騎士爵領立志編3ー8


 温泉宿の一室、ジャスパーは見張りを付けられ、部屋に軟禁されたいた。


 気配は扉の前に二人と窓の外にも二人か! くそっ何故だ、何故私がこんな目に遭わねばならんのだ!! 全てはあの擬い物まがいものの所為だ・・・アメリア様は騙されているのだ、私が救って差し上げば・・・


 ジャスパーは、部屋の外で自身を見張っている近衛に、声を張る。


「おい! 誰かいるのであろう! 私を早く此処から出すんだ。このままでは、アメリア様があの擬い物まがいものに良い様に使われるぞ!」


 返事は返ってこない。ジャスパーは更に苛立ちを募らせる。


「聞いているのか!やはり第三近衛騎士団など出涸らしの為に作られた部隊には私の言葉は伝わらんか!」


 その言葉に扉の向こうから見張りをしていた近衛が怒声を上げた。


「ジャスパー殿、その発言撤回して頂きたい!アメリア様の意思を汲み取らず、不利益を与る事をしておいて何を今更!」


「アメリア様の為を思ってやっているのだ! 私を此処から出せ。命令だ!」


「貴方はもう、近衛隊長の任を解かれているんだ!我々に命令する権利はない!」


 ジャスパーと近衛、双方の怒声が激しくなり見かねたもう一人の近衛が声を上げる。


「おい、ジャスパー殿とは話をするなと言われているだろう」


「そうだった、あまりの言い方に我慢できなかった・・・すまぬ」


 近衛は、それからジャスパーがどれだけ罵倒しようとも、再び反論してくる事はなかった。


 くそっくそっ・・・どいつもこいつも無能な者なかりだ!何とかして此処を出なければ、私がアメリア様の伴侶となるのだ!・・・伴侶・・?


 ジャスパーの頭の中にノイズが走ったように、断片的に過去の記憶が思い出される。人払いされた部屋で第二王子殿下から、何かを渡された気がする・・・



 王宮内、第二王子私室


 その日ジャスパーは第二王子殿下に呼び出されていた。


 カーテンが閉め切られ、薄暗い部屋の中で椅子に一人の子供が座っていた。この国の第二王子である。


 ジャスパーは跪き第二王子の言葉を待っている。

  

「ジャスパー、君はアメリア姉様の伴侶になるんだ」


「私がですか?私ではアメリア様とは釣り合いません」


「そんな事ないさ、姉様はジャスパーの事を子供の頃から好きだったんだよ?」


「アメリア様が私などを・・・?」


 私は確かに昔からアメリア様をお慕いしているが・・・私には魔力量が無い・・・地位もない、どうにもならないのだ


「ジャスパー、実はアメリア姉様が王国東部、スカーレット領の開拓村に、視察に行く事になった」


 ジャスパーは急な話に理解が追い付かない。


「それに何か問題があるのでしょうか? 確かにあの擬い物まがいものには、二年程前から良からぬ噂が立っていますが、私が擬い物まがいものを糾弾しようと、独自に調べた所、ターナー卿が腹いせで流した物だと報告が上がっております」


「ジャスパー殿、騙されてはいけない! スカーレット家は危険なんだ。あの擬い物まがいものには子供がいてね、大層女好きらしくて何でも女を誑かして侍らせているらしいんだ」


「アメリア様が、その様な者に誑かされるなどありえないかと・・・それにその話が何故スカーレット家が危険という話に?」


 第二王子がジャスパーに歩み寄る。


「何でも、不思議な加護を持っているかも知れないって報告があってね? もしかしたら君の手の者が聞いた相手も・・・・ねぇ?」


 ジャスパーは、その様な加護など聞いた事など無かったが、第二王子ともあろうお人に入っている情報が嘘だとも思えなかった。

 

 「その様な加護が有るのですか・・・?」


 第二王子は嬉しそうに微笑み指を鳴らした。

 その瞬間、ジャスパーの背後から人の気配がした。


 ジャスパーが慌てて後を振り向くと、灰の髪に金の瞳、右目には眼帯を付けた男が跪き、青色の小瓶を差し出してきた。

 その男の全ての指には、銀に輝く指輪が嵌められていた。


「ジャスパー様、第二王子殿下の命により貴方様を今度の視察部隊の隊長になる様、手を打ちました。後は此方をお飲みください。これで人心を惑わせる、悪きあしき加護に対抗する事が可能になります。

 貴方様がアメリア様を救うのです!」


 ジャスパーはその言葉を聞き、その未来を想像したのか「私が・・・アメリア様を救う・・・」と呟き瓶を受け取ると、蓋を開け一気に飲み干した。


 ジャスパーはその瞬間目が虚になり、第二王子を見ている。

それを見て、第二王子は満足そうに笑みを浮かべている。

 

「ジャスパーよく聞くんだ、君はアメリア姉上の伴侶になるんだ」


「私はアメリア様の伴侶になる・・・」


「そうだ、そしてそれを邪魔する者がいる。ユウリ・スカーレットだ。そいつはアメリア姉様を加護で操り、君から奪おうとしているんだ! そんな奴は居なくなって貰わないと・・・ねぇ?」


「アメリア様を守るんだ・・・擬い物まがいものを殺さないと、私のアメリアを奪わせは・・・しない」


 呟く様なジャスパーの言葉を聞き、第二王子が嬉しそうに“パンッ“と手を一回叩くとジャスパーの目が元に戻った。


 ジャスパーは笑みを浮かべ、口を開く。


「殿下、私めが必ず擬い物まがいものを亡き者にし、アメリア様をお救い致します!」


 第二王子が、それを聞き指を鳴らした。

 隣の眼帯の男が一本の剣と赤い小瓶を二つ手渡してきた。


「その剣は魔剣だよ、汎用では有るんだが魔力は込められている、使い方は分かるね?」


「勿論です・・・これさえあれば!所でこの瓶は?」


「それはもしもアメリア姉様が、擬い物まがいものに操られていると思ったら飲ませるといい。きっと状況が変わるはずさ」


 第二王子の体から魔力が溢れ、目が青く輝く。ジャスパーはその目を見ると意識を失い床に倒れた。


 

 

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