目が覚めた劉封の様子
目を覚ました劉封が寝かされていたのは、義賢が張角の話で、現実世界におけるベッドがたくさん並んでいる療養施設のようなものを教え、建設された施設である。
劉封「叔父上が作った療養施設なるものによもや俺が入居することになるとはな。イテテ。まだ身体を動かすことは叶わないか」
誰もいない独り言だと思っていた劉封だったがそこに張角と華佗が様子を見にきていた。
張角「当然だ馬鹿者。やれやれ、息子に先立たれる親ほど悲しいことはないのだぞ。劉備様の取り乱しようといったら見るに耐えんかったわ」
華佗「幸いと言えるかはわからぬが毒だけで外傷は無かったゆえ。療養施設を使うまでもないと言ったが劉備殿がえらく心配なされてな。その劉備殿はというと益州で反乱が起こったので、劉丁殿を益州総督として、任地に向かわされ、御自身は、荊州の守備を固めておられる。感謝せよ。この施設が無ければ、あの時、息を吹き返したとはいえ、ろくに休めずお前は死んでいたかもしれんのだからな」
劉封「先生、御二方に言われては、休むしかないな。話したいことは、山程あったのだが」
華佗「案ずるな。目を覚ましたら経緯の説明を聞きに劉備殿が霊帝様を伴いこちらに参られる」
劉封「そうか。俺の妻と子は、どうなった?」
劉封がそういうとよちよち歩きで劉封の元に歩く劉林の手を引く黄朱美の姿があった。
黄朱美「劉封様が無事で、良かった。本当に良かった。左慈方士から亡くなったと聞かされて、幼い劉林を抱えて、どうやって生きていったら良いのって、気が気じゃありませんでした」
劉封「心配かけたな。義父は?」
黄朱美「あのク、ず、は。左慈方士様が」
劉封「もう良い。すまなかった。俺が不甲斐ないばかりにお前がずっと脅されていたことも知らず。俺に近付いたのも黄皓の指示だったのだろう?もう、無理に俺と。えっ?」
劉封は、突然の黄朱美の平手打ちに驚く。
黄朱美「確かに初めはそうでした。脅されて仕方なく好きでもない男と無理やり接点を持たされました。でも、本当に好きでもない男と子供を作る程、私は尻軽じゃありません。貴方は、私に安らぎをくれました。いつしか、私の方が劉封様に惹かれていたのです。だから苦しかった。実の父でもないあの男を父と呼び、計画に加担していることが」
劉封「そうか。良かった」
黄朱美「何が良かったですか!」
劉封「お前も俺を好いてくれていたことを知れてな。俺の一目惚れであり、俺だけがお前のことを好きなのだと思っていた。阿斗と違い、俺は女遊びをしたことはない。気持ちを察せられなかったのだ」
黄朱美「あの変態は、女と見れば誰にでも声をかけて、尻を追いかけてます。劉封様がそうじゃなくて良かった。私はあんな変態より劉封様が跡を継ぐべきだと思っています」
劉封「だろうな。俺自身もそう思っていた。だから俺は黄皓に狙われたのだ。野心を利用されてな。だが阿斗と刃を交わして、理解した。阿斗は、好色という仮面を付けて、爪を隠している。一度でもこの俺が押されたのだ。それに阿斗は、ずっと俺のことを兄と言い続け、戦う理由は民のためと言い切った。間違いなく父の血を引く後継者に相違無い。それに俺には父より厳しい沙汰が待っているだろう。表向きには、国家転覆を図った大罪人だからな」
黄朱美「すみません。私のせいで、変態と戦わせることになってしまって」
劉封「阿斗に随分と手厳しいが何かあったか?」
黄朱美「一度尻を軽く触られたぐらいです」
劉封「良し。やっぱりアイツは殺そう。俺の朱美に手を出した報いは与えないとな」
黄朱美「その気持ちだけで十分です。あのように女と見れば誰にでも手を出す変態ですから気にする方が馬鹿げてます」
劉封「そうか。そうだな」
椅子に腰掛けて、劉封と話していた黄朱美の膝にちょこんと座っていた劉林が劉封と黄朱美を見て、拙い言葉を呟く。
劉林「ぱー。まー」
劉封「黄朱美、今のは?」
黄朱美「きっと私たちのことですよ」
劉封「そうか。劉林、ぱーぱだぞ」
劉林「キャッキャッ」
黄朱美「この幸せが私の手から離れなかったことに感謝します」
劉封「イタタ。やはりまだ身体は、動かせんか。抱き上げただけで、ミシミシと」
黄朱美「こら、劉林。パパを困らせちゃダメでしょ。こっちにきなさい」
劉林「バブ〜」
黄朱美「嫌々しないの。パパは病人なんだからね。絶対安静なの。わかった?」
劉林「???ぱー」
劉封「大丈夫だ。お前のせいじゃないぞ。だからママのところに帰ろうな」
劉林は、ハイハイで黄朱美の膝の上に戻った。
黄朱美「もう。私が言っても聞かないのにパパが言ったら聞くなんて、パパっ子なんだから」
黄朱美が劉林のほっぺたをツンツンする。
劉林「キャッキャッ」
黄朱美「でも赤子がこんなに可愛いなんて、食うものにも困っていた私には勿体無い幸せです」
劉封「そうか。俺はもう少しで、大事なお前たちの手を離してしまうところだったのだな。どうなるかわからんがお前たちとこの先もずっと一緒にいるために減刑してもらえるように自分の言葉で父と話す」
黄朱美「私も義父様に一緒に掛け合います。あの男に利用されただけだと」
劉封「やめよ!そのようなことをすれば、お前まで利用されていたと認めることとなろう。俺がお前を愛したのは、事実。この罪は全て俺にある。だから父を説得するのも俺の役目だ。お前は、あの男のことは何も知らなかった。それで良いな?」
黄朱美「そんなの。いえ、それが劉封様の決めたことなら」
劉封「良い加減にその様付けはやめないか?距離がある気がして、むず痒いのだ」
黄朱美「あっはい。りゅ、劉封、さん」
劉封「まぁ、今はそれで良い。ゆっくりと変えていこう」
黄朱美「はい」
間も無く張角の便りで、劉封が目覚めたことを知った劉備が兄を心配する劉禅と蜀漢の皇帝である霊帝を伴い、療養施設へとやってきたのだった。
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