第2話 スキル検証

 朝食後は、さっさと自分のお部屋に戻る。

 幼児がウロチョロしていても邪魔なだけだもんね。

 僕はまだお勉強もしていないし、ほとんどやることがない。

 少しずつ、絵本を見ながら文字の練習はしているよ。

 ほかの貴族家だと、とっくに教育が始まっているはずだよね。

 田舎の貧乏貴族でよかったよ。

 

 僕の部屋はこぢんまりとした小さな部屋だよ。

 窓辺に置かれた小さな机と椅子。壁ぎわの小さな本棚と小物置場。あとは子ども用の小さなベッドにクローゼットがあるだけ。

 前世でいうところの八畳くらいの大きさかな。

 狭いけど居心地はいいんだよ。むしろ、狭いからこそ落ち着くんだと思う。

 

 椅子に「よいしょ」と腰かける。

 僕はちっちゃいので、足をブラブラさせちゃうのはご愛嬌あいきょうだね。


 さてと。

 ステータスオープンと、今度は声には出さずに頭の中で唱えてみる。

 まずは植物栽培魔法とはなんだろね?

 スキル名横の ※ 印をタップしてみる。


 植物栽培魔法 ※

   植物を育てるために必要な魔法

   植物の種子・苗を創造できる

   土魔法・水魔法・光魔法・風魔法

 生活魔法 ※

   浄化・灯火ともしび・火種


 おおっー!

 結構使える魔法が多いぞ。

 種や苗を創造できるなんて、地味にチートなのでは?

 生活魔法の浄化があれば、最悪お風呂も洗濯もいらないし(いや、本当はいるけど)、火種があれば火も熾せるよね! 

 派手な攻撃魔法はないけれど十分だと思う。


 まぁ貴族家的にはハズレだけどね。

 超がつくほどショボ過ぎる。

 生まれる家が違ったら、粗末に扱われるレベルかもしれないね。

 僕の家族はそんなことは絶対にしないけどね!


 さて、最後のユニークスキルの植物園ってなんだろう?

 ※ 印をポチッとな。


 植物園 ※

   植物栽培用の異空間庭園(拡張可能)

   倉庫(時間停止・容量制限)


 えっ?

 栽培用の土地つきなうえに、倉庫まであるの! 

 収穫したものを保存しておけるってことだよね?

 容量は無制限じゃないみたいだけど……。


 似非えせガーデナーだった前世の血が騒ぐじゃん!

 前世で育てたことのある植物を、創造して栽培してもいいですか?

 憧れのローズガーデンとか、ナチュラルガーデンとかっ! 

 夢は広いお庭で植物たちと、日がな一日のんびり過ごすことです!

 僕はもう農家でいいです!

 小躍りしたい気分だよ~~。


 待て、いったん落ち着こう、僕。

 深呼吸して、スーハースーハー。

 五歳児の自由時間はたっぷりあるんだから、焦ってはダメ。


 ふと開け放った窓の外をのぞく。

 庭で兄様たちが従士とともに剣の稽古をしていた。

 まだ子どものふたりは従士に軽々といなされて、雑草の庭に転がされている。

 それでもすぐに立ち上がり、木剣を振って果敢かかんに立ち向ってゆく。

 僕には真似できないよ。

 

 ラドクリフ家はレン兄が順当に継ぐし、リオル兄は攻撃魔法の才能があるから出世間違いなし。

 ふたりとも見た目も文句ないしさ。

 きっと将来はモテモテだよね。

 ただ、辺境の貧乏男爵家だから、お嫁さんが来てくれるか心配だけど……。


 一方で三男の僕は能力的にミソッカスってことになるよね? この世界に味噌はないけどね。

 うふふ。


 さて、お気づきでしょうが、僕には前世の記憶があるの。

 とはいっても、自分が誰だったか、どんな生活を送っていたか、いつ死んだかなどは覚えていないけどね。

 ただ自分が好きだったことに対する記憶だけは鮮明で……。


 ガーデニングが大好きで、野菜から草花まで、小さなお庭で雑多に育てていた記憶だけがあるんだよね。

 あ、まったり農園ゲームをしていた記憶もあったね。


 今世こんぜでも物心ついたころからお庭の草花を見たり、土いじりをしてみたり、ときにはのんびり虫を観察したり。

 とにかくお庭にいるのが好きだった。

 そうしているうちに、なんとなく、じわじわと前世のことを思い出したんだよね。

 高熱を出して寝込んだりといった、お約束イベントはなかったよ。


 そんなわけで、ときどき変なことを言って、変な子扱いされていたんだよね。

 だからこそ家族は僕のことを、生温かく見守ってくれているんだと思う。

 出来の悪い子ほどかわいいって? 

 自分で言っちゃダメかな?

 むふふ~。


 さぁーて、座りなおして、いざ検証!


「えーと、『植物園』起動はどうすればいいのかな?」

 同時に脳内でフォンと機械音が鳴った。

 声に反応したみたい。

 するとステータス画面が切り替わる。

 緑の画面上に、三×三の茶色いマス目が現れた。

 この緑は大地を表していて、マスは畑ってことかな?

 これって前世でやっていた農園ゲームっぽいね。

 だとすると……。


 一マスの上に指を当てると、芋の絵が現れた。

 『ジャガイモ』と頭の中に文字が思い浮かぶ。

 指をスライドさせると、あ~ら不思議。ジャガイモが植えつけられたよ。


「おおぅ……、まんまゲームじゃん」


 現時点で植えられるのはジャガイモだけみたい。

 これも農園ゲームとだいたい同じ仕様だね。麦かコーンか芋は、ゲームの定番だったと思う。

 だとすると、レベルアップごとに植えられる植物が増えるってことでいいかな?


 じゃあジャガイモの収穫までの時間は……、まるっと一日かかるみたい。

 この辺はゲームみたいに数分で育ててはくれないんだね。

 そんなにチョロくはないか。

 それでも現実では植つけから収穫までに百日かかるから、一日でできるってすごいよね~。

 

 ちなみにこの世界の時間はこんな感じだよ。

 一日は二十四時間

 六日で一週間

 五週で一箇月

 十二箇月で一年(三六〇日)

 地球のように、うるう年はないんだよ。



 早速九マス全部に、ジャガイモを植えて明日を待とう。

 できたものを保存して、この倉庫から取り出せるかどうかに、今後のすべてがかかっていると思う。

 現実の世界に取り出せなければ、役立たず確定だよね。


 はい、そんな感じで、ゆるく今日の検証は終わりだよ~。

 あとはのんびり遊んでお昼寝するのが、僕のお仕事だもんね~。

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