第22話 俺の身に一体何が…?

 今、中村優斗なかむら/ゆうとは学校にいる。


 放課後の現在、色々なことに直面していた。


 昨日の件もあり、優斗は彼女に詳しく聞いてみようという思いに至っていたのだ。


「あのことだけど」

「もしかして、わかったの?」

「少しは」


 優斗は南奈と向き合うようにして、ただ頷いた。


 優斗は、昨日のアルバムを見て、自分が把握していなかったことを知ったのだ。


 母親からあまりよい返答のなかった過去の出来事。

 少しだけでもわかり、心が緩やかになった。


 でも、それと同時に、これ以上知ってしまうとよくない出来事が置きそうで怖い。

 そんな心境に至りつつあった。


「じゃあさ、あの件はわかった感じ?」


 部室内にいる二人。


 南奈は優斗の方へとグッと近づいてくる。


 あの事、わかっているよねといった表情を見せ、優斗の顔色を伺ってきていた。


「あの手紙のことだよな。二人から選ぶってこと」

「そうだよ。というか、気づくのが遅いからね。もう少し早くに思い出してほしかったけど……でも、優斗が苦しくなるかもしれないから。私の口からは直接言わなかったんだけどね」


 彼女は意味深な感じに言う。

 まだ、隠していることがあるのだろうか。


「直接言わなかったというのは?」

「なんでもないよ。わからないのなら、無理に思い出させることはさせないから」

「……隠し事か?」

「いいじゃん。隠してるっていうか。知らない方が、気分いいままでいられるかもしれないよ」

「そんなものなのか?」

「うん」


 彼女は軽く頷いて、それ以上多くを語ることなく、優斗から距離を取った。


 南奈がまだ言っていないことがあるのが明白だ。


「それで、話しに戻るけど。私の方がいいよね?」

「……」

「どうしたの? 恥ずかしいとか?」

「そうじゃないさ」


 優斗は彼女からパッと顔を逸らす。

 彼女の方は極力見ないことにした。


「なんで、そんなに私と視線を合わせてくれないの?」

「色々あるんだよ」


 彼女のペースに流されてはいけない。


 内心、そう思っていた。




「あとさ、俺、わかってるから」

「え? な、何を?」


 優斗の突然の発言に、少しだけ動揺する顔を見せていた。


「わかってるって? どういう意味?」

「昨日の件って、君が原因なんだろ」

「なんのこと?」

「昨日、この部室に、芽瑠が来た件だよ」

「へ、へえぇ、わかってたの?」

「わかっていたっていたというか。その時はわかっていなかったさ。でも、たまたま、今日の昼頃さ、聞いてしまったんだよ」

「盗み聞き? 私から見えないところで、勝手に聞くなんて、変態じゃない」

「変態とかじゃなくて。そもそも、君が、クラスの友達とグルで芽瑠を、ここの部屋に来るように仕組んでいたんだろ?」


 優斗はハッキリと言った。


 臆することはしない。


 すべてを明らかにしようと必死になっていたのだ。




 南奈が裏の方で、色々なことを仕組んでいたことくらい知っている。


 たまたま芽瑠が来たというわけじゃなかった。


 昨日の放課後、ここのオカルト部にやってきたのは、南奈の作戦だったのだ。


 優斗と芽瑠を強引に別れさせるための手段として。

 そのために、芽瑠が罠に嵌ったのだ。


 今のところ、優斗は芽瑠とは会話していない。

 昨日、この部屋で衝撃的な出来事があってから、まだ直接出会っていないし。遠くから彼女の姿を見る事しかできていなかった。




「そういうことは辞めてほしい」

「あなたって……そう、わかったわ。私の作戦がバレていなのなら、しょうがないね」


 彼女は諦めたように肩から力を抜いていた。


「まあ、いずれはバレるとは思っていたけど、案外早かったわね」


 南奈は、溜息を吐いていた。


「でも、私は、あなたと一緒になるためには、色々なことをするわ。それに、あなたには返す恩もあるから」

「恩って?」


 なんのことかと、優斗は首を傾げた。


「知らないの?」

「え? 何が?」


 意味が分からなかった。


「昔のアルバムを見てさ。その上、手紙の件も知ったんでしょ? じゃあ、あのことは知らない感じ?」

「あのことか……」


 他に何かあっただろうか?


 過去の出来事と言えば、田舎とか、手紙、それから芽瑠と南奈との関係である。


 ……いや、待てよ……そういや、もう一つある。


 あの件が、脳裏をよぎるのだ。


「もしかしてさ、屋敷の事か?」

「正解だよ。それね」

「やっぱり、屋敷は、夢とかじゃなかったのか」


 優斗は考え込むように小さく呟いた。


「屋敷のことは全部知ってる感じ?」

「まだだけど。それで、屋敷って、イベントで訪れた田舎にあったのか?」

「あったわ。結構、綺麗な感じで、相当なお金持ちが住んでいるような雰囲気があったわ」


 彼女はつい最近あった出来事のように話してくれた。




「聞く?」

「一応……」

「でも、知らない方がいいと思うけど。無理に思い出して、あなたを苦しめたくないし」

「なんか、優しいな」

「最初っから優しいから……あなたに対してはね」


 急にそう言われると、変にドキッとする。


 芽瑠に対してはあまりよい態度を見せず、嫌がらせ染みたことが多かったのに。


 嫌なところが垣間見れるが、心の奥底はそこまで意地が悪くないのかもしれない。


「……本当に聞くの?」

「まあ、知っておきたいし」

「何かあっても自己責任ね。それと、誰にも言わないでね」

「……わかった」


 優斗は唾を呑み、勇気を振り絞る。




「あなたはね……」


 優斗の心臓の鼓動が高まっていた。


「あなたは、一回ね……意識を失っていたの。なんていうか……生きているのが凄いっていうか」

「生きているのが?」

「うん」


 彼女は悲し気な顔を見せる。


「言いづらいんだけど、あの屋敷で、優斗はね。殺されかけたの」

「え? な、なんで?」

「なんでって……私が案内したあの屋敷にね。犯人がいたの」

「犯人?」

「うん」


 彼女は申し訳なく頷く程度。


「長年の間、未解決の犯人がたまたま、住んでいる場所だったの」

「そ、そんなの、普通じゃないだろ……でも、そんなに都合よく住んでいるのか」


 急に怖くなった。


 自分の生命が脅かされた過去があるとか。


 あまり考えたくない。


「でも、あなたがいたから何とかなったの。私だけだったらと思うとね――」


 夏理南奈なつり/ななは深くは話したくなさそうだった。


 それ以降、口を塞ぎ。この部室は一気に薄暗い空気感に包み込まれるようだった。

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