どちらかと言えば主人公ではない彼等は退魔師という最高の仕事を満喫する
@negimori
最低から最高になる夜
「寒ッ」
アパートから一歩外に出ると、風が肌を切るように吹きつけ、自然と身震いしてしまう。吐く息は白い霧となり、冷たい空気を吸いながら玄関の鍵を閉める。
日曜日の22時を過ぎた時間に、今日初めて外を出ることになんとも言えない感覚になる。年齢を重ねるごとに何かをする行動がどんどん減っていったなと思う。
会社はブラック企業と言うことはないが、ホワイトとは呼べない地方の中小の商社。給料には不満はあるが声を大にして言うほどじゃない。人手不足は常にあるがなんとかしてる。
ポケットに手を突っ込みながら手の寒さを誤魔化し、センチメンタルになりながらコンビニへとゆっくり歩く。その方がこの感傷的になっている自分に酔える。
昔は色々と精力的に行動していたなと最近はよく考えてしまう。
学生時代はバスケに明け暮れていたし、そのかたわら恋愛もしていた。友人たちとも積極的に遊びに誘っていた。
バスケはもう2年はやってない。昔なじみと一緒にクラブチームで活動していたが、仕事が忙しく行けない日々が積もりそのまま行かなくなった。友人たちも仕事、それに結婚と出産等で家庭を持つようになり自然とクラブの活動は終わってしまった。
彼女も今はいない。現在26歳と言うこともあり、親と会うと自然とその話をされる。やれ彼女はいないのか、やれ結婚はするのかと聞かれ面倒だなと思いつつ、まぁいい人はいるよ等と調子の良いことだけは言っている。
彼女は欲しいとは思っているけど、ただ思っているだけ。特別行動に移すような事はしていない。
性欲が高ぶった際は一人ですればいいし、人肌恋しくなればそういうお店に行けばしっかりとプロの技を味わえてしまう。
まぁなんだ、端的に言ってしまえば必要としていないのかな。むしろ『必要』なんて言葉が出てきてしまうあたり『終わっている』んだと思う。
趣味と言えるものが今は配信を見ること。配信サイトで誰かがゲームとか雑談してるのをポケーっとしながら見てる。それに親しみとか感じたり、努力している姿に感動して、応援なんてしてる。
一時的に自分もその楽しい空間に入れることが楽しい。
冷たくなった『空虚』な自分の心に、じんわりと温かい熱が画面を通して流れるのを
感じたときに中毒になったのかもしれない。
多分、『応援』するというのはソレが欲しい人がする行為なんだと思う。誰かを『応援』することで自分が救われる。もちろんソレだけではないんだと思うけど。
冴えない頭で変なこと考えてるなと我ながら思う。気持ちが随分沈んでいる。
いかんいかん。こういうときは空想に浸るに限る。26歳だけど未だに中二病だ。
ありもしない事を考えるのが楽しいことだと経験しているから仕方がないことだと思う。
多分これはもっと年取らなければ治らない症状で、家庭をもったりして精神的に満たされない限り治るものじゃないんだと思っている。
やっぱり『超能力』だったら『瞬間移動』が良いよな。敵の後ろに移動して攻撃、そして瞬時に戻る。攻防一体で完璧な能力だな。
なろう系とかだったらごちゃっと色んな能力がついてたり、神にも等しい能力だったりするんだろうけど、そこまではいらないよな。
ハーレムもなあ。ロマンだけど、あれって面倒くさいだけじゃねって思っちゃうんだよなあ。まあでも、ある種の『夢』ではあるか。
取り留めのない事を、ああだこうだ考えてたけど、あと少しでコンビニ着いちゃうな。
ただ、このお墓を抜ければだけど。
小学校の隣に墓地があって、その道を突き抜ければコンビニがすぐなんだが、この道を使わないと、結構な回り道しないといけなくて、面倒くさいんよな。
普通に怖い。夜に墓地通るの普通に怖いんだよね。
でも、回り道するのは面倒くさすぎる。なので、行くしかない。
霊感とかないし、幽霊に会ったことは人生で一度もないけど、幽霊の存在は信じている位にはオカルト的な物はあると思っている。
グッと身体に力を込め、墓地の入り口の緩い坂を歩く。
静寂の中に風の音が聞こえる。枯葉がさらさらと音を立てて落ちる音、木々の枝がこすれ合う音、遠くで動物なのか虫なのか分からないが、鳴き声が鮮明に聞こえる。
『不気味』な雰囲気を感じ足早に歩く。
思わず息を呑む。
前方。墓地の出口から人が歩いてきた。
出口に置いてある街灯の薄暗い光では断定はできないが、ジャージのような服で多分男。
一気に最悪な事態を想定する。
もし急に襲いかかってきたらどうしよう。とりあえず逃げれる準備と心の準備はしておこう。
一歩一歩お互いが近づいている。この静寂の中でお互いの歩く音が近くなっているのを耳を通して、より実感を告げている。
俺は左側により相手は右側に寄っている。あと数メートルと言うところで俺は大きく息を吸った。
「ンッ...」
頭の中で金属が擦れる音が響いた。通り過ぎるときに急に音が鳴った。
ヤバい。間違いなく何かヤバい。
身体はもう走っている。此処を早く抜け出したい。
身体が寒い。嫌な汗が出てるのが分かる。クソが。意味わからねえ。
よし!出口は目の前。このままスピードでコンビニまで
「グハッ!」
尻が
目の前には壁になるものなんてねぇぞ。
「おい、ウソだろ...」
勢いよく前方に手を伸ばす。何もないはずなのに、硬い感触がする。確かに目の間には何もないはずなのに。目に写っているのは薄暗い細道が続いているだけ。見えない壁にでも拒まれてるかのように身体が前に進まない。
何なんだよコレは!意味が分からない!
蹴っても蹴ってもうんともすんとも言わない。ソレにどんどんと悪寒がひどくなる。
「クソッ!」
入り口!入り口なら出れるかもしれねぇ。急げ!
汗が目に入りそうになる。息がうまく吸えない。心臓の音がでかい。
前に人影が見える。やべぇちょっと安心する。走るのをやめる。
いや、ちょっと待てよ。あの人やけに小さくねぇか。子供か?こんな時間に?目を凝らして見てもやっぱり小さい。それに、腕が長すぎる。
前方にみえるソレがよく見えるように恐る恐るゆっくりと近づく。
ソレはフェンスの向こうの小学校を向いている。
近づくにつれぼんやりとしたシルエットからはっきりした輪郭が見え、思わず足を止めた。
小さい体躯に不釣り合いな細長い頭。地面に付きそうな程長い腕。
横から見る顔に付いている目は大きく、白眼のみで形成されているように見える。
「バケモノ......」
いけないと思いつつも、思わず言葉が出てしまった。
その瞬間、ソレは顔をこちらへグリンと回し、口を三日月の様に変えた。
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