【書籍版11/18発売】おごさま
小紫-こむらさきー
1:さあや
会いたいよ。なんで来てくれないの?
わたしがどうなってもいいんでしょ。だってお仕事だもんね、わたしと一緒にいるのは。
会いに来てくれないなら死んでやるから。
「だからぁ、そんなこと言われても無理だって」
電話口から聞こえるカイトの声からは、めんどうだって気持ちが滲み出ているのが、鈍いわたしにもわかる。
がやがやとお店の喧騒が電話越しに伝わってきて、お腹の辺りがぎゅって掴まれたみたいに痛くなった。
「俺に会いたくないんでしょ。ならいいよ。飛べって」
わかった。じゃあ、飛び降りる。
今ね、第三トーワビルにいるから。
「そっちの飛べじゃねえって。なんでそうなるんだよ」
だって飛べっていうからじゃん。
わたしにむずかしいこといわれてもわかんないよ!
「売り掛けを飛んでもいいよ。それで俺が苦労して、ハヤトさんに詰められてもさあやにはなんの関係もないもんな。わかった。さっさと消えていいよ。消えろカス」
そんなことしたいわけじゃない!
わたしはただカイトがわたしのことを見てくれればいいのに!
なんでこうなっちゃったのかわかんない。死にたい。
「じゃあさ、俺が自腹でシャンパン入れるよ。お前が頼んだってことにして。だから店に来いよ。一杯飲んだら帰って良いからさ。売り掛けも、とりあえず千円だけでも払ってくれればいいって」
泣いてぐちゃぐちゃな顔だから会いたくない。目も腫れてるし。
でも、カイトの声が急に優しくなって、ちゃんとわたしのことを心配してくれてるんだって思った。
だから、屋上へ続くドアノブから手を離して、踊り場の隅にうずくまる。
「何時にこれそ?」
0時までにはいけそう……とだけ答えてわたしは通話を切った。
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