儚き詩

夜をはぐれた霧の茎が

僕の首を グシャリ と

儚さのように絞めつけている……


(人の夢 と書いて 儚さ

 ……そうだ そしてそれは

 幾度いくたびも乗せられてきたことばの筈だ

 僕が踏みつけてきたレールの上に

 限りなく 幾度も 幾度も

 ……嗚呼 の呪詛の日々!)


長年連れ添った頸動脈の辺り

生の流動がき止められ

この両目から あたかも官能的欲望の如く

ガラガラわめき立てるドス黒い血が

乳を求めるあかごの勢いで迸り始めた頃

まもなく土に還らんとする僕は

輪郭の益々明らかになる幻の中に

この森を司る午前五時の太陽を見た


僕が昔 自分の手の甲に打ちつけた

一〇八本の釘に群がる錆の亡霊たちが

呼吸いきをするように(望んでもいないのに)

耳打ちしてくれたところによれば

森のあるじたる この 午前五時の太陽は

濁目にごりめの獅子に胸を噛まれて以来

心臓に開いたあなから滴る蜜の味に

どうやら 頭の底から酔っているらしい

そして この太陽は

もうじき死ぬ と 僕は思う


僕が死んだら 君よ

僕のあたまは まるで

同極同士の磁石のように胴から離れ

血に焼かれ真っ黒焦げのふたつの目玉は

今や悉皆すっかり飛び出して 約三回半の跳躍の後

終末的破滅カタストロフィの地鳴りによって目覚めた鷲に

ひたすらガツガツ喰われてしまうのだ

……いや むしろ 喰わせてやるのだ!

いっそ 人類御用達の理性とやらで

切り分けるように分け与えてしまえ

僕の血管迷路ラビリンスにウッカリ嵌まり込んだ

頽廃的トロピカルジュースと共に


君よ この絶望の森の

誰よりも涙の川に沈んだ子羊よ

僕が死んだら このまま死んだら

君の苦しみは やがて大海の一滴ひとしずくとなって

ようやっと 安息を得るに違いない


だから 君よ


だから……








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