第2話 魔王の子

 ズキズキと脈を打つ頭痛が襲う。

体を強張らせ、必死に耐える。

耐えていると、痛みは幾分かマシになっていった。

深呼吸と共に、現在置かれている状況を理解する為に働く。

じめじめとした気配を肌で感じ、鼻孔で焦げ臭さを感じる。

痛みを触発させないように、恐る恐るまぶたを開け、次に目の焦点を合わせた。

すると、そこはどうも洞窟のようであった。

唯一の光源である焚火たきびは、ここで生活している者にとって最重要インフラであることを物語る。

「ポツ...ポツ,,,」

と岩から水が染み出ている。

それを視認すると、酷く喉が渇いた。

だが、体に力が入らない。

「誰.か..いな...いか」

かすれてしまい、十分な声量には程遠い。

(待つしかない...)

時折襲ってくる頭痛と苦闘しながら、小1時間程度待つと、少年が肉になった兎と兎の皮を持って洞窟にやってきた。

装備を見ると、小刀と小弓。

僕は、首を揺れ動かした。

結果、功を奏し、少年はこちらに走り寄ってきた。

傍に駆け寄り一声。

「ミシェル様。我ら魔王軍の生き残りのリーダーとなって、魔王国を再興してください。」

唐突な申し出であった。


 この少年から話を聞き、理解したことをまとめる。

・勇者軍から逃げ延びた彼等は、山間部にある洞窟に逃げ込んだということ。

逃遁とうとんしたことを勇者軍は既知であると思われるが、現在王様が暗殺され、それどころではないということ。

・反乱はこの混乱に乗じ、行いたいということ。

・現在この洞窟で隠遁いんとん生活をしているのは、私を含めて14人であるということ。

・他に生き残りはいるが、所在不明であるということ。

・僕を救ってくれたのは偶然であったということ。

・少年の名が「フォールティア」であるということ。


 私は、フォールティアが狩ってきた兎を貪り食らった。

多幸感が私を抱擁する。

だが、少々でも心に余裕が生じると、彼等の帰趨きすう趨勢すうせいを案じざるを得ず、現実へと引き戻される。

(事は一刻を争う、猶予は程なしか。)

私は彼等に救われ、意識を取り戻した。

気絶していたにもかかわらず、後遺症はつゆもない。

これから親交を深める必要性があるが、仲間もいる。

これは余りにも「出来すぎて」しまっているのではないか。

私は父の無念を想った。

勇者に敗北した自己と安寧秩序が崩壊した国と国民の最後を。

同時に、父の残滓ざんしが、私と私の運命に介在していることをしかと感受した。

父は「魔王」として「勇者」に殺されるべくして、殺されたのではないか。

言わば、「予定調和」のように。

では、「魔王の子」である私は?

幸か不幸か、既に退路は断たれてしまっている。

では、泥沼であろうと何であろうと歩む他ない。

私は「生きる」ことにした。

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