第5話 ポンチョの小人さん

 そういえば。

 農園ゲームだとゲームにもよるけど、栽培担当キャラがいたりするよね。

 そうそう、ジョウロを持った動物さんとか、いろいろ。

 どうやら僕の植物園にもいるみたい。


 畑の横に二頭身のてるてる坊主のような、緑のポンチョ姿の小人さんがいて、ジャガイモのお世話をしてくれている。

 なんだかこっちに手を振ってくるので、僕も振り返してみたら、その場で淡く点滅しながらポフポフと跳ねているよ。

 喜んでいるみたい。

 かわいいねぇ~。ほわほわ。


 畑の横には堆肥工場みたいなメルヘ~ンな建物ができていて、中では茶色いポンチョの小人さんがせっせと作業をしていた。


 うーん。精霊か妖精か、何か?

 考えても仕方がないので、お願いしますと、頭を下げておいた。

 そうそう、従業員さんには心からの感謝を忘れずに。




 今日はお天気がいいので、僕は外へ飛び出した。

 お屋敷の前庭では、ただいま剣のお稽古中なので、邪魔にならないように僕は裏庭にやってきた。ちびっ子がウロチョロしていたら迷惑だもんね。

 裏庭といっても、大きな馬小屋と小さな畑があるばかりの、雑草が刈り取られている程度の、無駄に広いお庭だよ。

 面積だけは半端ないんだよねー。

 ここは馬車の整備や、従士たちの訓練にも使われるよ。

 来客があるときは、お客様のお馬さんや馬車も馬小屋で管理する。

 お馬さんの放牧場は壁の外にあって、裏門からのぞけば間近に見えるよ。


 お屋敷の敷地を囲むように、高くて頑丈な石塀がぐるりと回されている。

 正面入り口の門と、裏門は頑丈な金属製だ。


 裏庭の隅っこの、石壁の辺りに行くと、背の低い雑草がビッシリとはびこっていた。

 そこにしゃがんで草をジッと見る。

 まぁ、ほぼ雑草。

 根が簡単には抜けない、ド根性なヤツ。草抜きに苦労するヤツだよね。

 おっ、ときどき薬草があるぞ。

 向こうの世界にもあった、ドクダミやヨモギやスベリヒユ。タイムもあるね。

 おや、ミントもあるぞ。ミントは見つけたらすぐに抜いちゃってね。地植えだと、あっという間に大繁殖しちゃうから!

  抜いても抜いても生えてくる、厄介ものになっちゃうから、植えるなら鉢植えがお勧めだよ。


 ドクダミやヨモギは薬になるし、タイムやミントもいろいろな使い道がある。スベリヒユはたしか食べられるんだよね?


 こっちの世界の薬草といえば、ポーションの材料になるものを指すんだよ。


 日当たりのよい草原に群生する『ヒール草』は葉の裏が青く、止血や再生の傷薬になる。

 同じく日向を好むオレンジ葉の『マナ草』は、体力回復や魔力増強に使われる。

 夜に白い花を咲かせ、森の奥に育つ『月光草』は解毒薬に。

 清らかな水辺にしか生育できない、青い結晶の花をつける『クレール草』は、解呪や浄化作用が非常に高い。


 この四つは多くの人が知っている薬草で、これらを組み合わせて調剤するのが、薬師や錬金術師になる。

 もちろん、ほかにもたくさんの薬材が存在するけど、それはプロにお任せだよ。

 僕としては、将来的にこの四種の薬草を栽培できればいいと思うわけ。

 だってもうかりそうじゃない? 

 うふふ。

 なんとかの皮算用だね。


 ちなみにヒール草とマナ草は、結構その辺に生えているよ。ここは辺境だけに魔素も濃いから生育良好で、草原や森の浅いところで簡単に採取できると聞いた。

 なんならお庭の隅っこでも。

 実は、我が家の薬草茶の基本材料なんだよね。

 マーサ特製ブレンドは、爽やかなスッキリとした飲み口のお茶で、一口飲めば病気知らずで元気間違いなし!


 はっ! お庭に来た目的はそれではない!

 脱線してばっかりじゃん。


 石壁から少し距離を取って、石ころの転がる硬い地面に手をつくと、耕すイメージで魔力を注いでみる。

 あれだよ、植物栽培特化の土魔法!

「えいっ!」

 すると、どうだろう!

 ポコポコッと、一メーテ(一メートル)四方くらいの土が持ち上がったよ!

「……」

 わぁ……、超地味。

 でもなんかフカフカしてない? なんか、いいんじゃない?

 ここから石と雑草を取り除いたらよくない!?


 というわけで、やってみたらできた! 

 邪魔な雑草と石ころは、スキル倉庫へポイッと保管しておく。

 魔法万歳! 僕天才!?

 ひとりで悦に入ってホクホクしていると、不意に後ろから声がかかった。


「おや坊ちゃん、何か植えなさるんで?」


 振り返ると、馬屋番のトムが木製のバケツを持って立っていた。すっごくほほ笑ましそうに僕を見ている。

「うん。かってに掘っちゃった。ダメ?」

「あっしは構いませんが、一応、旦那様にお伺いしたほうがよろしいですかねぇ?」

「わかった。あとで、とうさまにきくね。だから、このままにしておいてね!」

 せっかくがんばったのに、元に戻されたら大変!

「へい、かしこまりやした。お手伝いすることがあったらお声がけくだせえ、坊ちゃん」

 トムは目尻に深いシワを刻み、ニコニコ笑いながら馬屋へ歩いていった。

 僕はしゃがんだままトムを見送ったよ。

 馬小屋の掃除かな?

 お疲れさま~。


 仕方がない。

 今日はここまでにして、パパンに許可をもらいに行こうかな。

 立ち上がると、服についたホコリを払ってから館へと駆けだした。もちろん井戸端で手洗いを忘れないよ。

 ついでにうがいもしておこうね。ガラガラガラ~。


 あれ、そういえば、それこそ生活魔法の出番じゃない?

 せっかく生活魔法を手に入れたんだから、使わなきゃ損だよね。

 それでは早速、クリーン!

 柔らかな光が僕を包み込んで、キラキラと破片のようにこぼれ落ちてゆく。

 スッキリ爽やか、きれいになったよ~!

 ピカピカお風呂上りみたいだね!


 お昼ご飯のときに、父様にお伺いを立てたら、あっさり許可が下りたよ。

「従士やトムの邪魔にならないところでやりなさい。ケガをしないように注意するんだよ」

 父様はほほ笑ましそうに僕を見ていた。

 スキルを使った初めての土いじりだから、僕の遊びの延長だと思っているでしょ。

 立派な畑を作ってみせるからね~!


 とはいえ、続きは明日にしよう。

 お昼ご飯を食べたら、お昼寝タイムだよ。

 ちょっぴり疲れていたみたいで、グッスリ眠っちゃったんだ。

 無理は禁物だよね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る