第150話 観戦する1年生


 クラス対抗戦のルールは、1年生が行ったものと変わりは無かった。唯一の変更点と言えば、各生徒に腕章が配布された事だろう。腕章にはA〜Dのアルファベットが記入されており、パッと見て生徒の所属教室が把握出来る様にされていた。恐らくは観客側への配慮だろう。1年生の時は各生徒が入り乱れていたから、傍目からは分かり難かったのかも知れない。


 ルールが同じという事は、各教室の立ち回りも前回からは変わってくる。


 特に目立ったのは、A〜D組の総合力最下位のPTが対抗戦開始と同時に棄権した事だろう。脱落者として構造体の外へと戻って来た彼等は、急ぎ観戦席へと駆け出している。


 1-Aの、天使十紀亞が僕にやった手だな?


 一部の生徒が構造体を俯瞰し、所属教室に敵の位置を知らせる。下位の生徒に斥候役をやらせるというのも理に適っているな? 観戦していた先輩方は1年生の戦法を学習し、この対抗戦に取り入れているのだろう。


 複雑だけど、有効的だ。



「……やはり、上手いな」


「先輩達の立ち回りだよな?」


「あぁ。戦闘続行が不可能と見るや、すぐさま撤退を行なっている」


「常に同じ陣営の複数のPTを近くに入れて、互いにカバーが出来る様な位置取りを心掛けている……俺達には、出来なかった事だ……」



 相葉と神崎が、2年生の立ち回りを観察しながら己の行動を振り返っている。


 他の皆も同様だ。



「あーあー。な〜んでアレが俺達に出来なかったんだろうなぁ〜?」


「……やはり、練度不足だろう」



 鈴木の情けない呟きに、番馬が簡潔な答えを出す。身も蓋もないが――まぁそういう事だ。



「私達は、他のPTと合流する暇も無く、敵の攻撃に晒されてしまいましたわ」


「事前に狙われてたからでしょ?」


「――でも、仮に狙われてなくても厳しかったと思うよ? 私達、他の教室のPTと真正面からぶつかったら負けちゃうんだもん」


「実際、勝ってたのは石瑠だけだしね……」



 武者小路、紅羽、東雲、宇津巳の女子四人が、会話をしながら僕を見た。


 ……何か言わないといけないのかなぁ?


 仕方がない……。



「……レベル差があるからね。その時に勝てないのは仕方ないんじゃない? ただ、もっと上手く行動出来たんじゃないかなぁとは思うよ?」


「例えば?」



 身を乗り出して、宇津巳が問う。

 ここちょっと、報道部のさがが出ているね?



「例えば、緊急脱出を押す際の判断とか? 他の連中にも言えるけど、お前らは限界まで粘り過ぎなんだよ。……2年生を見てみれば分かるさ。大体が戦略上、足手纏いになると判断したら、すぐに緊急脱出を押してるだろ? アレが正解。クラス対抗戦は実戦を模している訳だから、演習感覚で行うイベントじゃ無いんだよ。お前らだって、ABYSSに潜ってる時はもっと慎重に行動するだろう? それと一緒だって」


「だが、それじゃ勝てない……!」



 歯を食い縛りながら、辛そうに呟く相葉。


 ……肩肘を張り過ぎなんだよな〜コイツ。


 もっと気楽に考えて欲しい。



「――敗北は糧になる。今の僕等が避けるべき事は、立ち上がれない程の痛手を負う事さ」


「……学習して、強くなれと言う事か?」


「ま、そういうこと」



 購入したキャラメルポップコーンをひとつまみしながら、僕は神崎に言ってやる。


 ん〜〜!! 甘くておいひ〜っ♪


 甘味を貪りながら観戦すること1時間。


 小競り合いを続けていた2年生達だが、此処に来て戦況が変わって来た。


 ――2-A。我道竜子が動いたのだ。



『うぉぉぉおおおお――ッ!!』



 それは正に竜の咆哮。


 雄叫びを上げながら敵陣へと突撃していく我道。千切っては投げ、千切っては投げの獅子奮迅の活躍で、2-Aのポイントが積まれていく。


 奴を止められる生徒は、誰もいない。


 ボーリングのピンの様に勢い良く吹き飛んでいく生徒達。次々に輝く転移の光。残された我道は戦場でたった一人、佇んでいた。


 その顔に、表情など何もない。


 いていた。

 唯、只管にいているのだろう。


 D組は全滅。C組は壊滅。B組は瀕死。


 彼女の敵など何処にもいない。


 その現実に――呆れ果てていた。



『我道――ッ!!』



 ――姉さんが、来るまでは。



「藍那さん……ッ!」


「……始まるのか!」



 紅羽と神崎が同時に声を出す。


 B組のPTメンバーと共に、その場に現れた石瑠藍那。待ち受ける我道はやれやれと言った風に両手を腰にして胸を張る。



『遅せぇんだよ……ばぁ〜〜か』


『!!』


『退屈な作業だったぜ……待たせた分、テメェの体で楽しませて貰うからな?』


『……楽しめるかどうかは保証しかねるな? 何せ貴様は、私が倒すのだから……ッ!』


『へぇ? 威勢が良いな? 口だけじゃない事を祈ってやるぜ。――さぁ、来な?』


『――ッ!!』



 瞬間、激突する両者。


 我道vs.藍那。


 その戦いが、今始まった――

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