33個ある君の好きなとこ

斎藤 菊丸

私の配達員

 いつもと変わらない憂鬱な日、外では下校中の小学生たちの陽気な話し声が聞こえる。普通の人だったら可愛いと感じるのかもしれないけど、私にはわずらわしく感じる.......最近そんな私の為に課題を毎日持ってきてくれる人がいる。ただの善意かも知れないけど....友達になれなくても良いからせめて話せるようになれたら良いな。



 ピンポーン


姫原ひめはらです。課題届けに来ました」


「はーい今開けますね」


 陽気な声のぶつかり合いに続いてと鍵が開く音が家中に響いた。姫原さんが家に入ってからは、お母さんと姫原さんの日常会話が30分ほど続いた。2人の声が大きいから全部私に聞こえてるんだよね。やっと静かになったと思ったけど、足早にお母さんが部屋の前まで来た。


氷雨ひさめちゃん。姫原さんが今日も課題持ってきてくれたけど挨拶したらどう?」


「ごめん。体調悪いから代わりにありがとうって言っておいて.....」


「わかったわ。お母さんが代わりに氷雨の感謝の言葉伝えておくわね」

 

 お母さんは心配してるような声で答えた


「うん..お願い.....」


 私は体調が悪いと嘘をついてまで感謝の言葉を伝えることができなかった。お母さんに嘘をついてしまったと思うと、胸の奥がズキズキして視界が曇った。この日は自責の念に押し潰されそうになりながら眠りについた。


 次の日もその次の日も姫原さんは課題を届けに来てくれた.....

 でも私は一回も顔を出すことが出来なかった。今日も私の為に姫原さんは課題を持ってきてくれた。いつも課題を持ってきてくれるのに挨拶すらできない私はなんだろう。私は姫原さんが課題を持ってきてくれるたびに申し訳ない気持ちが日に日に膨らんでいった


「はあ私は何してるんだろう」


 静かな部屋に吐いた力のない独り言は誰にも聞かれることも無く、反響せずに部屋の反対側に沈んでいった。夕飯の時間になり母に呼ばれた私は重い体を2本の細い足で支えながらリビングまで向かった。


 





 

 

 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る