エピローグ:夜

※こちらは17:還るhttps://kakuyomu.jp/works/16817330655939258751/episodes/16817330656815623987 の後のエピローグです。

―――――


「な、なんだったんです? あの化物」


「お前は知らなくていい」


 車は無事に走り出した。に目を付けられたらお終いだと思ったが、無事に切り抜けられたようだった。

 助手席から声をかけてきたカイトの端正な顔は青ざめている。

 隠しておいて助かった。魔は美しいものを好む。こいつの顔を実際に見たら、愚かの女にガワを貸していた怪異がオレたちを逃がしてくれたかどうかはわからない。

 黄金姫おごひめ。それが、アレの名だ。

 人間を慈しみ、絹糸と穀物を授ける美しい神だったが、欲に溺れた人間共に閉じ込められ、辱められ、深い深い恨みを持ってこの地――木森を呪いながら朽ちた神。

 元々は蚕守の地という意味を持っていたのだろう。


「さっさと帰るぞ。お前も災難だったな」


「いや……まあ。兄ちゃんが死んだのは、ショックですけど」


「斉藤には悪いことをしたと思ってる。本当に」


「いや、あの女がカスでどうしようもないって見抜けないで嵌めようって言った俺も悪かったんすよ」


 斉藤が死んだのは誤算だった。カイトのために汚れ役や痛い目に遭ってもかまわないという顔以外は良い素朴で扱いやすいヤツだったから。

 さやが持っている繭が、拝み屋や人間相手にこづかい稼ぎをするような妖怪あやかし共が作ったものだと侮っていたのが悪かった。

 今後は、近しい便利な人間を使うのは控えよう。


「アレ、なにかの撮影とかじゃないんすよね? あの袋を被ってたやつら、本当に死んじゃったんですか?」


「どうしようもないカス共だ。問題無い」


 カイトは手にしていた札をやっと手放しながら、額の汗を袖で拭った。

 それから、疲れているのか目を閉じて、深い溜息を吐く。

 顔は抜群にいいが、こういう関心の無いことや得にならないことに深く言及しないのも、オレがこいつを近くに置いておく理由だった。

 きっと数週間もすれば、さやのことも、自分の代わりに死んだ三人のことも忘れるだろう。

 この村での惨劇も、死体は全てあの毛虫共が消してしまった。死体がないのなら、事件としても取り扱われないはずだ。おそらく、こういう場合は集団失踪として取り扱われ、一部のオカルト好きなやつら以外からはすぐに忘れられるに違いない。

 愚か者は、自分が見たいものを見たいようにしか見ない。

 それは、あの愚な女だけではない。だから、オレたちはこうして人間に混じって生きていけるのだ。

 依り代になった人間ならともかく、には、きっとオレの幻術は見破られていたのだろうな。

 今と昔で方法は変わっても、妖狐オレたちが人を化かして生きるのは変わらない。

 人に妖怪あやかしが混じって暮らしている分、今の方が苦労は増えたのかもしれないが。

 復讐を終え、解き放たれたが起こす災厄に巻き込まれる不幸な人間たちに少しだけ同情をしながら、オレは車を走らせた。

 しばらく休んでいたが、明日からまた人を騙す仕事が待っている。

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