第2話 俺は念願のおっぱいを前に

 中村優斗なかむら/ゆうとに念願の彼女ができたのだ。


 やっとできたという嬉しさもある反面、困ったところもある。

 それは周りの視線だ。

 その視線は今後の脅威になるかもしれない。


 優斗は今、比較的静かな環境下で授業を受けている。

 そして、壇上前に佇む教師の姿があり、その女性教師がチョークで黒板に文字を書く音。それと、ノートをめくる音などが響いていた。


 そんな中、背後から伝わってくる闇のオーラを、優斗は背に感じていたのだ。

 それは先ほどから突き刺さるような周辺からの視線である。


 どうすりゃいいんだって……。


 今はまだ授業中であり、大きな被害はないものの、授業が終われば、環境は大きく一変するだろう。


 勉強するのは、そこまで好きではないけど。これほどまで授業が終わってほしくないと感じたのは初めてだろう。


 というか、今の授業が終われば、昼休みか。


 今日の朝、彼女が弁当を作ってきたとか、そんなことを言っていた。

 それは楽しみではあるが、やはり、辺りから向けられる恨みのような視線を乗り越える必要性があるのだ。


「これちゃんと聞いているかな? ここ、次のテスト重要になってくるからね」


 比較的静かな環境に、女性教師の声が響く。


 刹那、先ほどまで放たれていた恨み交じりの視線が消えた。


 重要という発言に、皆、黒板へと意識を集中させたからだろう。


 あ……。


 恨みのような感情がなくなった瞬間、優斗の気が緩み、机から消しゴムを落としてしまったのだ。


 最悪なんだが……。


 隣に座っている子の近くに落ちているのだ。

 その彼女は、ショートヘアの夏理南奈なつり/なな


 昨日までは普通だったのに。昨日の一件以降、態度が豹変し、睨まれるようになった。

 そういう事情もあり、関わりたくないというのが本音だが、しょうがない。


 諦めた決心を固めると、優斗は軽く立ち上がり、南奈の足元に転がって行った消しゴムへと手を伸ばす。


「ねえ、何してんの」


 と、小さい響きと共に、南奈の息が耳元へ吹きかけられる。


「――ッ⁉」


 優斗が変な声を上げてしまったことで、周りの人から変な目で見られてしまったのは言うまでもない。






「ねえ、食べてみてもいいよ」


 刹那、そんなことを言われた。


 優斗の視界の先には、ありえないほどの大きさの膨らみが二つある。

 それは高校生という年頃でも取得できないであろう双丘。

 もはや、優斗の視線はそこへしか向けることができなくなっていた。


 いいのか……。


 優斗がひたすら焦っていると。


「どうしたのかな? 汗かいているけど? 大丈夫?」

「ん? い、いや、なんでもないよ。なんでもね」


 隣のベンチに座っている彼女から心配げに顔を覗き込まれる。

 今、優斗は芽瑠と校舎の裏側にある、殆ど人が来ない場所に隣同士でいるのだ。


「そう? でも、頬が赤いよ? 今日はそんなに暑い?」

「え? いや、そこまでではないけど……」


 季節は夏というにもまだ早い。

 五月の終わり頃。

 若干、温かくなってきたかなと感じる程度。

 優斗は手で額などを伝う汗を拭おうとする。


「汗を拭くなら、ハンカチを貸すよ」


 結城芽瑠ゆうき/めるは箸を持っていない方の手で、制服から取り出したハンカチを取り出し、見せてくれる。


 花柄でピンクと白色のデザインだった。


「ありがと……」


 優斗は軽くお礼を告げ、それを手にする。


 甘い香りを感じながら、それで自身の肌へ当てた。


 ハンカチはハンカチでも、自分が持っている布と異なって感じる。

 芽瑠が所有しているものだからこそ、心地よく感じるのだろう。


 それと、いつ見てもでかく感じる、そのおっぱいを見つめながら、優斗はハンカチを洗ってから返そうとした。




「今日ね、頑張ってきたの」

「そうなんだ。でも、そこまで気を使わなくてもいいんだけど。でも、作ってきてくれたのなら嬉しいというか」


 優斗は楽し気な口調で言う。


 この昼休み一番楽しみにしていたイベントが今から始まる。

 午前最後の授業が終わるなり、敵視される視線から逃れるように、ここまでやってきたのだ。


 絶対に、彼女の手作り弁当を食べたい。

 そんな思いが内面からじわじわと湧き上がってくる。


 芽瑠は膝元に弁当を置いていた。

 そして、箸を使い、それを優斗の口元へと向けているのだ。


 彼女は箸で卵焼きを持っていた。

 その匂いを嗅ぐだけでも、食べた気になるほどに腹を満たせるようだ。


「食べて、感想を聞きたいんだけど」

「いいよ」


 優斗は承諾し、軽く口を開けようとした。


 近づいてくる卵焼き。

 それが口内に入ってきて、優斗の心を満たす。


「どうかな?」


 彼女は首を傾げ、問いかけてくる。


「普通に美味しいよ」

「本当? だったら、よかったかな」


 芽瑠が可愛らしい反応を見せるたびに、彼女の爆乳が揺れ動く。

 彼女の手作りの卵焼きもいいのだが。

 今、瞳に映っているおっぱいの膨らみばかりに視線が行ってしまう。


 いわゆるオカズのような役割を担っている。


 んッ、というか。


 こんなんじゃだめだとは思っているのだが、今感じている欲は食欲を上回っているようだ。


 性的な視線で、そのおっぱいを直視してしまっている。

 あまり、女の子の体をまじまじと見るのは良くないと思う。

 そうは思うのだが、さすがに爆乳を前にすると本能に欲に従ってしまうようだ。


 でも、今は落ち着くしか。

 今は食事に集中しないと。


 それ以前に、学園の中で爆乳美少女と称される芽瑠と接点を持てるようになったのだ。


 もっと彼女と距離を縮めるような会話をした方がいいだろう。


 優斗は優しく微笑んでくれる彼女の方を見やる。




「ねえ、今日は時間とかってあるかな?」


 優斗が話し始める前に、彼女の方から話題を振ってきた。


「時間か、大丈夫だけど」


 優斗は簡単に悩む姿勢を見せる。


 が、そこまで予定とかはない。

 むしろ、彼女のためなら、普通に予定を開けることは可能である。

 そもそも、そこまで友人とかが多くないといった都合上、スケジュールがないだけなのだが。


「じゃあ、いいかな?」

「いいよ」


 優斗は素直に頷く。


 これはもっと距離を縮められるチャンス。

 テンションが高ぶってくる。


「優斗君って、行きたい場所とかってあるかな?」

「まあ、ある程度は」

「じゃあ、優斗君が行きたい場所についていきたいんだけど」

「俺が行きたい場所?」


 優斗は一瞬悩むのだが。

 卑猥な考えばかりが先行してしまう。


 いや、そうじゃなくて……。


 あくまでも普通の店屋に決まっている。


 優斗は自分の心に言い聞かせ、放課後までに決めておくと、芽瑠に一言だけ伝えておくことにした。


 それにしても今日の放課後が楽しみである。

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