蒼梧の戦い(結)

 桓治は桓発の首に剣を当てていた。

 劉備「なっ何をしている!?」

 桓治「ようやく到着かい劉備さんよ。やれやれ、あっコイツか出来の悪りぃ俺のガキだよ。言われたことしかできねぇ馬鹿者さ。俺は死ぬ。コイツも殺しとかないとダメだろ」

 桓発「ふぐぐぐぐぐ」

 劉備「お前は自分の子供の口を布を噛ませて塞ぎ。あまつさえ、出来が悪いからと殺すと言うのか?」

 桓治「当然だろう。こんな馬鹿を残していけるわけないだろ。お前も親ならわかるだろう。いやいや、強姦してたくさん子供を作っただけの男であったか。ハッハッハッハ」

 劉備「子供は国の宝だ。民は国の礎。兵たちは民を守る守護神。そして、私はそれらの生活を守る柱だ」

 桓治「フハハハハ。虐殺王の口から出てきた言葉とは思えない言葉の数々だな。お前のやってることは虐殺と何処が違う?他人の領土に攻め込み、そこの人たちに自分の傘下に入ることを強制する。従わないものは殺す。従うものは奴隷と何が違う?」

 劉備「従わないから殺すことなどあり得ない。理解できないのなら理解できるまで話し合う。奴隷になどしたことはない。生きとし生けるもの全ての権利は平等だ」

 桓治「これは傑作だ。生きとし生けるもの全てが平等と来たか。ならどうして、虐げられるものと虐げるものが存在する。お前たちは民から作物を搾取し、非常時には兵として動員する。断ることを許さない。これのどこが平等だと」

 劉備「確かにそうだ。だが、私はそれを変えるべく今戦っている。民たちは、職種を選んで生活できる世界。争いのない世界をな」

 桓治「ククク。ハーッハッハッハッ。争いのない世界?そんなもの作れるわけがないだろう!この世界を見渡してみろ。劉璋は五斗米道という道教の派閥が許せず弾圧を繰り返す。お前の兄弟子だったか公孫瓚はどうだ?烏桓や匈奴への徹底した強行姿勢。同じ人間だと。彼らはそう見ていない!お前は違うとそう言い切れると。それは民を欺く欺瞞に満ちた言葉だ。お前の言葉は薄っぺらい。まるで田舎者が都会に出てきて、都会の現実に打ちひしがれて、必死に足掻いているそんな姿だ」

 劉備「私は確かに田舎者だ。だが、それの何が悪い。今ある現実を少しでも良い方向に変えたいと思うことの何がおかしい!行動をする人を行動を起こさないやつが非難することの方がおかしいのではないか?」

 桓治「行動を起こす前から結果を知っているだけだ。お前のような馬鹿ばかりではないのでな。曹操の目指す覇道に多くの人が惹かれるのはどうしてだと思う?それは、力あるものが弱いものを統治する世界だからだ。単純明快、民が求めている答えなのだ」

 劉備「そんなことはない!民一人一人が考え、自由意志を尊重し、共に切磋琢磨していく。私が目指しているのは、民一人一人の声が反映される世界なのだ。力あるものが全てを決める世界ではない」

 桓治「そんなものを誰が求めている?弱いものは強いものに従っていれば良い。そうすれば何も考えなくて済む。それこそが民の本意であろう」

 劉備「違う!少なくとも私の領土では、民たちの自由意志を尊重している。徴兵などしたことはない。彼らは皆、自分の意思でここに立っている。その者たちを悪く言うことを私は許さん」

 桓治「それも全て、そうするように誘導されているのだ。全てはお前という絶対的な象徴のためにな。圧倒的な魅力程人を惹きつけるものはない」

 劉備「例えそうだとしても、私は強制などしていない」

 桓治「成程、無意識程、恐ろしいものはないな。お前は知るべきだ。王道とは覇道の反対ではない。覇道の先だということをな。グフッ」

 劉備「!?お前何を?それに最後の言葉、どういう意味だ?答えよ。答えるのだ!」

 桓治「(王道とは覇道の先なのだ。国を力で治めた後、そのまま力で縛りつけるのか。それとも徳で国を治めるのか。フフッ。我ながら良い言葉だ。疑問を持って考え抜くが良い。その言葉の意味をな)桓発、すまなかったな。こんなことに付き合わせて。ゴフッ」

 劉備は桓発の口に噛ませられていた布を取る。

 桓発「父上、父上、何故です。どうして、士祇のために。こんな道を」

 桓治「俺も桓鄰も忠臣として語り継がれよう。ゴフッ。ゴフッ。劉備よ。まだまだ荒削りだな。俺の言った言葉の意味を教えてもらえると思うな。お前自身が考えるべきことだ。ゴフッゴフッ」

 劉備「どうして、自分で自分を刺した!」

 桓治「知れたこと。自分のやったことの責任を取るためだ。後はお前という偽善者に謎かけを。な。ゴフッ」

 劉備「王道が覇道の先?」

 桓治「大いに悩め。桓発、お前は俺や桓鄰の後を追うことは許さん。ゴフッ」

 桓発「父上、責任なら僕にも」

 桓治「ない。初陣のお前に判断できることはなかった。全て、俺と桓鄰が命じたこと。そこにお前の自由意志はなかった。ゴフッ」

 桓発「父さん!」

 劉備「どうして子供には自由意志を選ばせるのに兵たちには選ばせなかった」

 桓治「劉備殿にはそう見えましたか。アイツらも相当な演技派ですな。皆、知っていて、俺の責任に付き合ったのですよ。ゴフッ。彼らもまた自由意志です」

 劉備「馬鹿な!?死ぬことで取る責任などあるわけがないだろう!死ぬな。子供を残して先にいくことを許さん」

 桓治「本当に貴様という男は優しすぎる。だが、その優しさは危険だ。危険極まりない。身内に不幸でもあればそれは復讐の炎となって燃えあがろう。愛とは時に残酷なのだ。親兄弟ともなれば顕著にな。ゴフッ」

 劉備「何を言っている。よく聞こえなかった。死ぬな。死ぬんじゃない」

 桓治「桓発、我が息子よ。馬鹿な男の口車に乗って手を汚しすぎた父を許せ。ガハッ」

 桓発「父さん!父さんーーーーーー」

 劉備「おい、死ぬな。死ぬことは許さん」

 桓治「(看取られるのも悪くないものだな)」

 桓治の言葉で謎を押し付けられた劉備。覇道の先に王道があるとはどういうことだろう?この言葉を考えながら劉備はこの先を歩むこととなる。

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