あっと言う間に仲良くなった。
(でも同じだった……)
中学、高校と何度告白をしてフラれて来たのかもう分からない。いつかモテるだろうと思って生きて来たのだが、ここまで駄目だと自分はモテないキャラなんだと思わざるを得ない。
「ま、いっか!!」
それでも天性の前向きキャラである龍之介。
すぐにユリのことは忘れて切り替え、新しい恋を探そうと思い直す。
「きっと今この世界で、俺のことを待ってくれている天使様がいるはず!! 今会いに行くぜ!!」
駅前の行き交う人の中ひとり片手をあげ、未来の天使様に誓う。
(ん?)
そんな龍之介のスマホに一通のメッセージが入った。
「誰?」
メッセージを見るとそれは友達と言うよりは知り合い程度の大学の級友。内容は『ボランティアで行く予定だったスマホ教室に行けなくなったので、代打頼む』との内容であった。
(スマホ教室?)
そんなものに対して詳しくない自分が行ってもいいのかと思いつつも、講義などの予定のない平日の午後だったので代わりに行くと返答。『ありがとう、助かった!』との返答を確認してから龍之介はアパートへ戻った。
「ええっと、ここかな……?」
約束のスマホ教室。
それは龍之介のアパートからさほど離れていない街の公民館で開催されていた。
(うわっ、爺さん婆さんばっかじゃん!!)
市が主催している市民講座の一環で、機械が苦手な老人を中心にボランティアの学生や主婦などが教えている。
「あ、代わりに来てくれた三上さんですか?」
公民館の入り口に立っていた龍之介に、中年の女性が声をかけた。首から何やらネームカードをぶら下げている。職員か何かだろうか。
「はい、代打で来ました!」
元気に答える龍之介。中年の女性は龍之介にスマホが使えるかどうか簡単に尋ねると、すぐにひとりの老人のところへと連れて行った。
「はい、キヨさん。こちらの方が教えてくれるのでしっかり教わって下さいね」
そう言うと中年の女性は笑顔で立ち去って行った。残された龍之介がキヨと呼ばれた老人に話し掛ける。
「よろしくお願いします、キヨさん!!」
キヨの胸には名札が付けられており、そのまま『キヨ』と書かれている。真っ白な髪の上品な老婆。キヨが軽く頭を下げて尋ねる。
「これはまた若い人が来てくれて、嬉しいね~。お名前は?」
「龍之介です。三上龍之介、よろしくです!!」
龍之介は笑顔で元気に答える。キヨはそれを見て同じぐらい笑顔になって言う。
「元気があっていいね~、じゃあ、早速だけど……」
キヨは手提げ袋の中から一台の真新しいスマホを取り出して困った顔をして言う。
「全然使い方が分からないの。ラインってのをやりたいんだけど、もう何を押したらいいのか分からなくて……」
電源を入れたスマホ。
ほぼ何も触っていないデフォルトの状態である。つまりラインのアプリすら入っていない。龍之介が言う。
「じゃあまずはWi-Fiから……」
「そう!! そのワイファーイってのは一体なんなの??」
龍之介は苦笑しながらスマホの使い方を丁寧に教え始めた。
「よし、これでいい。後はじゃあ、早速連絡取ってみようか」
キヨがスマホを使いたかった理由はただひとつ。
喫茶店で一度だけ会った『トラさん』って男性と連絡を取りたいからだそうだ。
電話番号を伝えずにラインのアドレスだけ置いて行ったその男性。スマホがなく連絡が取れなかったキヨが、意を決して苦手なスマホに挑戦したのはその為である。龍之介が言う。
「じゃあ、キヨさん。好きなメッセージを入れて」
「分かったわ。じゃあ……」
『トラさん、お元気ですか? キヨです』
これだけを打つのに数十分。
機械オンチのキヨにとっては人生で初めてと言っていい程の厳しい試練であった。
「送ったわ。これで返事をくれるかしら?」
「既読にならないですね。スマホを見ていないのかも」
よく分からないが返事はまだらしい。
キヨはその後何度も龍之介にお礼を言って夕方過ぎ、公民館を出て行った。
「あー、疲れた!!!」
同じく夕方になってから公民館を出た龍之介が思い切り背伸びする。
(幾つになってもああやって恋をするってのは素敵なことだよな。俺もジジイになっても誰かと恋をしているのかな??)
龍之介はまだ見ぬ『天使様』に想いを寄せ、ひとり暗くなった道を駅に向かって歩き出した。
翌朝、龍之介は大学に行くため駅に向かう。これまで講義のカリキュラムの関係で乗ることのなかった朝早くの電車。出勤のサラリーマンや学生など予想よりも人が多い。
(うわっ、すっげえ人!!)
ちょうど高校生の登校時間。
電車の中には近隣の学生服を着た高校生がぎっしり詰まっている。龍之介は電車のドア付近に立ってため息をつく。
(これが一年も続くのか……、これは結構大変な……、!!)
そんな彼の目に、車内の奥の方に座るひとりの女子高生の姿目に映った。
真っ黒なおさげの彼女。真っ白な肌の大人し気な女の子。下を向いて何やら本を読んでいる。
(か、可愛い!!!!!)
龍之介は一瞬で目を奪われた。
決して目立つ美人タイプではなかったのだが、ひと目見て心のときめきを感じた。
――おさげの天使様
彼女を見つめながらそう心の中で呼んだ龍之介。これが後に一緒に暮らすことになる『男装ガール』との初めての出会いであった。
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