第2話
交番の先には村があった。
廃駅近くには放棄されたマンションが建ち並ぶ。
俺たちの親くらいの年齢の建物だけあって金属部分が錆びていた。
昭和のニュータウンだけあって古そうな一軒家が並んでいる。
わざとらしく配置されてる公園に子どもの姿はない。
遊具はどれも錆びていた。
しばらく行くと商店街が見えてくる。
昭和式の屋根のあるアーケードだ。
商店街の店は閉まっていたが、東京でもよくあるチェーン店の看板があった。
だが俺はそれを見て違和感しかなかった。
たった400人の村にバーガー店!?
それも店の名前を多言語で同時表記されたバーガー店があるだと!
「パイセン、おかしくね?」
「おまえも気づいたか。こんな400人ぽっちの村が大手チェーンだらけだ。鉄道すらないのに。しかも人の気配がねえ」
「ですよねー」
コンビニまで!?
いまは閉まってるようだが。
冗談だろ。
住民より多い鹿が使うのか?
さらに奥へ行くとホームセンターが見えた。
「おかしいと思わねえか?」
「なんすかパイセン」
「ガキがいねえ」
「都内だって最近は少ないっすよ」
「少子化だからな。だがここは
「そもそも誰もいないっすよ」
「それがおかしいって言ってるんだよ」
まったくその通りである。
都内だって安いファーストフード店は年寄りだらけだ。
だがそもそも年寄りを見かけてない。
店も開いてない。
看板は目新しいので廃店舗ではなさそうだ。
なんだこの気持ち悪い村は。
まるで東京の住宅街を丸写ししようとしたような。
まるで赤羽や十条や板橋みたいな……。
ホームセンターまで行くと営業しているようだ。
ガソリンスタンドも併設されていてる。
ここでだけ昭和の地方都市風だ。
「とりあえずガソリン入れてくるわ。ホームセンターで聞き込み頼むわ」
「うっす」
ホームセンターに入る。
中にはスキンヘッドの大男とやたら派手なお姉さんがいた。
年は20代後半だろうか。
髪の毛は金髪。
黒く焼けた肌。
ギャルってやつだろうか。
そのわりに爪はネイルアートのネの字もない。
気になるのは手の平の拳ダコ。
スキンヘッドの方は30代後半。
筋肉質で背の高い男だ。
ただ足を引きずっている。
男は指の爪が変色して、指も曲がっていた。
目が悪いのか黄色いレンズの眼鏡をかけている。
中国武術の鉄砂掌や毒手なんていう訓練では指が曲がって目が悪くなるって聞いたことはあるが……。
都市伝説の部類だ。
こればかりはわからない。
「すんませーん。人探してるんすけど」
と声をかけると女性店員が来た。
「あれま、外の人? こんなとこまで入っちゃったの? 駐在さんなにしてんのよ!」
なんだか怒ってるようだ。
するとスキンヘッドの店員がうなるような、威圧的な声を出した。
「いますぐ帰れ」
男はボキボキと指を鳴らす。
よくみると側頭部に蛇の
手首には刃物傷。
実戦経験者か?
「ちょっと、
「順子。おまえもわかってるだろ? こいつじゃ生き残れない」
なんかムカつく言い方だ。
俺はやれやれと首を振る。
その間にも男は威嚇してくる。
ぶん殴るか?
頭によぎった瞬間、品が目に入った。
おかしい。
ふつうのホームセンターにマチェーテなんか置いてあるだろうか?
鉈ならわかるが、あれは軍用だ。
それにナイフも。
バタフライナイフやカランビット、美海の好きそうなナイフが揃ってやがる。
おいおい、ベトナムの
ホームセンターにしちゃ品揃えがおかしい。
狩猟の用品とは思えない。
すべて戦闘用の刃物だ。
マニアックすぎるだろ。
「わかるのか? おまえ、なにを使う?」
スキンヘッドが俺に問いかける。
「そこら辺のアジアの刀剣ならほとんど。あまり大きくないやつ」
「そうか。持っていけ」
男が俺に
「いいか、これが最後だ『さっさと帰れ』。俺は忠告したぞ」
「どういう意味だ?」
「探してる女。たぶん廃校にいると思うぞ」
「ちょっと王ちゃん! なに教えてんのよ!?」
空手女子。順子はたしなめるが、王はどこ吹く風。
だがそんなことはどうでもいい。
町並みがおかしかろうが、行政の不正だろうが好きにしろ。
美海さえ回収できればこんな村に用はないのだ。
「ありゃ村に呼ばれたんだ」
王が最後に気になることを言った。
意味深すぎるセリフだ。
さっさと美海を捕まえて東京に帰ろう。
外に行くとパイセンが男たちに囲まれていた。
俺は不幸にもその一人と目が合ってしまう。
「よそ者がもう一匹いたぞ!」
嫌な予感がした。
俺は地面に手をつき身をよじり
ドーンッと音がした。
撃ちやがった!
40歳くらいの男が猟銃を構えていた。
刃物と違い、それが散弾銃なのかライフルなのかはわからない。
だが長い銃からなにかが発射されたのだけはわかった。
当たらなかった。
相手がヘタだったのか、それとも俺が武術の奥義に目覚めたのか。
とにかく銃弾をよけた俺は立ち上がる。
そのまま男たちの方へ全速力へ駆ける。
いち、にい、さんッ!
跳び上がり猟銃の男を蹴飛ばした。
男は地面に背中からモロに倒れた。
「パイセン逃げんぞ!」
二人で急いでバイクに乗る。
「あ、てめえら! くそ! 追うぞ! よそもんが!!!」
血走った目の男がもう一発銃を撃った。
銃弾はホームセンターの脇にあった看板にぶち当たって大穴を開けた。
「マジで撃って来やがった!」
俺が嘆くとパイセンが叫ぶ。
「田舎ってマジでこんなノリかよ! 短期留学したメキシコだってここまでおかしくなかったぞ!」
残念ながら俺は東京生まれの東京育ち。
旅行だって大都市しか行ったことがない。
意味がわからねえ。
なぜそこまで必死になって追ってきやがるんだ?
「パイセン! この村変ッス!」
「言われなくてもわかってるわい!」
ですよねー。
普通、いきなり銃撃つか?
「戦闘用の刃物ばかり売ってるホームセンターの入れ墨マッチョが美海は廃校にいるって」
「なんだその属性の見本市!」
「言ってる俺もわからねえよ」
廃校に向かう途中で何人かの人とすれ違った。
40代より上の世代がいない。
そして全員が俺たちを見ると怒鳴った。
「村から出て行け!!!」
その辺の主婦っぽい人が鎌を振り上げて叫ぶ。
もうやだこの村。
「帰れ!!!」
「近づくな!!!」
「馬鹿野郎! さっさと帰れ!」
なぜそこまで俺たちを嫌うのか。
行く先々で罵声を浴びる。
だがおかしい。
よそ者だからと差別されてる感じはない。
それよりももっと必死なもののような……。
考えてると数分で廃校に到着した。
パイセンは降りるといきなり怒鳴った。
「おーい、美海! 迎えに来たぞ! おい、美海! バカ娘! さっさと帰るぞ!」
シーンっとするならわかるが、ドタドタと足音が響いた。
美海がここにいる。
それは確信に変わる。
「おい美海!」
と大声を出した瞬間、目の前にしゅるんとなにかが通る。
それは回転しながら空を飛び、だんっと俺の近くの木に刺さった。
俺はなにかを見る。
斧だ。
これは……こんなことするやつは一人しかいない。
「人に刃物投げんなって言ってんだろがクソバカ!!!」
「うるせえクソ眼鏡!!! 帰れバカ和也!!!」
この態度の悪さ。
そこにいたのは制服姿の小柄な女子高生。
真面目そうな三つ編み地味子。
だが一皮むけば凶暴そのもの。
美海だ。
「迎えに来たんだ、ぶぁ~か! おばさん心配してるぞ!」
俺がそう言うと美海は石を拾って俺に投げてくる。
ちょ、危な!
「うるせえ! 帰らないって言ったら帰らない! うちのババアには美海は死んだって言っておけ!」
よく見ると美海は涙目だった。
一度言い出すと聞かないんだよなあ。こいつ。
パイセンはその辺をよくわかっているのか無慈悲にスマホを取りだし通報。
だがなにかおかしい。
「おい、和也! 電話通じねえぞ!」
「は?」
「電波来てねえ」
「ファーストフードの注文システム、いまは全部ネットだろ? いくらなんでも電波くらい来てるだろ?」
俺はスマートフォンを取り出す。
電波の表示に×がついていた。
嘘だろ。
「まあいい。国道出りゃ電話も繋がるだろ。美海、帰るぞ! オラ、サイドカーに乗れ! 和也おめえは後ろな!」
「ちょっと待ってよパイセン! わたし帰れない!」
「ああん? おめえなに言って……」
「来て」
「おめえ、帰るって言ってんだろ」
「いいから来て!」
真面目な顔をして美海が言った。
なんだよ。こっちは変なおっさんに銃まで撃たれたってのに。
校舎の中に入る。
……おかしい。
昭和に建設された木造校舎。
なのに中は真新しい。
内装工事?
違う。デザインが異様に古い。
「なんだこりゃ、映画でしか見たことねえデザインだな」
パイセンもサングラスを外して興味深そうに眺めていた。
美海に講堂へ案内される。
そこにはうつむく女子生徒と横たわる布をかけられた何人もの
俺は女子に声をかける。
「君は?」
女生徒は体育座りでブツブツ独り言を言っていた。
髪もボサボサで何日も風呂に入っていないようだった。
「無駄だよ。翔子、ショックでそうなっちゃった。目の前で進藤くんが死んだせいだと思う」
「死んだ? なにがあった?」
「和也、めくって」
言われるまま布をめくる。
頭の潰れた生徒たちの遺体があった。
……うそだろ。
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