異世界渡りの召喚士少女
孤兎葉野 あや
第1話 召喚!
「
私の声に応え、火の精霊が顕現する。
その力で作り出された、いくつもの小さな火球が周囲に浮かぶ。
相対するのは、狂暴そうな猟犬に似た数体の魔物。
ぐるると唸り声を上げ、今にも私に飛び掛かろうとしている。
だけど、恐れることはない。
「イグニ、敵を焼いて!」
「!!」
私の意思に従い、いくつもの火球が魔物達を襲う。
直撃を受けたものは消え去り、残りは尻尾を巻いて逃げて行った。
「っと、まだまだかな。」
少し距離を置いた向こうから、土煙がこちらへ近付いてくる。
目を凝らせば、勢いよく駆ける猪に似た魔物が見えた。
もしも直撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。
「
私が召喚するのは、土の精霊。
その力を借りて、周囲の大地に魔力を張り巡らせる。
「来たね・・・お願い、イアス!」
「!!」
猪の魔物が突進してくるのを見極め、その足元の地面を隆起させる。
自分自身の勢いも込みで、宙へと跳ね上げられた魔物は、
続けて落下地点にせり上がった、硬く鋭い土の棘に頭から衝突し、姿を消した。
「っと、今度は魔法か。炎だなんて、さっきのお返し?」
別の方向を見やれば、炎が意志を持ったような魔物が、
その身体から想像される通り、火の魔法を発動し、こちらに放とうとしている。
「
水の精霊を呼び出し、こちらも真っ向からぶつかる用意をする。
あの炎の魔物は、精霊に近いタイプだ。
こちらへ放ってくる魔法ごと、消し飛ばしてしまえばいい。
「アクエ、撃って!」
やがて飛来してきた火球に、水流を撃ち返す。
魔力そのもので余程押し負けない限り、このぶつかり合いはこちらが有利だ。
火球を消し飛ばした水流が、そのまま先にいる魔物を消滅させた。
「おっと、大きいのが出てきたね。これは注意が必要かな。」
見上げるような樹の魔物が、根と呼ぶべきか足と呼ぶべきか、
判断のつかないものを動かし、ずるずるとこちらにやって来る。
「
この手の魔物が得意とすることを思い浮かべ、風の精霊を呼び出す。
私の周囲に風が舞い始め、ふっと力を込めれば、刃のような鋭さを纏う。
「・・・! 切り裂いて、アエル!」
予想通り、枝葉を伸ばして私を絡め取ろうとしてきた魔物に、
風の刃を放ち、切り裂いてゆく。
葉のほうにも何か効果があるかもしれないから、全部吹き飛ばす。
元いた世界では、女の子がこういうのに捕まって・・・みたいな話が、
多くあった気がするけど、この私をそんな展開に巻き込むことは許さない。
「!!!」
おっと、枝葉を切り裂いたとはいえ、まだ本体を叩いたわけではなかった。
じりじりとこちらへ前進してくる。
もう一度イグニを召喚して、焼き払うか・・・いや、その必要は無さそうだ。
彼女が後ろから見守ってくれているのは、ずっと感じていた。
光の線が走り、跡形もなく魔物を消し去る。
振り返れば、私に向けて微笑む顔が・・・
ふっと消えた。残された私は、暗闇の中に一人きり。
待って、どこへ行ったの。一緒に・・・・・・
*****
ぼんやりと目を開ければ、辺りは薄暗い。
どうやら、夢を見ていたようだ。
・・・夜営の天幕に、一人きりでいる状況は同じだけど。
「それにしても、ごちゃごちゃした夢だったなあ・・・
こっちに召喚されてから、戦ってきた時のハイライト集みたいな。
いや、その前にやってたゲームとかも混じってるかな。
・・・うん、最後のはきっと、疲れてるだけだよね。」
頭を整理したくて、独り言が漏れる。
天幕の隙間から外の様子を伺えば、ちょうど夜明けを迎える頃だ。
元いた世界であれば、もう一眠りというところだけど、今はもう起きる時間。
この身体も、すっかり慣れてしまったらしい。
耳を澄ませば、気の早い誰かが、朝食の準備を始めている気配がある。
私も簡単に身支度を整えて、天幕の外へ出た。
「おはようございます、アカリ様。」
真っ先に飛び込んでくるのは、見慣れた笑顔。
長い金色の髪と、神官であることを示す装飾付きの服が、朝日に輝いて見える。
「おはよう、ソフィア。」
この世界で最も親しいと言える彼女に、私も自然と微笑んで返した。
だけど、そんなソフィアでさえも、
私に『様』付けというのは、いつまで経っても慣れない。
敬語なんて必要ないと、伝えてみたことはあるけれど、
今の私は、この国が助けを求めて召喚された存在だから、
敬わないと示しがつかないのだそうだ。
元いた世界では、普通の女子高生だったんだけどなあ・・・
あれ・・・? なんだろう。
『あんたのどこが普通なのよ! 昔から喧嘩で一度も負けたこと無いし、
真面目に部活でもやれば、すぐに全国レベルだって、
何度も言われてるでしょうが!』
って、幼馴染みの声が聞こえた気がする。
いや、本当に世界の境を越えて言われてるわけじゃなくて、
前に似たようなことを話してた時の記憶だよね、これは。
そんなことを思いながら、私に続いて起きてきた騎士団や、
ソフィアの同僚でもある神官の人達と挨拶を交わしてゆく。
当然のように、全員が『アカリ様』と呼んでくる、いつも通りの朝に、
心の中で、少しだけため息をついた。
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