第205話 第29階層 翔真
21階層から広がる砂漠エリアは、その名に恥じない殺風景な様子であった。見渡す限り砂砂砂。境界線なんてありはしない。こういう簡素な迷宮こそ、踏破するのは大変なんだよなぁ? グラフィッカーの手抜きじゃないの? 思わず、苦情を入れたくなる程に延々とスクロールする砂漠の風景。暑さと魔物で、此方の体力は徐々に奪われてしまう。灼熱の日差しは身体中の水分を蒸発させ、僅か数分足らずの行軍でも足がよろける程に消耗するだろう。
今までのがチュートリアルだったと言わんばかりの難易度だ。ABYSSは20階層からが本番である。原作知識で知っていたが、実際に自分の肉体で経験するのは、中々の苦行であった。
出現する魔物は、サンドワームにマンティコア。デザートジョーズ、ヒトクイドリにマミーの五種だね。レア個体にはサボテンボムとかいるけれど、今回僕は遭遇してない。中ボス枠として襲い掛かって来たのはワイバーン。こいつが中々強かった……26階層を進んでいた時に出現したんだけど、倒すのに結構な時間が掛かっちゃったよ。やっぱ、飛行系の敵はズルいよね?
今回僕は、様々な武器種で砂漠エリアに挑んでいた。オーソドックスな片手剣。飛行する敵には弓矢を使い、接近戦が危険な相手には槍を用い、表皮が硬い敵には大剣を振り被る。状況に合わせた装備の選択こそ、
……とは言え、しんどい!!
次元収納には限りがある。受付で課金して収納容量を拡張していた僕だが、それでもまだまだ足りていない。水や食料、探索する上で必要になるであろうアイテムのスペースに、持ち帰る素材の空きを考えると、一人分の収納スペースで全てを賄うのは、中々厳しいものがある。レガシオンがチーム前提のゲームと言われている所以が、此処にも現れているって感じだね。
必然的に、足は遅くなる。
此処まで来るのに1ヶ月は掛かっちゃったよ。
まぁ……辿り着いたから良かったけどね。
「暑ちぃ……くっそ、やっとかぁ……ッ!」
身体に塗った特殊クリームがベトベトして気持ち悪い。要は強力な日焼け止めなんだけど、汗で流れていくから、効果を持続させるのが大変なのだ。度々塗り直さなきゃいけないし、放置していたら、紫外線で死んでしまう。
「面倒な作業も、これで終わりだ……!」
僕は目の前に浮遊する転移石を見詰めながら、呟いた。1階層を更新するのに10時間掛かってしまった。朝の9時に出発して、現在時刻が午後の7時。原作知識を持つ僕でさえこのスピードだ。殆どの探索者は泊まり込みで進むしか無いだろう。今までがサクサクと進み過ぎていたのかも知れないが、ギャップが凄まじい。
「そりゃあ皆、リタイアするよな……?」
30階層を攻略出来た探索者は、限られている。アカデミーでも踏破しているのは我道率いる2-Aと、天樹院率いる3-Aだけだ。他は行っても29階まで。……分かるか? 全学年を通して、僅か二教室しか突破出来ていないのだ。
初めてコレを聞いた時、僕は「何てレベルが低いんだろう」と、侮ってたっけなぁ?
実際に攻略してみて、分かったよ。
こりゃあ……無理だ。
耐熱装備に身を包んでも、効果は薄い。一番効果的な手段が特殊クリームを塗る事だろう? 余りにも原始的な解決方法だ。我慢は必須だし、1日中サウナに居て生活する気合が無ければ、砂漠エリアを踏破する事は不可能だろう。
D組の生徒に、ソレが有るかと言うと――
「微妙だな……」
何人かは、このままリタイアだろう。
林なんかは絶対無理だ。
進む生徒と残る生徒で、教室内は二分するだろう。そうなって来ると、今度は人手が足りなくなる。三竦みの役割を維持しつつ、
D組と協力関係を結べる教室……か。
駄目だな……僕には思い付かない……。
「――ていうか、何でこんな時までクラスの事何か考えてるんだ? 目の前には転移石があるんだぞ? ……昔の僕なら、考えられないね?」
或いは、コレが成長か? プレイヤーとしては退化している様な気もするけど――
「ま、言ってても仕方が無い」
僕は自身の
待ち受けるのは、確か――
「魔神・ギルタブリルか……」
元ネタはバビロニア神話だったかな?
人と蠍を合体させた様な容姿をしている。かの有名なギルガメッシュ叙事詩にも登場し、主役のギルガメッシュをビビらせていたらしい。
僕も、レガシオンに登場したから調べてみたが、逆に言うとその程度の知識しかなかった。ゲーム中では即死効果を持つ邪眼を多用してたっけかな? 原典では死神の様な姿と言われていたから、そこから取った能力なのだろう。以前までの大型の階層主とは毛色が違い、完全に人型サイズだから、攻撃が当て難くて面倒だった記憶がある。対階層主と言うよりも、対プレイヤーと言った感覚で挑む敵だったな?
……プレイヤー、か。
転移の光に包まれながら、僕はイーフリートを。そして、アトラナータの最期を思い出す。
「この戦いで、何か分かれば良いんだが――」
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