植物魔法で気ままにガーデニング・ライフ~ハクと精霊さんたちの植物園~

さいき

第1章 こんにちはギフトさん

第1話 はじめましてギフトさん  

 この世界では五歳になるとギフトを授かる。


 誕生日の朝に目が覚めると、自然に芽生えている感じだよ。

 ギフトの内容は人それぞれで、良いものもあれば、さえないものもある。

 ポジティブに考えれば、悪いギフトは存在しないと思う。

 けれど、そうは簡単じゃないのが世の中というもので……。

 やはりギフトで得られるスキルによって、人生を左右されることもあるよね。


 寝ぼけまなこをこすりつつ、大きなあくびをして、身体をうーんと伸ばす。

 えいやとベッドから飛び起きて、すりガラスの窓を開ければ、早朝の爽やかな風が吹き込んで優しく頬をなでてゆく。

 初夏の清々しい朝だ。


 そして今日は、僕の五歳の誕生日。

 しばし、清涼な空気を胸いっぱいに吸い込んでから、ポスンとベッドの縁に腰かける。

 息をついて、小さな声でお約束の言葉をつぶやいてみた。


「ステータスオープン」


 名前   ハク・ラドクリフ 五歳

 レベル  一

 職業   なし

 ギフト  植物栽培

 スキル  植物栽培魔法 ※

      生活魔法 ※

 ユニークスキル 植物園 ※



 目の前に、半透明の画面が現れる。

 これは僕にしか見えないもの。誰しもが自分だけにしか見えない。

 ステータス画面には、ゲームのようにHPやMPは表示されないんだね。

 数値化されるのは、全体のレベルだけなので不親切かな?

 でもこういう仕様だから仕方がないか……。

 まぁ、さして支障もないよね。


 僕のスキルは見るからに農家系のスキルっぽい。

 我が家的にはハズレだなと思った。

 でも僕的には問題ないし、むしろラッキー。

思わずにんまり笑っちゃったよ。


 ちなみにこの世界では全員無職スタートだよ。

 職業は大人になってから選択するものであって、ゲームのように最初から定められたものではないのだ。

 自分のスキルに合った職業を選択する人が大多数だけど、たまにまったく違う職に就く人もいる。


 修練度や努力次第で新たなスキルが生まれることもある。

 たとえば料理や裁縫などは、日々の繰り返しで芽生えやすかったりする。

 侍女のマーサも大人になってから、料理と裁縫のスキルが身についたと言っていたから。


 とりあえず、スキルの確認はあとにして、さっさと着替えて朝食へ向かおう。

 おーっ!


 お部屋を出て一階へ下り、屋敷の裏口へ向かう。

 裏戸を開ければ石畳が広がり、すぐそこに屋根つきの井戸がある。

 脇に設置された大きな木樽きだるから、手桶に水をくんで顔を洗う。

 まだ小さくて自分で井戸水をくめない子どもたち用に、くみ置きしてあるのだ。

 水くみは重労働だし、うっかり落ちたら大事故だからね。


 そのあとは食堂に行って、自分の席に着く。

 今日は一番乗りだった。

「おはようございます。あら、今日はお早いですね、坊ちゃま」

 侍女のマーサが食堂に入ってきた。

 マーサは少しぽっちゃりした中年の婦人で、侍女といいながら我が家の家政を一手に担ってくれている。

「おはよう、マーサ。きょうは、いいてんきだね」

「本当によく晴れましたね。昨夜の雨がうそみたいですよ」

 朗らかに笑ってテーブルを整えていく。

 そうしているあいだに、家族が集まってきた。


「おはよう」

 入ってきたのは父様のレイナードだ。

 金髪に翠色みどりいろの瞳の男前だと思う。結構マッチョな大男で、見るからに武人という感じだよ。

 パパかっこいい!

「おはようございます、父さま」

 父様と挨拶を交わしていると、ふたりの兄様がやってきた。


「おはようございます、父様。ハクもおはよう」

 七歳年上の長兄レンと、五歳年上の次兄リオルだ。

 レンにいは父様似のミニチュア版的外見で、性格も爽やかイケメン系。白い歯がまぶしいねぇ。

 リオルにいは白金髪に碧眼の、天使かと思うほどの美少年だよ。ちょっと冷たい感じもするけど、僕にとっては優しいお兄ちゃんだと思う。


 ちなみに僕は、白銀髪に青い瞳の次兄寄りの見ためだったりする。寒々しい色だなんていわないでね。

 残念ながら美少年感はないかな。どっちかっていうと女の子に見えるらしい。

 リオル兄と僕は、亡くなった母親似だと聞いたよ。

 僕が物心つく前に亡くなった母様の記憶がないから、よくわからないけど。


「おはようございます、兄さまたち」

 それぞれが挨拶を終えて席に着けば、マーサが順に朝食を配膳してゆく。

 朝食は硬い黒パンとサラダにお芋のスープ。

 具は少なく薄味で物足りないけど、贅沢ぜいたくも言っていられないよね。お塩は貴重品だしね。


 ラドクリフ家は辺境の片田舎で、男爵位をたまわっている。

 治める領地は小さな村ふたつの貧乏男爵家だ。なので館も小さく使用人も少ない。

 マーサのほかには初老の執事バートンと、御者兼馬屋番のトムと、従士五人を抱えている。

 従士っていうのは、平民出身の貴族家お抱えの武人ね。

 騎士は国王陛下から叙任じょにんを受けて正式に名乗れるので、それ以外は騎士を名乗れないんだって。

 例外で騎士を持てるのは辺境伯だけなんだって。

 有事の際には村人から徴兵するらしいけれど、僕が生まれてからは、一度も戦争などは起きていないそうだ。

 平和が一番だよね。


 ちなみに寄親は北のラグナード辺境伯。母様の生家である。

 ラドクリフ領はラグナード辺境伯領の西の端っこに位置する、山と森に囲まれたへんぴな場所だよ。王国の最果ての地だね。



 質素な朝食を食べ終えて、薬草茶で一息つく。

 紅茶なんて高価でめったに飲まないよ。

 素朴な薬草茶も慣れればおいしいものだ。

 うむうむ。

 僕がまったりしていると、父様がにっこりと笑って話しかけてきた。

「さてハクよ。五歳の誕生日おめでとう。それで、どのようなギフトを授かったんだい?」

 ふたりの兄様たちも、興味津々なようすでこっちを見ていた。


「うーんと、『しょくぶつさいばいまほー』っていう、スキルでした」

「ほぉ、植物栽培かい?」

 嫌な顔ひとつせず、父様は機嫌よく笑っていた。

「あとねー、『せいかつまほー』だったよ」

「生活魔法か……」

 リオル兄が何事か考えながら、小さな声でつぶやいた。


 どっちかっていうと、平民に多い平凡な地味スキルだから、期待はずれだよね。

 まぁ、無いよりはマシって感じかな。

「生活魔法も便利だよね」

 レン兄がニコニコと笑ってくれた。

 レン兄の場合はまったく悪気がないんだよね。

「だよねー」

 僕も気にせず、ほえほえと笑い返しておいた。

 兄弟仲はいいのだよ。

 むふふ。


「ふむ、ハクは農業の才があるようだね。レンもリオルもいることだし、将来は好きな職業を選ぶとよいだろう」

 父様も穏やかに笑ってくれたよ。

 きっと僕が戦闘系のスキルでなかったことに、ホッとしていると思うんだ。

 僕って小さくて成長が遅いんだよね。

 まだ上手にお話しできないし。

 何より僕は三男だしねぇ。過度な期待はされていないよね。

 どう見ても末っ子のマスコット枠だし!


 ちなみに、父様のスキルは槍術そうじゅつ・剣術・騎乗・土魔法らしい。

 辺境の領主様は優男やさおとこでは務まらないよ。危険と隣り合わせの領地だからね!


 参考までに、レン兄のスキルは剣術と槍術そうじゅつと土魔法でパパの遺伝系。

 リオル兄は弓術と剣術と火・風魔法。リオル兄は怒ると怖いんだよ~。

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