第4話 森のアイス
「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」
「OKです!」
クロとカスミはアテモヤ畑に向かった。
葉の生い茂る木にアテモヤの実がいくつか見える。ところどころに実を取った跡と思える切り口が見える。おそらく昨日までは実があったのだろう。
「大変なことが起こりましたね。」
クロが畑の持ち主に声をかけると
「観光客も近くを通ることもあって、いつも見回りしているのに・・・」
ため息を吐きながら応えてくれた。
クロは畑についている台車のタイヤ跡を見ていた。ただ、これは盗ったときのものか、収穫の際についたものか分からない。どこかに犯人の痕跡がないか、なにか見逃してはないか、違和感はあるものと思って探す・・・。しかし見つからない。
クロの視線を追っていたカスミが畑に落ちているパンフレットを見つける。それはホテルで手渡しで配っていたものと同じものであった。
「ねえ、クロ。パンフレット配っていた人って怪しくなかった?」
「いや、特に変なところはなかったな」
「そっか・・・、クロが言うなら間違いないね。」
カスミはそう言ってパンフレットを握りしめた。
「とりあえず、夜の様子が知りたい」
クロは盗難された状況を確認したいと畑の持ち主にお願いをしている。
夜になって畑に来ると、周囲でいろんな声が届いてきて台車程度の音は周囲の音にかき消されそうだ。しかし、畑自体は変わったところはなかった。
翌朝、クロはホテルのロビーでカスミを待っていると、ロビーでは昨日と同じようにパンフレットを配る男性が観光客に話しかけている。その様子を眺めているとカスミがエレベーターから出てきた。
「カスミ。やっぱりカスミの読み、合ってたかも」
クロはカスミに話かけた。
「何がです?」
「パンフレットの男性、何かある。」
「見えたのですね。カマかけてきまーす。」
カスミが男性に話しかける。
「畑でみたです。」
「畑で私を見た? 夜は呑みに行って畑には言ってないよ」
「夜? 夜の畑は暗くて誰だかわからないです。何で夜です?夜に畑にいたのですよね。」
「あなた、今日、時間短いですよね。一日見てましょうか? 昨日良くないことをしていますね。すでに警察に連絡しています。」
クロが男性の後ろに立って話すと男性は白状した。
話を聴くと、男性は様々な南国フルーツ畑に盗みに入っては、その果物を一口大にして観光客に販売していた。場所を変えて販売しており、その都度パンフレットを配って集客していた。驚くことはフライトアテンダントと思っていた女性はコスプレで男性の盗難仲間で観光客を安心される役割だったことだ。
「
そう言った男性の言葉がしばらく頭から離れなかった。ちなみに、警察に連絡したというのは、ちょっとした嘘だ。男性が白状してから警察の方には来てもらった。
「クロ、昨日は見えなかったです?」
「私も変だと思った。きっと盗難は深夜の日付を超えていたんだと思う。盗った日に会ったからわからなかった。盗難の翌日は今日だから。」
クロはそう答えた。
クロは特殊な能力を持っている。それは他人の使える時間が見えることだ。
今回、パンフレットを配っていた男性が初めて会ったときに比べて、翌日会ったときには使える時間がかなり短くなっていたため、何かの犯行に関わっていることに気付いた。
「クロの能力、便利だよね。」
カスミだけが知っているのだが、ときどき羨ましい目でみてくる。
「探偵向きな能力な気がするよ。見えるから事務所に居ずに出歩いているのもあるかな」
そう言いながら、ホテルの売店で売っていたアテモヤを持ってきてカスミにスプーンと半身のアテモヤを渡した。クロは箸を持って器用に半身のアテモヤを食べている。
「パイナップルみたいな味!美味しいです!!」
カスミは美味しさをしっかり声に出して作ってくれた方へ感謝している。
そう、ここはゆらぎの国・・・
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