第4話 切り札

「ぐうっ! なんのこれしき・・・!」

戦いを始めてから、どれくらい経っただろうか。

魔族の長に何度も攻撃を当てることは出来ているが、まだ倒せる気配はない。


逆に、こちらも危ない場面は何度かあったけれど、

最初にソフィアの光を受けてから、相手の動きも鈍っているのが幸いしている。


前衛と回復役が揃い、私とソフィアが隙を作り攻撃を仕掛けるこちらのほうが、

押しているように感じられるけれど、

どうしたって体力や魔力に限界はあるし、何かの拍子に逆転され、

そのまま押し切られてしまうだけの恐ろしさが、魔族の長にはある。


私達に必要なのは、戦いを終わらせる決め手だ。



「アカリ様・・・」

ソフィアが私を見て、そっと手を動かす。


「そうだね、ソフィア。」

二人で決めた合図だ。どうやら、私達は同じことを考えていたらしい。


召喚サモン、アクエ。召喚サモン、アエル。」

水と風の精霊を同時に召喚する。

少しばかり体にきついけれど、大技のためには仕方ない。


騎士団の人達と、魔族の長の戦いを見つめる。

先程からこちら側が押しているから、すぐに精霊の力は必要ないと思うけど・・・


「くっ・・・!」

あっ、騎士の一人が弾き飛ばされた。

近くの二人も危ないし、このままでは陣形が崩れてしまう。


「アエル!」

力を振り分けて、風の刃を飛ばす。


「むっ・・・!」

魔族の長には効果が薄かったようだけど、

ひとまず相手の勢いを止めることは出来た。

そのまま数回の攻撃を繰り返し、時間稼ぎを狙う。


周りには何をしているか見えないよう、

ソフィアが認識阻害の魔法をかけてくれているけれど、

その中では水の精霊と風の精霊がフル稼働中だ。


あっ、騎士団の人達が何人か、こっちを見ている。

ソフィアの追撃が無いのは、私達が別のことをしているためだから、

その辺りを察して、敵を抑えてくれるようお願いします・・・



*****



「アカリ様の世界では、魔法は物語の中の存在なのですか?」

「うん。だから、ここでは私も使えるって知った時は、わくわくしたよ。」


「わくわく、ですか・・・?」

「あっ・・・こっちでは勉強みたいなものだから、

 ソフィアには楽しいって感じじゃないのかな。

 物語の主人公や仲間たちが、こう格好よく使ってる場面を見ると、

 やっぱり憧れるというか・・・」


「・・・良かったら、お聞かせいただけませんか?

 アカリ様が知る、物語の魔法を。」

「うん、もちろん!」

初めて会った時には、少し真面目すぎるような印象もあったソフィアが、

目を輝かせるのが見えた。


それから、ソフィアとは空いた時間にたくさんの話をした。

私が元いた世界の物語やそこで語られる魔法、

そして物語ではない、日常の出来事や、こことは違う習慣、食べ物など。


もちろん、ソフィアからもこの世界について、たくさんのことを教わった。

魔法について、召喚について、これまで生きてきた日々について。

・・・私達も魔族との戦いに参加するようになってからは、

こんな魔法を実戦で使えるか、なんて話も多くなってしまったけれど。



これから私達が放つのは、その時に二人で考えたものだ。

強大な魔族と対峙することになった時、切り札になりうる大技として。


私の知る物語の一つで、魔王に立ち向かう勇者だけが使える魔法がある。

またある物語では、それに連なる技を仲間達全員で放つことが出来る。

・・・全員分の行動ターンを消費してしまうから、作品を楽しむ側の評判は、

あまり良くなかった気もするけれど。


現に私達も、結構な労力と時間稼ぎを必要としているけれど、

大技を使うには、それなりの準備が必要ということだろう。



「皆さん、相手から距離を。結界の準備をしてください!」

ソフィアの声に、騎士団と神官の皆がうなずく。


「アクエ! アエル!」

水の精霊、そして風の精霊が作り出したものが、空へと上がってゆく。

そして、魔族の長へと放たれたのは・・・水の塊。


「・・・なんじゃ、不発か?

 それとも、魔族われらが水に溶けるという迷信でもあるのか?

 だとすれば、見当違いも甚だしいが。」

最初は降って来たものを警戒する素振りがあったが、

今は体が濡れることを気にせず、魔族の長が嘲るように笑う。


・・・それでいい、こちらの狙い通りだ。


「ソフィア!」

「はい!」

聖なる光が空へ放たれる。

力をそちらに振り向けたことで、認識阻害は解除され、

ばちばちと音を立てる雷雲が姿を現す。


「なっ!?」

魔族の長が目を見開くが、もう遅い。

ただの自然現象としても、標的に迫る速さ、そして威力は計り知れないものだ。


「行きます!」

「落ちろっ!!」

ソフィアの聖なる光を乗せた雷が、魔族の長に直撃する。

全身に纏わせた水が、その威力を隈無く伝えてゆく。


「ぐわああああっ!!」

私達の渾身の一撃を受けて、魔族の長はついに地面へと倒れ伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る