義賢、隠居した田豊と沮授に会う

 田豊と沮授、史実では袁紹に仕えている2人を引き抜いたのは、2人がまだ韓馥の軍師をしていた頃であった。


 義賢「2人には、兄上の軍がまだまだ小さかった頃、助けてもらった。張郃の軍師となってからは、裏での補佐を中心とされていて、今年に入って、隠居なされて、御意見番みたいなことをして、民たちからの要望を聞いているそうだ。って、誰に話してるんだろうな俺は。寂しくて独り言が出ちまったかな。歳を取るのは嫌だね」


 2人がいるという扉をノックする。


 沮授「誰か来たようじゃ。よっこいしょ」


 田豊「良い良い。ワシがでよう。どちらさんかな?」


 義賢「劉義賢です。田豊殿と沮授殿は御在宅でしょうか?」


 田豊「劉丁殿か。これは、またこんなところに来られるとは?」


 沮授「大したもてなしもできんが座られよ」


 義賢「呂布殿から2人が昔を懐かしんでいたとお聞きしたので、急に会いたくなりまして」


 田豊「我らも先程、その話をしていたのだ」


 沮授「あの頃は良かった。何度も倒れる劉丁殿に冷や冷やさせられながら劉備様のため働いた」


 田豊「我らのしてきたことは、荀彧殿や諸葛亮殿に比べれば、大したことではない。今は、ここで日がな一日、子供たちに読み書きとお困り事を聞いておる。隠居爺さんだ」


 沮授「うむうむ」


 義賢「隠居しても兄上のために働いてくださっている2人には頭が上がりません。本当にありがとうございます」


 田豊「こうして、わざわざ労いに来てくれる者もおるからの。ほっとけんのだ」


 沮授「そういうことじゃ」


 義賢「今は、どのようなことを?」


 田豊「畑の周りに水を流す作業を土木作業員に頼んでいたところだ」


 沮授「水を汲みに行く手間を省き、安全に生活してもらうためな」


 義賢「そうでしたか。そんな2人をもう一度表に引っ張り出すことはできませんね。ゴホッ。ゴホッ」


 田豊「我らより若いのに咳き込むなど。無理をして来られるものでは。血反吐!?沮授、医者を」


 沮授「あぁ、直ぐに」


 義賢「いえ。それには及びません。俺の病は深刻です。いつ死ぬかもわからぬ身。だったらその全てを兄上のために燃やし尽くそうと考えています。天下を一刻も早く統一するために」


 田豊「しかし。まだまだ曹操は強大。孫策もいつまた動き出すかわからん。天下は未だ定まらぬ。それゆえ、我らは後進に託すべく身を引き、育成に残りの人生を賭けると決めた」


 沮授「そんな我らよりも劉丁殿の方が深刻ということか」


 義賢「察しの通り、今死んでもおかしくない身体であることは確かです。だから2人に俺の全てを打ち明け協力を仰ぐために来ました」


 田豊「そうまで、劉丁殿に言われて、断れようか」


 沮授「話されるが良い」


 2人とも老人口調ではなく、少し若返ったように見える。

 まだまだ、全然、俺より働けそうだな。

 何だよ。

 この世界の行く末を見届けるまでが転生者特有の力なんじゃねぇのかよ。

 俺は、何で病なんかに。

 いや、自分のことなんて後回しだ。

 生きているうちにこの国を統一する。

 そのためには戦争を加速させなきゃいけない。

 それも、より迅速に。

 多くの民の血が流れるだろう。

 この道が王道と呼べるかと言われたら俺にもわからない。

 でも、今血を流さなければ、もっと多くの血が流れることはわかっているつもりだ。

 なら、最小限で最大の益を取る。

 全部、全部救って、お前に吠え面かかせてやる司馬懿。

 そのためには、2人に打ち明けないとな俺の全てを。


 田豊「成程、未来人でしたか。薄々、我らとどこか感覚が違うとは思っていた」


 沮授「我らの知謀が通用しないわけだ」


 義賢「どうしてこんな話を兄上だけでなく呂布殿も田豊殿や沮授殿も信じてくれるのだ」


 田豊「貴殿がそのような嘘をいう人間ではないことはわかっているつもりだ」


 沮授「その上で、隠居した我らを頼ってくれたこと喜ばしいと思う。して、何か考えているのだろう田豊?」


 田豊「うむ。呂布殿に任せておけば曹操は安全とは、一概に言えん。学問を学んだとしても、その界隈で名を馳せる司馬懿には遠く及ばないであろう。王佐の才の補佐。それと奇襲にかけて右に出る者がいない徐栄は、必須だな」


 義賢「荀彧殿は、俺のことを知ってると思う。だから、そのように動くつもりなのではないかと」


 沮授「何やら確信がある言い方ですな」


 義賢「時折、兄上の玉座の後ろから聞こえていた嗚咽混じりの声という証拠しかありませんが」


 田豊「十分な証拠だな。では、そちらは荀彧殿に全て任せれば問題ないだろう。我らが動くのは、曹丕と司馬懿によって取られた人質の救出だな」


 義賢「確かではありませんがこれから起こることなのではないかと」


 沮授「では、そちら方面で動いてもらう最適な人間がいますな」


 田豊「あの三兄弟が力を合わせれば、可能であろうな」


 沮授「後は、引き受けてくれるかだが」


 田豊「そこは我らで説得するしかあるまい。劉丁殿、それについて一つ頼みたいことがある。呂布殿以外にも陽動の部隊が欲しい。できれば主攻と間違うほどのな」


 義賢「心当たりがあるので、次はそちらに当たってみます。田豊殿・沮授殿、隠居した2人を巻き込む形となって、本当に申し訳ありません。このご恩は」


 田豊「それ以上はやめよ。恩というのなら返しきれないほど頂いているのは我らの方だ」


 沮授「こちらのことは心配召されるな。御自身の病をこれ以上進行させぬよう。心を休めよ」


 義賢「ありがとうございます」


 こうして、義賢は相手が主攻と間違うほどの大物であり、陽動を引き受けてくれそうな男。

 氐族や羌族に錦馬超として、崇められている男の元に向かうのだった。

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