勇者に魔王領が滅ぼされたので復讐します!

TOMY@

第1話 鏖殺

 双瞼そうぼうを見張ると、そこには阿鼻叫喚の地獄があった。

見渡す限りには炎、それに包まれる亡骸なきがら

領土全域を滅ぼさんと、国全体が火刑場の様相を呈しており、それはまさしく、我らの文明の終焉を意味していた。

鬼哭啾啾きこくしゅうしゅうたる激戦地に立ち呆然としていた。

「魔王は殺したし、こいつらどうしよっか」

ギロリといやらしい目でこちらを見てくる。

「そうね…王様の命令だと魔王を殺し、国全体を焼き尽くして、生き残りは捕虜にしろって話だけど」

「王から出ている命令はそうだけど結局はこっちの判断だしなぁ」

「彼らは到底贖いきれない罪を犯している。だが彼らをいくら殺したところで生者の自慰行為にしかならない…」

「でもよ~これだけ殺しまくって後世には英雄として讃えられるんだろ?俺らが今やっていることは今の価値観だと是となるわけだし」

「だが!」

「未来の人間の価値観は未来の人間が決めるべきだろ」

「変に生き残りがいても復讐されるだけじゃろ」

「女や子供まで殺すのか!?僕は反対だぞ!」

「う〜ん…どうしよっかなぁ 疲れたしやめとくか」

「後は、勇者軍に任せる」

リーダーらしき青年が一人、賢しらな青年が一人、眉雪びせつが一人、衒妻げんさいが一人の会話が終了した。

僕は安堵に浸り、爾後じごうりょうと共に眠った。

(やっと鏖殺おうさつが終わった...)


 結果、魔王を含む軍幹部は全滅し、統率が取れなくなった魔王兵と国民は捕虜にされた。

抵抗してきた敵勢力に関しては、勇者一行を含む軍の力を持って鎮圧、蹂躙じゅうりんされた。

また、勇者軍は遊びとして婦女暴行、拷問、そして殺害を実行、これは他国から大批判を浴びた。

軍部発令ではそういった行為は確認されなかったと発表されたが、ゲリラで販売される雑誌「コンフュージョン」によると、被害者は推定5万人とされる。


 これからの情報は「コンフュージョン」の内容が基である。

勇者軍の損害は、10万人から5万人に、内2万人は負傷兵。

魔王国の損害は、99万4千9百3十2人から約35万人に。

その内、残存兵が5千、市民が34万5千。

残存兵、病人、戦傷者、障碍者は全員処刑され、健康な市民だけが奴隷とされた。

当然ながら公表されていない為、正確な生存者の数は今の所不明である。

奴隷の大半は焦土と化した魔王国の復興、低賃金労働、性奴隷となり、言葉通りの「物」として扱われた。

上流階級では、所有している奴隷の数が自己のヒエラルキーを誇示するものとなり、所有する奴隷の交換、売買も盛んに行われ、奴隷市場拡大の一旦を担った。

奴隷同士で性行為させ、産まれた子供を奴隷として売るという試みも行われ、一部のマニアから猛烈な支持を受けた。

ある程度市場が成熟すると、奴隷の価格に差が発生するようになった。

反発的な奴隷や、奴隷教育を施されていない奴隷は低価格となり、一般人にも奴隷が普及するようになった。

それは屡々しばしば暴力の捌け口、リンチの対象にされた。

ペルペトゥス歴1562年1月9日/フォルティス歴1439年6月19日発行

以上が「コンフュージョン」の要約である。


 では、勇者の末路はどうか。

この戦争の一番の功労者である、勇者一行には自分を含めた3世代が遊んで暮らせる程の金、免罪符、影響力が付与された。

勇者一行の末路は、アルコール、ドラッグ依存により廃人化、老衰、道楽にふけ、男遊びを繰り返す者と散々であった。

ただ「一人」を除いて。

彼は、豊富な資金を元手に、飢餓、差別、国民の道徳・倫理の是正、文化・文明の発展に着手した。

ここで、彼の功績を列挙することにする。

・飢餓に喘ぐものに食料を支援する団体の設立。

・差別撤廃の為に、差別的な発言、文章の違法化。

・国民の道徳・倫理の是正の為、不健全本の出版停止。また、倫理的でない行動、言動、文章に対しての違法化。

・文化・文明の発展の為に、優れた功績、それらを生み出した人物に対して賞金を出す財団の設立。

これらに対する批判を上から順番に挙げていくことにする。

・多くの飢餓に喘ぐものに食料が行き届いたが、彼らの就業に対しての意欲を削ぎ、国家に依存する態度が増大した。

・公に差別する人間はいなくなったが、裏では多くの人間が行っている。そんなにすぐには差別意識は変わるはずがない。

・倫理的でない行動、言動、文章を取り締まる点で、警察、自警団の権力が増大。それに伴い汚職、誤認逮捕も発生。

・財団と受賞者、それに付随する組織との間で癒着が発生。

癒着、汚職を繰り返した結果、生にも負にも効力を発した。


 曖昧な結果と、普段の業務に追われる彼は疲弊しきっていた。

アルコール、タバコ、ドラッグ、ギャンブル、女遊び等は全くせず、彼は何時しか閉塞感に苛まれるようになった。

彼は死に甘美な幻想を覚えた。

(私は何も成し遂げられない。そんな私に意味はあるのか?)

椅子に座り、うつむき自省する。

突然、私の部屋の扉が開かれた。

「ノービリス様!大変です!王様が!何者かに殺されました!」

それは影に差す一条の光。

まさしく、救いであった。

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