纏まりのない曹丕陣営

 司馬懿が速やかな防御陣形を整えるのとは、別に曹丕陣営では、早期決戦か持久戦かで意見が大きく割れていた。


 賈詡「だから、何度も言ってるだろう!相手は司馬懿だ。時をかければかけるだけ不利となることが何故わからない!」


 逢紀「ヒッヒッヒ。賈詡殿は、裏切りを何回も繰り返してきた人間ですからなぁ。言葉に全く重みがありませんよ」


 賈詡「それ言うなら貴殿もであろうが!ここに主君を一度も裏切っていない者など少ないのではないか?どうせ、戦況不利となれば、向こうに尻尾を振るのだろう?違うか!」


 郭図「まるで、我々が犬のような言い方ですな。兎に角、賈詡殿の案は賛成できないと言ってるのだ。こちらの物資は潤沢、向こうが持久戦に来てくれるのなら好都合ではないか」


 賈詡「その油断が我が身を滅ぼすと忠告しているのが何故わからん!逢紀に郭図。お前たちはこの国を滅ぼしたいのか!」


 曹丕「えぇい。そこまでにせよ!賈詡よ。郭図が言った通りだ。物資が潤沢でない相手が持久戦を仕掛けていることが異常なのだ。ここは様子見で動かないのが吉と心得る。異論は認めん。良いな?」


 賈詡「曹丕様も俺を重用することはないのだな。その決断が凶とならぬことを祈る」


 逢紀「シッシッ。話が終わったなら去ってください賈詡殿」


 賈詡は司馬懿の狙いを必死に推測していた。


 逢紀も郭図もこの国を滅ぼしたいようだ。

 曹丕様に付いたのが間違いだったか。

 やはり俺をうまく使いこなせていたのは、曹操様だけであった。

 今更、そんなことを嘆いていても仕方ないが。

 それにしても司馬仲達は、何を考えている?

 今、我らが争うことに何の意味もないのに、曹丕様を煽って、戦を引き起こした。

 別の狙いがあると勘繰るのも無理はない。

 だが、別の狙いとは何だ?

 戦を起こして膠着させることで得られる利益とは?

 わからん。

 考えても考えてもわからん。

 だがあの司馬仲達が意味のない戦を起こすとは思えぬ。

 持久戦をする意味は?

 こんな時、郭嘉殿が居れば、司馬仲達の狙いを推察してくれるのだろうが。

 所詮、凡人の俺では曹丕様を守ることなどできんと言うことか。


 賈詡はこのように考えを纏めるとその場を後にする。

 一方、曹丕を取り囲む逢紀に郭図に審配は。


 逢紀「曹丕様、賈詡殿は恐らく司馬懿殿と通じておりますぞ」


 郭図「先の司馬懿の息子共々、牢に繋いでおくのが良いかと」


 審配「不穏分子を残しておけば、厄介なことになりましょう」


 曹丕「ふむ。しかしアヤツは昔からあぁだ。絶対に反対意見を述べねばならんと考えているだけのこと。裏切りを画策しているわけではない。あれも俺のことを思う言葉の一つだ」


 そう話を切り上げて、スタスタスタとその場を後にする曹丕。

 その場に取り残された3人は。


 逢紀「ヒッヒッヒ。まぁ、これで曹丕様は持久戦を選んだ。双方にとって得となる結果を選んだのだ。司馬懿殿も我らに対して処罰はせぬだろうよ」


 郭図「だが、あまりチンタラしていては、蜀漢に攻め込まれるのは無かろうか?」


 審配「司馬懿殿は、大丈夫だと言ってたし、これはあくまで仲違いしてると思わせる作戦なんだろう?曹丕様の真剣さといえば、鬼気迫るものがある」


 逢紀「そりゃそうじゃろう。曹丕様は何も知らんからな。司馬懿殿の狙いが完遂した時、曹丕様に頭を下げると言っておった」


 郭図「ふむ。まぁあの御仁に演技は無理であろうよ」


 審配「成程。じゃあ、俺たちはこのまま持久戦に持ち込ませて、双方の兵力を減らさないようにしておけば良いのだな?」


 逢紀「そうじゃ。蜀漢を相手に兵力を無駄に失うわけには行かないのじゃからな」


 郭図「では、このまま曹丕様が戦を仕掛けぬように我らで誘導を続けよう」


 と3人は司馬懿とも通じていたのである。

 その頃、司馬懿陣営は。


 鍾繇「どうやら司馬昭殿は間者を疑われて牢に捕えられたようだ。脅威が一つ去りましたな」


 司馬懿「昭の奴は、何も考えていないようで、鋭いからな。勝手に無力化してくれたのなら好都合よ」


 鍾会「逢紀のオッサンたちも曹丕を上手く誘導してくれた見たいっすよ」


 司馬懿「賈詡が居るからどうなることかと思ったが朗報だな」


 鍾繇「その賈詡もまた進言を遠ざけられ、屋敷に篭ったとの事。これで、暫くは戦局が動かないのは決まったものかと」


 ???「まさか、本当に貴方たちが通じていたとはね」


 鍾繇「!?この声は、いやはやまさかここまで追ってくるとは。蔡文姫殿」


 蔡文姫「父を殺したのは、お前たちね?」


 司馬懿「蔡邕殿のことは、残念だ。だがあれは王允殿が獄死を命じたと言ったはずだ。殺したなどと言われようとは。俺が殺しに加担していたとしたら、どうして父にお前を引き取ることを進言すると思うのだ。馬鹿馬鹿しい」


 蔡文姫「そ、それは」


 劉豹「それは、貴殿が我ら漢室の血を引く匈奴の蛮族を恐れていたからであろう。我らの元に養女を嫁がせることで、懇意となりたかったのではないか?」


 鍾繇「例え、そうだとしてだ。何故、蔡邕殿を殺したとなる?馬鹿も大概にせよ」


 蔡文姫「反対したからでは?」


 司馬懿「ほぉ。反対したとして、殺すには至らんよ」


 劉豹「良い加減、仮面をかぶるのはやめにしたらどうだ?お前は、手っ取り早く、文姫に恩を売りつけて、断れないようにしたのだ。お前にとって誤算だったのは、俺と文姫が心の底から愛し合っているということだ。違うか?」


 鍾会が忍び寄って、刀を抜いたのを劉豹が受け止める。


 鍾会「へぇ。やるじゃないっすか」


 劉豹「これが答えということで、構わないな義兄。いや司馬懿よ!我ら匈奴を敵に回すという選択を」


 司馬懿「やれやれ、こうも言いがかりをつけられては敵わん。挑んでくるというのなら迎え撃つだけのこと」


 こうして、突如現れた匈奴と司馬懿の間で小競り合いが勃発することとなる。

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