二十二年 二月 「小さな町の桜」
前回のアルベロベッロのインパクトが大きくて「アルベロベッロの桜」を詠もうとしましたが、イタリアの小さな町と日本の小さな町では趣からサイズから全然違うだろうと冷静に戻り、作中の小さな町は日本です。
兼題写真では青い海を背景に一本の満開の桜があります。
花の雨袋小路のすべり台 ☆並選
季語は「花の雨」で「花」(と言えば桜を指します)の傍題のひとつです。ほかに、花盛り、花明かり、花影、花朧、花の山、花の昼、花の雲、花便り、花の宿、花月夜、花盗人はすべて「花」の傍題です。
ちまちました家が密集する小さな町に雨が降っています。数年前に野山を切り拓いて作られた新興住宅地です。碁盤目のような道のはずれの袋小路には狭い児童公園があり、その狭さに似合わない桜の大木が満開の花を咲かせていました。降りしきる雨のせいか、人影は無く、すべり台には濡れた花びらが真っ白く見えるほど張り付いていました。並選でした。
花の昼ベンチに一人ぼっち飯 ☆並選
季語は「花の昼」これも「花」の傍題です。ここから走って五分の中学校から、小柄な男の子がやってきて、ベンチにすわると持ってきたお弁当を食べ始めました。どうしてこんなところで一人で食べているのでしょう。ハラハラと散りかかる花びらを除けながら黙って食べる顔は少し引きつっています。「ボッチ飯」という流行語が痛々しくて作った句です。桜に見守られながら一人で過ごす昼休み。大丈夫だよ。わたしも同じような思いをしたけど、意外と何とかなるもんだよ。並選です。
雪国へ嫁ぐ娘や雛あられ ☆☆人
季語は「雛あられ」で「雛祭」の傍題です。その他にもいっぱいありますから興味のある方は検索して下さい。「小さな町」から引越を、「桜」から桜吹雪を、そして雪と連想して、まだ花の便りを聞かない雪国に嫁いで行こうとしている娘さんとその母親を思い浮かべました。二人はお嫁入りの荷物を作っていて、お母さんが荷物の隙間にそっと雛あられを入れました。嬉しいとか寂しいとかいろいろな感情が胸を満たします。人入選でした。
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