呉への土産物

 劉備は、孫翊に会いたいと言っている孫堅たちが共に行っても構わないかという手紙を呉へと送った。

 呂壱は、孫翊の自我を完全に失わせると応対ができないため孫策が来た時に催眠が弱まったことの失敗を踏まえて、それ以降はずっと催眠にかけ続け、万が一の時は、徐薊に応対させることで、切り抜ける方向に切り替えた。

 それが良くなかった。

 判断に困ったのである。

 劉備だけを誘き寄せて殺すつもりだったのがいつの間にかちょっとしたお祭りみたいな感じになっていた。

 手土産まで持参するというのだ。

 正直、貰えるものは貰っておきたい、それは蜀漢に少なからず出費させるという点で、呂壱としても願ったり叶ったりだ。

 しかし、その運搬に孫堅が出向くとなれば、それは敵が増えるということである。

 簡単に首を縦に振れるものではない。


 呂壱「貰えるものは貰いたいが敵が増えるのは困る。何か良い断り方は無いだろうか?」


 辺洪「今回はそういったものじゃ無い。今までの非礼を詫びたいので、こちらが持て成させてもらいたいとかは?」


 徐薊「(これは叔弼を取り返す好機よ。絶対に認めるように持っていかないと)失礼ながら発言をお許しくださるのなら。それだと謝りたいのであれば、蜀漢に来るのが筋だと言われかねないかと」


 呂壱「確かに徐薊の言葉に一理あろう。誘き出して劉備を暗殺するのが目的だ。こちらが出向くようになってしまっては、本末転倒。ある程度は、妥協するしか」


 嬀覧「でもよ。こっちは、兵士たち含めて操ってる奴らで出迎えるわけだろ?人が多ければよ。それだけ、あのぼーっとしてる状態の奴らを怪しまれねぇか?」


 徐薊「(ダメよ。絶対に人が増えることを認めさせないと)失礼ながらそれについても1つ提案があります。宜しいでしょうか?」


 呂壱「何かね?」


 徐薊「当初予定していた兵士たちによる出迎えを取りやめ、私たちが出迎えをし、王城に案内するのです」


 盛憲「成程、確かにその方法なら怪しまれずに王城に誘き寄せたところで、殺すことが可能かと」


 呂壱「ふむ。落とし所としては妥当だが。解せんことがある。先ほどから徐薊は、何やら劉備たちを招き入れたいように聞こえるが。何か企んでいるのでは、あるまいな?」


 徐薊「(!?しまった。露骨過ぎたかしら。叔弼のため、焦ってしまった。どうしたら)」


 呂壱「沈黙は肯定と捉えるが」


 ???「妹は、家族に会いたいのは当然のことだと。それを断れば、劉備に勘繰られると考えてのこと。企みなどあれば、どうして呂壱様に協力しましょう」


 呂壱「徐元ジョゲンの言う通りだ。徐薊よ。疑って申し訳なかった」


 徐薊「いえ。言葉に詰まってしまい疑われることになったのは、私の落ち度です。気にしていません(兄さん、本当に助かったわ)」


 嬀覧「じゃあ、話も終わったってことでよぉ。徐薊、そろそろ俺に1発やらせてくれや」


 徐薊「いえ、催眠も不完全ですし、解けた時、困るのは呂壱様ですので」


 呂壱「徐薊の言う通りだ。下の世話ぐらい、遊女にでもして貰うと良い」


 呂壱は、嬀覧の足元に金貨を投げる。


 嬀覧「これはこれはいつもすみませんねぇ」


 戴員「そうやって、遊ぶ金が欲しかっただけだろうお前」


 嬀覧「チッチッチ、戴員違うんだなぁこれが。俺が徐薊とズッコンバッコンしたいってのは、嘘じゃねぇ。でも、そうすると困るってんなら、な」


 徐薊「アハハ。私も目が無ければ、嬀覧様を受け入れるのですが(この色欲魔が誰がアンタとするかっての。でもおべっかも使っておかないと怪しまれるから)」


 嬀覧「おっ。言ったなぁ。今夜、寝室に押しかけちまうぞ〜」


 呂壱「やめよ!とっとと、そのシモを発散してくるのだ!」


 嬀覧「はいはい。わかりましたよぉ。はぁ。またお預けかよ。いつか、俺のモノにしてやるからなぁ徐薊ーーーーー」


 徐薊「楽しみにお待ちしています(豚がブーブー、ブーブー、煩いのよ!)」


 嬀覧は金貨を手に街へと繰り出して行った。


 呂壱「それにしても土産物まで、持参するとは、それ程に気を許してくれるとは、こちらも好都合よ」


 盛憲「油断は禁物かと。仮にも幾度となく修羅場を潜り抜けてきた劉備です。悪運だけは人一倍強いかと」


 呂壱「ふむ。まぁ、ここにきて仕舞えば、終わりじゃ。不都合があるとすれば、未だ姿を見せぬ左慈が不気味なだけじゃ」


 辺洪「そこまで警戒する必要はないかと。周りを警戒していますがそれらしい人物が現れたという情報は、一向に」


 呂壱「それが不気味なのだ。あの男は、于吉様だけでなく蜀漢を内部から破壊する密命を帯びていた黄皓の策略まで察知していた。事、ここに至って、ワシの策略を看破してないはずがない」


 盛憲「確かに不気味です。ですが今は警戒を続けるしか無いかと」


 呂壱「ふむぅ。それしかあるまい。辺洪よ。劉備に孫堅の件と土産物の件、許可すると手紙を届けよ」


 辺洪「かしこまりました」


 徐薊「(叔弼、もうしばらくの辛抱だからね。必ず私が助けるから。あの紫の光を放つ道具さえ、どうにかできれば。この男、私の侍女に色仕掛けを迫らせたら、興味ないどころか一瞬で操ってしまったのよね。あの時は、私まで辿り着くのでは無いかと肝が冷えた。奪うには、騒ぎが起こらないと)」


 呂壱は男の部分を取っ払った宦官である。

 それゆえ、女性に興味がないどころかそういう機能が無い。

 だから色仕掛けを迫ってくる人間は、裏があると操ることにしているのである。

 しかしこの力、万能では無い。

 操った人間から誰の命令か聞き出すようなこともできなければ、ぼーっと虚な目で、遠くを眺めているだけである。

 だから、わかる人間にはわかってしまうのだ。

 何かおかしいと。

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