第3話 森のアイス
ここは”ゆらぎの国”。
善いことをすると時間が増え、善くないことをすると時間が減る世界。
≪事件発生≫
夜も更け、畑はひっそりとしていた。ただ、リゾート地に近いためか、どこからか音が聞こえてくる。そんな中、コブシ大の緑色の何かを台車に山盛り乗せて運ぶ人影。台車の音はどこかの音にかき消されていた。
朝になり、アテモヤの畑を見に来た農家の男性が落胆して膝を落とした。昨日まであった収穫間近のアテモヤはほとんど無くなっていた。
≪事件当日の昼≫
「やっと着いた! 暖かい!」
クロは飛行機から降りた。朝、飛行機に乗る前は雪もちらついていたが、ここは20℃を超えている。上着をスーツケースに詰めていると女性が追いかけてきた。
「待って、待って、待つです!!」
カスミである。カスミはいつものようにそそっかしく、帽子を落としたようでフライトアテンダントの女性に拾ってもらっていた。クロは遠めに見ながら忘れものを届けてくれた女性に会釈をしていた。
「クロ、今日はどこに行くのです?」
追いついたカスミが唐突に聞いてきた。
「明日、亜熱帯地方の果物を見に行こうと思って。今日はホテルにチェックインしたら観光しよっか」
クロは荷物を部屋に置き、ロビーでカスミを待つことにした。
ロビーには多くの宿泊予定客がおり、ガイドブックを見ながら話をしている人たち、その観光客に何かのパンフレットを配る男性などがおり、また、フライトアテンダントもこのホテルに泊まっているようだ。
「お待たせです!」
カスミが声をかけてきた。
「ところで、クロ。いつも出掛けているけど、事務所にはいなくていいの?今、誰もいないよ。依頼があったりしないの?ここからすぐに帰れないよ?」
探偵の仕事は私とカスミの二人でしており、カスミが気にしているように現在事務所には誰もいない。
「ん? 事務所の入口に入ったところにおっきいモニターがあるよね。依頼者が来て話をするときには、モニター越しに遠隔でこのスマホと会話が出来るから、どこにいても問題ないんだよね。むしろ、外に出ないと誰の役にも立たずに日々終わってしまって、使える時間がどんどん減ってしまう。」
「あっ、なるほどです。あのモニター、宇宙の動画しか見たことないから、たんなる癒しグッズと思っていたです。」
「僕らがいるときはモニターに自分は映さないからな~。あっ、何か映してほしい要望があったら言って。」
と提案したが聞いていないようだ。オンラインでの打合せも増え、待ち時間も少なくなったこともあり、こういった”少し気になる”程度のことを話す機会も減ってきたと感じている。外に出る効果として、こういった道中で話が出来ることも有難い。
「あっ、フライトアテンダントのお姉さん!」
とカスミが声を上げた。そこには機内に忘れた帽子を届けてくれたフライトアテンダントの女性がいた。
「あっ、さっきの赤い帽子の・・」
パンフレットを配る男性からパンフレットを受け取っているところで、パンフレットを配る男性と共に驚いたような様子であったが、二人でこちらに近づいてきてくれた。
「この近くで、その場で食べられるように切っている果物を売っているんです。その時その時で果物の種類や量が変わるのでガイドブックに載せていないんです」
そう言いながら男性はパンフレットを手渡してきた。
そのとき、ホテルに男性が走って入ってきた。
「次はアテモヤが盗られた!!」
森のアイスクリームとも表現されるアテモヤが盗まれたとのことであった。
「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」
「OKです!」
『次は??』クロはこの表現が気になっていた。
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