青州の奪取
ここ青州を治める鮑信という人物は、反董卓連合の際は群雄の一人として名を連ねていたが曹操の勢いが増すに連れ、いち早くその傘下に加わった。
華北を巡る袁紹との戦いでは、精強な青州兵を曹操の元に送り出し、袁術らが手を出せぬように睨みを利かせていた。
そんな先見の明のある鮑信でも劉備のここまでの拡大は予想できなかった。
鮑信「劉備殿か。反董卓連合の時は、うだつの上がらない男だと思い上司としては相応しくないと思っていたのだがな。まさか、ここまで孟徳と渡り合う勢力に成長しようとは、な」
???「兄貴、司馬懿と曹丕様、どちらに付くか決められるようにと催促が」
鮑信「
鮑韜「俺ですか?そうですなぁ。やはり、曹丕様なのでは?」
鮑信「ほぉ?何故だ?」
鮑韜「曹操様の御子息ですし。2人が争うことにしたのなら手を貸すべきかと」
???「これだから鮑韜兄さんは甘いんだよ。俺は付くなら司馬懿様だと思うね」
鮑韜「
鮑忠「当然だろ」
鮑信「ほぉ?それは何故だ?」
鮑忠「だって鮑信兄さん。司馬懿様は曹丕が優柔不断で纏められないから人質を取ってまで従わせるような強引な手段を取らざるを得なかったんだよ。それなのに、献帝様まで、手放した挙句、その責任を全て押し付けて仲違いするなんて、司馬懿様が可哀想じゃないか」
鮑信「成程な。俺はどちらも違うと考えているがな」
鮑韜「どういうことだよ兄貴」
鮑忠「どういうことなんだよ鮑信兄さん」
鮑信「曹丕様は、曹操様が警戒するのも聞かずに司馬懿の言いなりだったのだ。これも当然の結果だろう。よって、手を貸すに当たらない。司馬懿は人質などという非人道的なことを企てたのだそもそも論外だ」
???「では、父は静観することを決められたと?」
鮑信「
鮑卲「では、どうすると?」
???「父さんは、ここの領土を劉備殿に託すつもりなのではありませんか?そして、御自身は大恩ある曹操様の陣営に身一つで加わる」
鮑信「
鮑韜「でもよ兄貴。曹操様は、行方をくらませてるんだぜ。どうやって探すんだよ」
鮑忠「それに鮑信兄さんの考え通りだとしたら、司馬懿様が裏取引をしてるってことでしょ。劉備が攻めてくることなど無いのでは?それこそ、静観でいいとこ取りを狙ってるでしょ。そうやって、領土を上手いこと掠め取ってきたのが劉備じゃ無いか」
鮑信「鮑忠の意見は、辛辣だな。それも劉備の魅力ということだろう。うーむ。あの曹操様が許昌で死んだとは考えられん。司馬懿が許昌を直ぐに手放したのも妙だ。劉備が保護してるとしたら司馬懿と裏取引するとは考えられん。それは、曹操様に曹丕様を見捨てろと言ってるようなものだからな。ともすればだ。曹操様のこと。何処かで密かに兵を集めているのは間違いない」
鮑韜「俺は全然、兄貴に従うから良いんだけどよ。鮑忠はどうすんのかね?」
鮑忠「司馬懿様に協力したいのは、山々だけど鮑信兄さんが決めたことに従うさ」
于禁「鮑信様、ここに居られましたか。曹操様より手紙が」
鮑信「于禁ではないか!久しいな。お前は曹丕様の陣営に居たのでは?」
于禁「お恥ずかしい話ですが堅苦しいと追い出されまして。ウロウロしているところを亡霊殿に拾われまして」
鮑信「亡霊殿か。それは良い呼び方だな。手紙を読むとしよう」
手紙に目を通した鮑信。
鮑信「面白い。確かにこの方法なら劉備にここを明け渡しても目くじらを立てられることはないだろう。しかし、これを曹操様が?領土を減らしてでも司馬懿はやはり排除するべきだとお考えなのか。承知した。この鮑信、曹操様の元に馳せ参じるとお伝えせよ」
于禁「感謝する」
曹操からの手紙にはこう書かれていた。
『青州太守、鮑信殿。
貴殿の働きには、いつも頭が下がる。
親子喧嘩に狼狽えることなく中立であろうとしてくれたこと感謝に耐えん。
しかし此度の司馬懿の行動は目に余る。
我が大事な親族の子供を人質に取り、無理やり従わせるなど鬼畜の所業である。
あまつさえ、我が息子を用無しと判断して、処分しようとするなど言語道断。
俺は、司馬懿をここで討つことに決めた。
付いては、鮑信殿にも我が力となってもらいたい。
しかし、青州は大きすぎる。
俺の動きも司馬懿に悟られよう。
故に放棄するのだ。
放棄したところを奪われたのであれば、どちらの勢力も何も言えないであろう。
そこに蜀漢が居たとしてもな。
決心が付いたのなら、堂々と宣言されよ。
それを合図に、こちらの居場所を知らせる。
丞相、曹孟徳』
これに従い鮑信は、双方に堂々と青州を放棄する。
欲しいのなら勝手にしろ。
どちらにも協力しないと宣言。
間も無く、もぬけの殻となっていた青州各地に蜀漢の旗が登ることとなる。
そう、蜀漢は労せずして青州を奪取することに成功したのである。
しかし、人が居ないので、直ぐに使える領土とすることは、できないのだが。
司馬懿にしても曹丕にしてもこれは想定外の出来事で、領土の隣接してしまった曹丕は、蜀漢に対して、最も信頼足る賈詡を密談の使者として派遣することとなるのであった。
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