第6話

 俺たちは外に出る。

 怪物どもが整列している横を抜ける。

 ホームセンターの横に空き地が見えた。

 その空き地へ怪物に誘導される。


「空き地で死ぬとか思ってなかったわ」


「和也! ほんとそういうとこだからな!!!」


「本当だよ! 和也バカじゃないの!!!」


 パイセンと美海に怒られまくる。

 俺のブラックジョークを華麗にスルーして怪物が俺の前に出る。

 目も鼻もない白い体。

 ただ牙の生えた口だけが見える。

 股間に生殖器はない。

 生き物として不完全な姿。

 クネクネと動く姿に自然と嫌悪感が込み上がる。

 その手には巨大な棍棒、その先っぽには丸い鉄球。そこからトゲトゲがびっしり生えていた。

 モーニングスターである。

 はいはい、モーニングスター。金星。明けの明星。

 明けの明星ルシファーね。


「はいーはーい。つまらねえギャグで場をしらけさせた和也くん。最初ね」


 俺の死因。撲殺決定。

 俺は考える。が、解決案は出てこない。

 いいや、いつもどおりで。


「へいへーい。あ、神ちゃん。タイム。靴紐ほどけちゃった」


「そう言いながら攻撃かましたらぶっ殺すぞ。そういうの飽きてんだよ!」


 あ、神ちゃん、ちょっとイラッとした。

 いいぞ、いいぞ。

 テンション上がってきた。

 俺はスニーカーの靴紐を結び、三回飛んだ。

 うん、ほどけない。


「おーし、張り切っていこう!」


 俺は親指を立ててパイセンと美海に見せる。


「おまえさー、そういう演出。死んだらしらけるからな!」


「ういーっすパイセン!」


 俺は背中の日本刀を前に出し抜こうとした。

 ぶるっと化け物が震えた。


「はじめッっっっ!!!」


 ノイズ混じりの神の声が響く。

 俺は上体を屈める。ダッキング。

 同時に膝の力を抜く。

 ぶんっと髪の毛の先をモーニングスターが通り過ぎた。

 俺は沈みながら刀を抜き化け物のスネに切りつける。

 ざくっと手応えがあった。

 俺はそのまま無理矢理足を前に出した。

 前屈立ちよりも深く、深く体の沈んだ体勢。

 立てた膝の横に上半身があった。

 インド武術のカラリパヤットでいえば馬の姿勢か。

 体を沈めたまま俺は怪物の腹を片手で突き刺していた。

 ぶにっとした臓物を切り裂く手応えがあった。

 だが腹から伝わる筋肉の動きは力強い。

 こりゃだめか。

 すぐに後ろに体を引き膝を立てながら尻をつく。

 俺の頭があった場所を鉄球が抜けていく。

 やっぺり目がないから狙いはテキトーだな。

 俺は通り過ぎる腕に切りつける。

 手首のカッティングは武器相手なら鉄板の戦法だ。

 体重が半分もかからない状態だが骨まで切断した感触があった。

 斬れ味が良すぎる。今度はいけたか。

 練習で骨付きの牛肉の塊を斬ったときと同じだ。

 東南アジアあたりではよくある訓練らしいが……役に立つ日がやってくるとは思わなかった。


「ぎしゃあああああああああああああああッ!」


 怪物が吠えた。

 切断したはずの手首は皮一つで繋がっていた。

 手首から触手が出た。

 触手は切断面に食らいつき、巻きつき、手首の肉と一体になる。

 あっというまに繋がってしまう。

 俺の額に冷たい汗がひとしずく流れた。

 俺は立ち上がり構える。

 俺を獲物ではなく敵と判断したのか。

 怪物は俺を威嚇しながら間合いを詰めた。

 俺は間合いを取る。

 敵が一歩つめると一歩引く。

 あと少し、あと少し。


「ぎああああああああああああああああああッ!」


 来た。

 怪物が吠えた瞬間、俺は大きく一歩引く。

 怪物は大きく一歩踏み込みモーニングスターを振りかぶる。

 そして俺の頭をかち割らんとした瞬間、


 ドンッと前に体が崩れ転んだ。


 どかんっとモーニングスターが落ちる。

 俺はこれを予想していた。

 完全に俺の計画だった。

 俺は両手で怪物の後ろ、首めがけて刀を振り下ろした。

 切断した手応えがあった。

 怪物の首がごろんと転がる。

 今度は動かなかった。

 首が繋がることもなかった。

 そうか、手首のカッティングは回復するが、一撃で致命傷を与えれば回復しない、と。

 ゲームと言い張るだけあってギリギリ勝てるように調整してやがる。


「はい勝った!!!」


 もちろん怪物が転んだのはトリックだ。

 タネは簡単だ。

 スニーカーの紐を結ぶフリをして草を結んでおいた。

 で、戦いながらそこに誘導したわけだ。

 怪物は草に足を引っかけ転倒。

 その隙に首を切り落としたわけだ。

 パイセンがため息をつき、美海が額を押さえている。

 卑怯とは言わせない。

 これが俺のスタイル。

 そもそも俺を巻き込んだのが悪い。


「神様よお、怒ってるかもしれから説明しとく。そいつは現代だったらただのこすっからくてアホな学生だ。だが……俺たちの師匠から言わせれば戦国時代だったら名を残しただろうってさ。その……なんだ。和也をゲームにさそったのは……運が悪かったな」


 パイセンのひどい解説があたりに響く。

 するとキーンッとスピーカーからノイズが鳴る。

 そのあとすぐにあの耳障りな声がする。


「ひい、ひっひっひっひ! 笑える! 笑えるよ、おまえ!」


「あ、そう。それじゃさ、なんかちょうだい」


「なにがほしい? 言って見ろよ!」


「おまえの殺し方教えて♪」


「あははははは! おまえ、本当にいいよ! 本当にいじらしいよ! 神を殺すだって!? 本気で殺そうと思ってるだって!? 最高だよ、おまえ!」


「だろ、で、おまえの殺し方は?」


「村営団地四号棟702号室。ここに来ればすべてが終わるだろう。確実に死ぬだろうがな」


「だってよ! 王さん!」


「希望がわいた」


 王がバンッと槍の石突きを地面にぶち当てた。


「おいおい、喜ぶのはまだ早い。おまえの女には死んでもらおう」


「は? 俺の女?」


「おい、女子高生! 次はおまえだ!」


 美海は下を向いた。

 俺は思わず笑いがこみ上げる。


「うひゃひゃひゃひゃ! 殺す? 武器持った美海を? バカじゃねえの!?」


 パイセンもゲラゲラ笑う。


「がはははははは! 最初の戦いで美海を殺せなかったのは失敗だったな!」


「二人ともあとで殴るから」


 いやバカだよね。

 古い昔の人間像を引きずってるんだろうな。

 一番頭おかしいの美海だぞ。

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