第163話 謎の少女の来訪②
「……本当だ。決闘は6月2日の天武祭の中で行われるらしい。詳しい内容は、まだ知らない」
僕はあっさりと白状した。
隠し立てをしても仕方が無いからね。
「6月? ……成程、御前試合か」
「御前試合?」
「天武祭というのは期間を問わずに常に開かれている催し物なんだけれど、6月に至ってはその趣きが少し変わってくるんだよ」
「……何か、全国放送されるとか?」
天樹院に問い掛けると、奴は無言で頷いた。
「征夷大将軍・
「あ? ん? ……えーっと、待った! まず、坂上田村麻呂? 征夷大将軍がABYSSに出兵したって話から詳しく聞いておこうか? そこんとこの歴史の話とか、僕は詳しくは無いんだよ……」
「……別に良いけど、長くなるよ?」
「……簡潔に頼む」
僕が肩を落として頼み込むと、天樹院の奴は「仕方が無いなぁ」と、微笑んだ。
「征夷大将軍の役職は、本来なら
「と言うと?」
「蝦夷征伐は行われなかったって事だよ」
「うん?」
ちょっと、言ってる意味が分かりませんね?
「五畿七道の一つ、武蔵国に出現したABYSSは一時的に朝廷の管轄下に置かれた。初めは薄気味悪がられていたABYSSだったけれど、産出された資源が莫大な富を産む事を知った諸大名は、ソレを独占する朝廷に不満を抱いたんだ」
「……まぁ、金は人を狂わせるって言うしな? それで、不満を持った奴等はどうしたんだ? 反乱でも起こしたのか?」
「――正解。平安期は今よりも欲に素直な人間が多かったからね? 後先考えない彼等は勝手にABYSSに進軍しては、採れた資源を他所に売り飛ばしたりと、やりたい放題だったらしい。朝廷も蝦夷にかまけている場合じゃ無くなった。編成した軍勢をそのままに、ABYSSへと向けて進軍を開始。そうして、田村麻呂率いる軍勢が此れを掌握。以降はもっと積極的にABYSS探索を行っていったんだ。後の探索者の前身だね? 発展を続ける畿内を見て、蝦夷の大名達は朝廷への服従を決意する事になったのさ」
「ほぇ〜」
思わぬ歴史の授業となってしまった。はて、何かを忘れている様な……? 僕の疑問に答える様に、天樹院が話の続きを進めてくれた。
「征夷大将軍については以上だよ。この世界では朝廷……公家が力を持っている事は理解出来たよね? 考査というのは彼等が抱える武家の品定めの事さ。彼等にも派閥というものがあってね。抱えた武家の力によって、公家の進退が変わってくると言っても過言ではない」
「は? 何だ……? つまりは政治的なアレコレとか、そういう話か?」
「生々しいけど、そういう事だね。生徒同士の単純な力量を計る天武祭は、勢力拡大を図る公家にとっては、格好のイベントなんだよ」
「ぜ、全国放送にしたのは……?」
「大規模なイベントにすれば、参加する生徒達だって増えるでしょ? それと――見栄かな。自身が抱える事になる武家の武威を、これでもかと他家に知らしめたいんだよ。連中、そう言った事には手間を惜しまないからね……」
「……」
天樹院の説明で、分かってしまった――
今現在、僕を苦しめているのはこの国の公家連中だ。奴等がどうでも良い派閥争い何かをしているから、全国放送なんてアホな事を思い付くんだ。考査だか何だか知らんが、上から目線なのも気に食わない。僕は誰かに評価されるのが嫌いなんだ。自分の価値は自分で決める。それが僕の信念である。
「……君が評価された場合は、すぐに石瑠家の当主に成れると思うよ?」
「え? ――な、何で!?」
「その家の当主に就く条件は、従五位以上の位階を持つ後見人が必要なんだ。翔真君を万全に抱き込むなら、公家が後見人になるのが手っ取り早い。当主の代替りとか、本来なら親類の誰かが後見人を務めるものなんだけれど、現在の石瑠家当主は正六位に降格させられているからね。翔真君が家を継ぐのは不可能。それどころか外部の家の力を借りられなければ、石瑠家は取り潰しの危険性だってある。君に恩を着せられるし、首輪も出来て一石二鳥という事さ」
「首輪って……?」
「後見人が失脚した場合は、従属する武家にも類が及ぶのが殆どだからね。例外は――見た事が無いかな? 下手を打てば諸共死罪の可能性だってある。当然、武家である君は裏切れない。君は、立場と共に絶対服従を強いられるのさ」
「……こ、後見人を拒否する事は?」
「出来るけど、お勧めはしないね。大体の場合プライドが高い連中だから、下手に断ったら恨みを買う危険性がある。権力者を敵に回すのは厄介だよ? 公共機関の利用の禁止とか、有りとあらゆる嫌がらせをしてくる。過激な相手だと蔵に閉じ込めたまま拷問とか? 警察なんて介入しないよ? むしろ、公務員は敵だと思った方が良い。一生を檻の中で過ごしたくなければ、下手な真似は止めておいた方が賢明だと思う」
天樹院の脅しに、僕は顔を青くする。
……流石に良い過ぎじゃね? って思うけれど、他でも無い、天樹院の言う事だから信憑性が出て来てしまう。公家かぁ……原作でも碌でもない連中だって、描写されてたもんな?
魔種混交を迫害してるのもコイツらだ。
無関係の人間を死に追い遣ったという罪はあれど、原作の天樹院が魔種混交に加担して、世界を引っ繰り返そうとした気持ちは分からないでも無いんだよな……? 実際、もっと非人道的な事をやってる連中だしね。原作レガシオンでは、ストーリー上で朝廷の腐敗について完全ノータッチだったのが気に食わない部分である。
「――そう言った危険性がある訳だけれど、それでも君は、我道さんと決闘をするの?」
「……」
天樹院が、試す様に僕を見る。
答えは既に決まっていた。
「……一度決めちゃった事だからねー? やるよ。やるやる。我道の奴と決闘する」
自分でも馬鹿な事をしているという自覚はある。……でも仕方が無いじゃん? これが僕の性格なんだもん。意固地で天邪鬼な人間嫌い。それが僕だ。――胸を張って、何が悪い。
「……一応言っておくと、代理人を立てるという選択肢も君にはあるからね?」
「は? 代理人?」
「代わりに出場する誰かを見繕えば、君が天武祭に参加しなくとも構わないって事さ」
天樹院は、とんでもない事を言い出した。
てか、誰かって誰だよ? 我道との決闘に代理出場してくれる相手なんて誰もいないだろ!?
そう、思っていたのだけれど……。
「今回の件は、生徒会の役員を御せなかった会長の責任でもあるからね? 君の代わりに、僕が我道さんを倒しても構わないよ?」
言って、自ら代理人として立候補してきた天樹院。……そりゃあ、コイツが出れば勝ち確だとは思うけれど……?
「それって、本当にアリなのか……?」
「ルール上は問題無いよ。天武祭に於いては試合が成立しない方が問題だと言われているんだ。探索者である以上、様々な理由で欠場するパターンがあるでしょ? それを無くそうとして、我道さん本人が作ったルールだからね?」
「……良くもそんなルールが罷り通ったな? 代理人を立てたとしても、報酬自体がショボいから悪用する手合いも少ないってか?」
天樹院は「正解」と言って、微笑んだ。
「……魅力的な提案だけど、お前に借りは作りたく無い。言った通り、僕自身が出場する」
「やる気があるのは結構だけど……全国中継がなされている中、君は満足に戦えるのかい?」
「……一応、秘策はあるさ」
「秘策?」
毎度お馴染みのアイテム頼り。詳しい事は当日のお楽しみという事にしておこう。
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