異世界だけど魔法は使いません!

猫の灯籠

転生編

001  化学者になるはずだった少年

「うん、今回も廉太郎さんに異常はありませんね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いえいえ。では、お大事に」


現在16時過ぎ。ふう、やっと終わった。疲れたー


ブーーーッ ブーーーッ

「もしもし、母さん?」

『いや、父さんだ。検査結果はどうだった?』

「あーうん、特に異常ないって」

『そうか・・・よかったな』

「・・・まあね」


どうなんだろうね。案外早く死んだほうが楽かもよ?


『明日お見舞いに行くからな。何か欲しいものはあるか』

「特に何も。それじゃ」

『ああ。お大事に』


あ~あ、どうしてこう惰性で生きなきゃならないんだろう。


僕、塩野義しおのぎ廉太郎れんたろうは今年で17になる高校生だ。

僕はとある難病にかかっている。

週に一度は精密検査をしなくてはならない。

今日も検査だった。


正直生きるのが疲れてきた。

聞いた話だが、この病で苦しみながら死ぬ人はおらず、死んだ人は皆穏やかな顔をしているんだそうだ。

それと、死ぬ少し前に「自分が死ぬこと」がわかる。


「あ~あ、なにかすることないかな~」


コンコン


「おう、お見舞いに来たぜ!」

「ああ、創一君。来てくれたんだ」

「もちろんだ!今日のプリントはこれとこれだな」

「ああ、ありがとう」


彼は車田創一くん。僕の幼馴染で唯一の親友だ。


「飯は食えてるか?」

「うん、いつも通りには」

「そうか。なら良かった。それで、今日学校でさ・・・」


そのまま他愛のない話をして。


「そういえば、化学の勉強やってるのか?」

「うん。一番時間を忘れられるからね」

「そっか。んで、どこまで進んだんだ?」

「高3の二学期の範囲までは進んだよ」

「すげえな・・・流石未来の化学者だな!!」

「ははは、そうなるといいな」


・・・


「んじゃあ、またな。明日も――」

「ああ、そうそう。――――――――――――――――――――――――――。」

「・・・そっか。わかった。んじゃあ」

「ああ、それともうひとつだけ・・・」

「ああ。わかった・・・んじゃあ、な」



―――――――――――――――――



「11時37分。残念ながら、ご臨終です」

「そんな、廉太郎!!そんな・・・」


確か、前日の検査は異常なしだって・・・


「うそ・・・前日の検査で異常はないって言ってたわよね・・・?」

「ああ・・・確かに廉太郎からそう聞いた・・・」


俺たちに嘘を伝えたのか・・・?いや、廉太郎に限ってそれは・・・


「なら・・・どうして・・・・・・」

「いや、俺にも・・・わからない・・・」



ガラガラ


「えっと・・・失礼します。車田です」

「ああ、創一君・・・」

「すみません。こんな時に・・・っ!廉太郎・・・まさか、ほんとに・・・」


かなり小さい声だったが、その声は幸か不幸か私の耳に入ってきた。


「・・・創一君。もしかして、廉太郎から何か聞いていたのかい?」

「っ・・・はい。昨日のお見舞いの・・・帰り際に。」

「なんて言ってたのか、教えてくれるかい?」

「『明日の昼11時37分、たぶん僕は死ぬ。だから明日お見舞いに来なくていいよ』って・・・っ」


嘘だ・・・何故、そんなことが分かって・・・


「実は、近所のじいちゃんから聞いたことがあって。自分が死ぬ24という話があるんです。」


ということは・・・廉太郎は検査の前から・・・

・・・?


―――――――――――


まじかー、あいつほんとにわかってたんだ


「そんな・・・じゃあ、あいつは死ぬとわかっていながら・・・」


そういうことになるんだろうな。

むかしからあたまがよかったとはいえ、ほんとおそろしいやつだぜあいつは。じぶんのしぬじかんまであてるなんて。


ほんと、あいつもはくじょうなやつだぜまったく。さりぎわにさらっとつたえるなんてよぉ。どうはんのうしていいかわからないじゃねえか


そんなじぶんのことはさらっというくせに、かぞくやおれのことはきにしやがって。

しかも『君に無理のない範囲で、父さんたちを助けてあげて』ってむだにきづかいしてきやがって。


もっとじぶんのことをいたわれよなあ。いちばんつらいのはおまえなんだから。


そうだよな・・・廉太郎。


なんで・・・なんで・・・なんで俺は・・・

もっとあいつに寄り添ってやれなかったんだよぉぉぉっ!!

一番つらいのはあいつじゃねえか!!なんで・・・なんで・・・!

もっと何かできただろ俺ぇ!!

何が『無理のない範囲で』だ!変な気づかいしてきやがって!!

親友だろ俺たちは!『死んでも守れ』とか言ってみやがれ!!

しかも、なんだよ去り際にさらっと言ってきやがって!どう反応していいかわからねえじゃねえか!!もっとちゃんと・・・話してくれてもよかったのによお・・・


























次回から転生編です

次回ヒント:HO-(C₆H₄)-NO₂

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