火の魔物

@kasukana

プロローグ

『**様、突然DMをお送りして大変申し訳ございません。私は都内で会社員をしている者です。こちらのツイッターで**様の呪術を拝見致しました。私個人の身勝手な話ではありますが、聞いて頂きたい恨みがございます。私が恨んでいるのは、今テレビなどでも話題になってる医師です。平成生まれのヤンキーカウンセラーと言えば、誰のことかお分かりになると思います。もう、10年以上前の話ですが、私が中学生だった頃、私と私の友人のKは、同級生だった彼からいじめを受けていました。毎日が地獄のような日々で、それは命の危険を感じるほどでした。大人に助けを求めることは、彼に殺してくれと言っているのと同じでしたし、当時、大人たちでさえ彼は手に負えない状況でした。そんな中学時代を乗り越えることが出来たのは、Kの存在があったからです。矛先が自分に向くようにかばったり、体を張って守ったりすることは出来ませんでしたが、私たちは常に行動を共にし、お互いにいじめの目撃者となって、彼がとどめを刺さないよう、抑止をしていました。言わば、私にとってKが最後の命綱だったのです。卒業をして、彼から解放されても、中学時代の苦しみが癒えることはありませんでした。私の人生、恐らくKの人生も、中学生の時に終わってしまったのだと思います。正直、私には生きている実感がないのです。ところで、彼はどうでしょう? テレビで彼がこう言っているのを何度も見ました。「昔はヤンチャだった。反省して、自分を変えようっていっぱい勉強して、昔の自分みたいな子供に、手を差し伸べる仕事に就きたいと思いました。今はテレビに出て、自分の活動をもっともっとたくさんの人に知ってもらって、一人でも多くの悩める若者を救いたいと思っています。」彼は変わりました。良いことです。変わるべきでしたから。変わっていないのは私たちのほうです。Kは、彼がテレビに出るようになってから精神に異常をきたしたと、Kの家族から聞きました。私も彼が話題になる度、いや、今はもう名前を聞くだけでも吐きそうになります。私の恨みの対象は彼の存在全てですが、私の望みは、せめて彼を芸能界から消してほしい、ということです。彼を直接傷つけたり、苦しめたりしたいのではありません。彼の名前を二度と聞かなくなるよう、芸能界から、確実に、消してほしいのです。ご検討の程、何卒宜しくお願い致します。』既読


『承りました。』

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