【超短編】届かなかった手紙展

茄子色ミヤビ

【超短編】届かなかった手紙展

 この企画はとある高校生のSNSへの投稿から始まった。

『死んだじいちゃんの、鍵付きの机の引き出しから発見。祖母ちゃんへラブレター出せなかったじいちゃん可愛い&字達筆すぎてw ばあちゃんお仏壇にお供えしといた』

 投稿は手紙の写真と共にされ、その熱いラブレターは世界中に公開された。実にその枚数は10枚。一回で書かれたものではなく、どうも何年かに一度書いたものらしかった。

 さらにこれを面白がった人たちがもこれを英語翻訳し、世界中でこれが読まれた。

 そして、これに目をつけた出版社が『届かなかった手紙展』を開催する運びとなった。

 しかしご遺族の許可や、そもそも思い入れが深いものを貸して頂ける方は少ないと予想し、当初は小規模の会場を用意していたのだが…思いのほか「どうぞ展示してください」との送られてきた数は実に100を越え、会場の規模を変更。

 そして送り主からの文には「綺麗な状態で返送していただければ結構です。皆様に楽しんでもらってください」「受け取るほうも送るほうも死んじゃってるし、好きに使ってください」と非常にフランクな手紙が添えられているものも多かったので、会場は美術館の一部ではなく、イベントスペースを借りて行うことにした。さらに海外からの問い合わせも多く、タブレットによる画像展示の提案も投稿者本人からあったことから、企画者はその対応に追われた。

 そして『届かなかった手紙展』は開催された。


『女学生時代の祖母が、初恋の人へ書いた手紙』

『ある詩人が恋した、年上の娼婦への手紙』

『堅物の政治家が秘書へ向けた無骨な感謝の手紙』

など来場者がくすぐったくなるようなブースから始まり

『戦場で見つかったカバンの中にあった家族への手紙』

『沈む船の中での走り書きの手紙』

『受け取りを拒否された、死刑囚の父からの手紙』


 など涙なしでは見ることのできないブース、そして『性癖の告白』などの18禁ブースが設けられ、多くの来場者が涙を流し、笑い、顔を赤らめたりした。

 当初予想されていた来場者数を大きく上回り、さらに開催期間は一か月から半年に延長され、電車のパッケージに手紙の一部を使用した広告が打たれるなどして、来場者数はさらに増えた。


 しかし、そんな中この会場ではトラブルが絶えなかった。

 自動ドアが開かなくなったり、替えたばかりの電灯がチカチカと点滅したりするまでは良かったのだが…開催期間が長引くにつれ展示ケースにヒビが入ったり、体調を崩すスタッフや来場者が続出。

 オカルト的なことは一切信じない主催者であったが、体裁を整えるためにも臨時休業日を設け有名な神社の神主にお祓いを頼むことにした。

 そしてその日はやってきた。

 やってきたのは背筋がしゃんと伸びた1人の老人と三人の女性だった。

 正装に着替えた彼らは必要な荷物を持ち、会場に入ってきたのだが…入り口に着くなり全員がバタリと白目を剥いて倒れた。

 近くにいた企画スタッフが慌てて駆け寄るも、巫女は意識を失い一切動かず、神主は全身を痙攣させ細かい泡を吹いていた。

 そして神主の口の奥から「勝手に他人が読むな」という意味の様々な言語が同時に流れ、神主もぱたりと動かなくなった。



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【超短編】届かなかった手紙展 茄子色ミヤビ @aosun

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