間話⑤ あの世から現世に魂だけが戻る日
今、俺の目の前に1人の男がいる。
???「劉璋様は、花は好みませんでしたが、まぁ今日ぐらいは勘弁してください」
毎日のように墓の前に来て、言葉を語っていくこの男は、張任だ。益州劉家に忠節を尽くす男であり、奇襲の名手だ。この男を上手く使いこなせていれば、劉備に痛手を与えられたのだろう。死んだ今となっては、もはやどうしようもないのだが。コイツも俺の悪行にトドメを刺したからか、こうして毎日のように墓にやってきては、話していく。
張任「今日は、故人が現世を偲んで、あの世からこの世に戻ってくる日だそうだ。優しかった頃の劉璋様と話せると良いのですが。声は聞こえませんな。安心してください劉循様も劉闡様も新しく益州の統治者となった劉備様の元で、政務に大忙しですが後でこちらに来てくれるそうですから楽しみにしていてください」
毎日毎日、義理堅い男だ。劉備は前途多難だろう。北に曹丕、南に朱褒・雍闓の反乱軍、揚州北部と徐州、荊州に交州と周りを囲まれたことにより、攻め先が全て劉備の土地となる孫翊。いやはや、まさか曹操が軟禁状態となり、実務を曹丕が握り国を建国するとは、思わなかった。まぁ、孫策が行方不明となり孫権が劉備に降って、後を継いだ孫翊が憤って、国を建国するのは、まぁ既定路線だろう。1番驚いたのは劉備よ。てっきり、自分が王となり国を建国するのかと思っていたらこれはこれは驚いた。まさか霊帝様が生きてたとはな。これは曹丕にとっても予想外の出来事だっただろう。献帝の価値が増すことになったのだから。こうして、霊体となって行き来できても誰にも伝えることはできないのだが。ん、また誰か来たようだな。ゲゲッ、あの女は。
???「劉璋ちゃーん、墓の中はどう?楽しんでる〜。ジジイに会ったらちゃんと文句言いなさいよ〜」
つめてぇ。どんだけ川で冷やした酒をかけやがんだ。このクソババアは。そう、こんな陽気に俺の墓に話しかけているのは、俺の産みの親で、名を張姜子と言う。もうすぐ50に差し掛かるってのに、若々しくて、劉備の新たな側室に迎え入れられた女だ。こんな女を側室にするとか劉備は女なら誰でも良いのか?
張姜子「ちょっとちょっと劉璋ちゃん、聞いてよ〜。玉蘭ちゃんと一緒にさ〜昨日、劉備様に親子丼をするぞとか言われて、もう足腰ガクガクなんだけど。もう50手前のこの身体にはキツキツだよ〜」
この女は何を言ってる?
親子丼?
鶏肉と卵の料理の話か?
足腰がガクガク?
親子丼でどうしてそうなるのか?
全く意味がわからん。
玉蘭は、確か母さんの娘で、俺の種違いの妹だったか?
一緒に呼ばれた?
劉備は何をしたんだ?
昨日は、ちょうど年に1回ある地獄の催し物で、優勝者には、地獄を治める閻魔大王様が直々にどんな願いでも叶えてくれるとかで、お祭り騒ぎだった。勝利者は居なかったが。寧ろ地獄の祭りだ。文字通り、地獄の演目が並ぶ。俺は最初の『血の池地獄遊泳選手権』で、マグマの海でドロドロに溶けて脱落だ。あんなの誰が泳ぎ切れるんだ。まぁ泳ぎ切って、4競技まで進んだ強者がいたんだけどな。こっちに居たら劉備が何をしたか見れたのか。いや母さんと種違いとはいえ妹と何してたかとか知りたくないな。
張姜子「そうそう、昨日はもう1人呼ばれてたのよね。劉璋ちゃんの娘ね」
はっ?
劉備が我が娘を側室にしたってことか?
まぁこの益州を統治する上で仕方のない判断だとは思うがあの手の付けられないじゃじゃ馬が?
俄には信じられんが、まぁ劉備の庇護下なら安心か。まさか親子丼って、そっちの意味か!
張姜子「もうすっごいんだから、劉備様の上で、淫らに乱れ舞う。劉璋ちゃんのム・ス・メ」
うわぁ〜〜〜〜。やめろやめろ聞きたくない。娘が劉備の上に乗って、乱れ狂ったなんて。こんのクソババアは、やっぱり嫌いだ。一瞬でも母と認めたのが間違いだ。
張姜子「そういうことで、皆まぁ幸せに暮らしてるわよ。だから劉璋ちゃんは、安心してそっちで待ってなさいな」
いきなり母親面すんじゃねぇよ!
って、もういねぇし!
誰か来たってあの2人は。
???「父がしでかしたことは張任殿から聞いたが派手にやらかしたもんだな」
???「兄さんは、そんなことを言いに父さんの墓へ来たの?」
???「お前は、気が抜けたからか普段の兄さん呼びに戻ったな」
???「こっちのが自然なんだからしかたないでしょ」
少し背が伸びたか?
いや、全く変わってないな。逞しくなったか?
確か、朱褒・雍闓の反乱軍の討伐の総大将として、兵を動かすのだったな。しかし、劉備もいろんな人間に散々恨まれている俺の息子を益州都督に任命して、統治を任せるとは思わなかったな。てっきり、自分が残って荊州を関羽に渡すと思っていたが。全く、張飛と関羽が生きていたのは驚いた。そこから俺は既に嵌められていたのだな。全く完敗だ。それにしても王累の奴め。散々、俺を利用しておいて、自分だけはちゃっかり逃げ出して、曹丕に仕えているのは、どうなのだ。まぁ、頑張れ息子たちよ。お前たちが生き残るためには曹丕に勝たねばならんのだからな。
劉循「父よ。いやクソジジイ!テメェのせいで、どれだけの人間が死んだと思ってんだ!どれだけの人間を狂わせた。俺は息子として、気付いてやらなかったことが悔しい。クソジジイの心の痛みに」
劉闡「まぁまぁ兄さん。父さんは僕らの前では本当に優しかったから。仕方ないよ。父さん、僕たちは父さんの汚名を注ぐ日々を送るよ。だってそれが父さんのしでかしたことの償いなんだから」
息子に怒られる日が来るとはな。願わくば生きている間に言い合いがしたかった。そして、俺が此処に留まれるのもあと僅かだ。そろそろ帰るべき場所、地獄に帰らないとな。フッ。忠臣に母さんに息子が訪れてくれるなら来年もここに顔を出そう。一方的に聞くだけだが、俺に吐き出してスッキリするならそれで良い。俺の名は劉季玉。世間では、悪名高い劉璋として知られている男だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます