記憶のハコニワ-小説版-

村上紫音

序章 -無の図書館-

プロローグ -迷い込んだ一人の旅人-

「ふぅ...今日も疲れたなぁ...。」

今日も私は旅に出ていた。何にもない場所を、ひたすら歩いて、ひたすら休んで、ひたすら進む、そんな時間の無駄すぎる歩き長旅をしていた。

私はただの旅人なので、野宿か借宿に泊まるか、どっちかだ。幸い、お金だけはこの日のために稼いでおいたものがあるから、簡単には尽きないと思う。

でも、やはりいつかはとびっきりの癒しを受けたい。身体が疼く。

それでも私は進む。何があったって。

「あれ...?街に出たみたい。」

「ここら辺って街あったっけ...?」

歩いてるうちに、見知らぬ街に入った。

でも、何かがおかしい...。

「おらああ、ここでだらしなく眠っとけ!」

「!?」

怖い怖い怖い。なんだこの物騒な街は。事件の予感がぷんぷんするじゃないか。

とりあえず、私は声が聞こえた方向に向かって突き進んだ。

「おらあああっ!!」

「ふごっ!?ぐっ!?」

現場はとっても残酷なものだった。私のような旅人が、ヤンキーのような人にボコボコにされていた。

逃げないと。そう思ったのはもう遅かった。

「おい貴様、何見とるんだゴラァ?」

「わわっ!?」

捕まった。最悪だ。見てただけで何も写してないのに。私は無実なのに。

「盗み見してたやつはここで寝てもらおうか?クソ野郎!」

「クソ野郎がどっちだよ...ふぐっ!?」

「んんん〜っ!!」

話せない...口封じされた...。

「さあ、おとなしく気絶しやがれ!」

「んっ!?」

「ごほっ...ごぼっ...」

一撃は強かった。一瞬で刈り取られてしまった。

意識が遠のいていく。それと同時に、何かに包まれていくような何かを感じる...。

そして、ゆっくり、ゆっくりと落ちていく...。

この感覚は一体...?


_________________________________________


「...。」

一体、どうなっているんだ。私はどこへたどり着いたのだろうか。

___意識を戻すために踏ん張るが、なかなか戻せない...。なぜだ...?

「...?」

ようやく意識が戻せた。私に何が起きているのか。

「...ん...?」

「なんだ...ここ?」

辺り一面、何もない草原だった。

この世界は、一体...?

だが、私は生きている。それだけ確認できたのなら、幸いだ。

「ようやく、目覚めたようね。」

「はっ!?」

世界を見渡していると、突然一人の可愛いらしい黄色い帽子を被った女性が話しかけてきた。

思わず私ははっと驚いてしまった。

「君は...誰...?」

「私はこの世界の住人、『三合良神実』だよ。」

「そしてここは君の記憶の世界。君の記憶は、ここに全て保管される。」

「要は、君だけの記憶の『ハコニワ』だね。」

どうやらここは私の記憶世界のようだ。

あると信じてはいたが、本当にあるなんて思ってもいなかった。

だが、私の記憶が保存されている場所が見当たらない。なぜだ...?

「なんでなんもないの?」

「...おかしいわね、ここには前に大きな図書館があってその周りに町があって賑わってたのに。」

(平然と言っていてなんで今まで気づかなかったんだ?)

思わず言葉が漏れそうだった。危ないところだった。

「辺りを見回って、何かあるか見てみましょう。」

「...何かあれば良いのだが...。」


続く。

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